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2023.07.09

名作「テトリス」と「コラムス」に見るアイデアの出し方、"0から1は作り出さない"

人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。名作ゲームが生み出される過程には、現代にも応用できるビジネスヒントが隠されている!

テトリスのこどもたち

セガから「コラムス」(1990年)が出る。ファミコンには「Dr.マリオ」(1990年)が出る。アタリから「KLAX」(1990年)が出る。

テトリスの製作者パジトノフも「ハットリス」というオヤジの頭に帽子を積み重ねる奇妙なゲームを出す。

すべて「テトリス」のこどもたちだ。

「テトリス」の出現は、衝撃だった。

ゲーム大好きな現場の開発陣がショックだったのは当然だが、経営陣もショックを受けていた。
ゲーム制作の規模は年々巨大化していた。それをどうコントロールすべきか。増え続ける開発費をどう回収すべきか。トラブルやリスクが肥大化していく開発管理をどうすべきか。

頭を悩ませ続けながらも、より巨大なゲームを作ろうと邁進してきたのに、こんな小さなゲームが売れるなんて。

これが売れるなら経営的な悩みはほとんど解決だ。
そうして「テトリスみたいなゲームを作れ!」という指令が発せられるのだ。

こうして、次々と「テトリス」のこどもたちが登場し、「テトリス」は"落ちものパズル"もしくは"落ちゲー"という一大ジャンルの始祖になった。

ものづくりは、「0から1を作り出す作業だ」とよく言われる。だが、そんなことはない。
「コラムス」「Dr.マリオ」「KLAX」「ハットリス」は、「テトリス」の影響下にある。
「テトリス」という巨人を、どう越えようかと思案して創られたゲームである。

テトリスはこうしてできた

その「テトリス」も、もとをただせば「ペントミノ」というパズルだ。

「ペントミノ」は、5つの正方形をつなげた12種類のピースを長方形の箱にピッタリと入れるパズル。
ダン・アッカーマンが書いたノンフィクション「テトリス・エフェクト」(白揚社)によると、テトリスの制作者パジトノフは、パズル「ペントミノ」が大好きだった。
そして、コンピュータで何かゲームを作ろうと思い立ったときに、彼は、この「ペントミノ」を移植しようとした。

5つの正方形からなるピースを4つの正方形に簡略化した「ペントミノ」を、コンピュータ上に再現したパズルだった。
パジトノフは、すぐに飽きた。もっと面白くならないだろうかと考えて、画面上から降ってくるようにした。アクション性を追加したのだ。

だが、横の列が埋まると無駄な空白ができたまま、ピースは積み重なっていく。これでは、あっという間に終わってゲームにならない。
そこで、パジトノフは横の列が埋まると、横一列のピースが消えるようにした。
こうやって「テトリス」の基本構造はできていった。

米光一成/Kazunari Yonemitsu
1964年広島県生まれ。大学卒業後、コンパイルに入社。現在でも人気の“落ちゲー”「ぷよぷよ」などのタイトルをリリース。その後、フリーランスとして、ゲーム制作ほか、デジタルハリウッド大学教授や、池袋コミュニティカレッジ講師なども。「はぁって言うゲーム」(幻冬舎)のほか、「あいうえバトル」「負けるな一茶」「いっしゅんジェスチャーはぁ?」「言いまちがい人狼」などをリリース。

アイデアのつくり方

ああ、辿っていくとなんて簡単なことのように思えるのだろう。「ペントミノ」から今の「テトリス」が生まれてくるのは必然のようにすら思えてくる。
だが、それは、我々がすでに「テトリス」を知っているからだ。コロンブスの卵だ。
ゲームづくりは決して0から1を生み出す作業ではない。
だが、だからこそ難しい。

『アイデアのつくり方』(ジェームス W.ヤング/CCCメディアハウス)という本がある。たった102ページ。字も大きいので1時間ぐらいで読めてしまう本だが、大ベストセラーであり大ロングセラーだ。
アイデア講座とかに行くと7割ぐらいの確率で引用される本でもある。古典的名著だ。
そして、引用されるフレーズは、ほぼこれ。

アイデアとは既存の要素の組み合わせである。

たしかに真理である。
アイデアを振り返ってみれば、何かと何かの組み合わせでしかない。
だが、何かと何かを組み合わせれば簡単にアイデアが出るというわけでもない。

組み合わせ爆発に溺れないために

「テトリス」のこどもたちもそうだ。

落ちものパズル+宝石で、ほら。「コラムス」ができました、という簡単なものじゃない。
「テトリス」はボタンでピースを回転させたのに対して、「コラムス」は3つの宝石の順番を入れ替えた。
「テトリス」は一列に並ぶことでピースを消えたが、「コラムス」は同じ色が並ぶことで消える。
しかも横一列に限らない。縦横斜め3つ同色が並ぶと消えた。

おもしろさのギアをあげるために、構造を引き継ぎながら、新しい仕掛けを組み込む。二番煎じにしないためにどう工夫するか。
さらに発展させ進化させていくための何かを探す。
その何かを発明しなければ、組み合わせ爆発(組み合わせによって指数関数的に計算量が増えてしまうこと)に溺れてしまうだろう。
膨大な数の組み合わせが生じるなかで、新たなるコンビネーションを見つける。
ゲーム作家たちは、それを七転八倒して考え抜くのだ。

■コラムスとは

セガ(当時・セガ・エンタープライゼス)の落ち物パズルゲーム。縦に並んだ宝石3個を操作、同色を3個直列させると消える。セガは、1988年にゲームセンター版の「テトリス」を大ヒットさせたが、権利関係の問題が生じて家庭用ゲーム機では出せなかった。「コラムス」は、1990年にゲームセンターに登場し、ほどなくして家庭用ゲーム機メガドライブ版もリリース。大ヒットした。

TEXT=米光一成

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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