人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。名作ゲームが生み出される過程には、現代にも応用できるビジネスヒントが隠されている!
開発中止寸前プロジェクトを引き継いで
開発中止になろうとしていた落ちものパズルゲーム「ど~みのす」のプロジェクトをうっかり引き受けてしまった米光一成。
状況をまったく知らず、どうにかなるだろうという甘い考えだった(詳しくは前の記事で)。
プログラマーは、「昨日から、別のプロジェクトに入りました!」。
グラフィックデザイナーは、「いや、もう次の絵を描いてますから」。
前任のディレクターはもう関わらないことになった。
つまり、稼働できるのは、まったく何もしらない米光だけ。新しくプロジェクトに入ったと思ったら孤独である。ぽつーん。
完成しているがおもしろくない
ひとまず、開発中の落ちものパズルゲーム「ど~みのす」を遊んでみる。
ダメだ。
「完成すればおもしろくなる」のなら目指す方向がはっきりする。どうにかプログラマーに時間を作ってもらって完成を目指せばいい。
だが、そんな状態ではなかった。
バグもなく、ちゃんと動く。落ちものパズルゲームとして最初から最後までしっかり動く。効果音も音楽も入っている。完成している。完成しているのにおもしろくない。
プログラマーの田中くんと話してみる。
「そうなんですよ、おもしろくならないんですよねぇ」
いままでも、あれこれ改善してみたが、どうにもこうにもおもしろくならない。
「基本的なシステムは完成しているんで、パラメータ調整とか、ちょっとした変更なら、いまやってるプロジェクトの合間にやりますよ」
と言ってくれる。
でも、表情は暗い。いつも明るい田中くんなのにトーンが低い。もうあまり関わりたくない、次のプロジェクトのほうが楽しいと思ってることが伝わってくる。
敗戦処理をまかされたとき
当然だ。
おもしろくならないゲームを作り続けるのは、とてもつらい。開発期間もオーバーして周囲の目も厳しい。
しかも、ディレクションをする人物が変わってテコ入れだ。
やりたいわけがない。
「パラメータ調整とか、ちょっとした変更なら、いまやってるプロジェクトの合間にやりますよ」と言ってくれるだけで感謝だ。
だが、状況は最悪だ。ちょっとした変更? そんなことでおもしろくなるだろうか。
ここにきて、自分の状況がはっきりとわかった。
敗戦処理だ。ほぼ完成しているゲームを、もうちょっとマシな状況にしてとりあえず完成させる。状況が状況なので「まあ、(おもしろくなくても)それでいいよ」となるだろう。
ノレない仕事は全然進まない
「あー、敗戦処理だ」と思った瞬間から、まったく体が動かなくなる。これがぼくの最大の弱点でもあるのだが、ノレない仕事は全然進まないのだ。給料もらってるんだからやれよとも思う。
でも、おもしろくないけどマシなゲームなんて作りたくない。あーあーあーあー、ってなる。プログラマーの暗いトーンを思い出して、やりたくねーってなる。
翌日は、調子が悪いと言って休んだ。はっきり覚えてないけれど3日ぐらい休んだんじゃないか(金曜日休んで、土日だったのかもしれない)。
ファミコンの赤いボタン
ノレない仕事が全然できない人間なので、ノレない仕事はノレる仕事に変えるしかない。
だが、どうにかしてノレる仕事に変更できるような状況ではないことは、だんだんはっきりしてきた。
ならば、最終手段だ。
ファミリーコンピュータには赤いボタンがついている。右隅の赤いボタンがリセットボタンだ。行き詰まったら、リセットボタンを押せ。
月曜日。ぼくは決意して、プログラマーに言う。
「まったく新しい落ちものパズルゲームにしたい」
えええええー!と驚かれる。
「絶対おもしろくするから。リセットして、新しくやりなおす」
「いや、でも、もう新しいプロジェクトに取り掛かってるから」
「そのプロジェクトはしっかりやってもらって、その後、放課後的に30分だけ時間を取ってくれまいか」
これは、作戦だ。
“以前の状況を引きずって、暗いトーンで、少しマシなものを作る”なんてしたくない。
モチベーションの低いまま、何かをやってもロクなことにはならない。
これは、モチベーション回復のための作戦だ。
「まったく新しいプロジェクト」と宣言する。リセットする。
よりハードな状況になっているとも言えるが、まったく新しい気持ちでチャレンジするほうがモチベーションはあがる。
だが、もちろん「新しいプロジェクト」と宣言するだけで、相手が納得してくれるわけがない。
どのような新しいプロジェクトなのか。
ここから、3日間休んで考えた「ぷよぷよ」作戦をぶつけることになる。(続く)