デジタル全盛のこの時代に、大人から子供までジワリとブームを博しているアナログゲームがある。その名も「はぁって言うゲーム」だ。確かに、始めると何度もやりたくなる、面白さの真髄がつまったようなものなのだが、この快作を生み出したのが、なんとほかならぬ、一時代を築いた伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。本作を生み出した背景から、ヒット作を創造する思考法などなど、聞きたいあれこれをぶつけてみた。
その名を聞けば、こちらが「はぁ?」と言いたくなる奇天烈なゲーム
と、その前に、ちょっと説明が必要だろう。まずブームとなっている「はぁって言うゲーム」だが、なにしろ名前からしてふざけている。むしろこちらこそ「はぁ?」と言いたくなるほど。しかしながら実際、まさに「はぁ」と言うゲームなのだ。
のっけからよくわからないかもしれないが、ざっとゲームを説明したい。うまく伝わるだろうか。お題カードには、「お題」となるセリフが大きく書かれ、その下には、AからHまで選択肢として、そのセリフを言うシチュエーションが用意されている。
例えば、こんな感じ。お題が「はぁ」ならば、選択肢Aから降順で、A:なんで?の「はぁ」/B:力をためる「はぁ」/C:ぼうぜんの「はぁ」/D:感心の「はぁ」/E:怒りの「はぁ」/F:とぼけの「はぁ」/G:おどろきの「はぁ」/H:失恋の「はぁ」とカードに記されている。
「親」は、上記のようなAからHまでの選択肢のなかからひとつのお題を与えられ、この指示に従って指定のセリフを演じ、親以外の「子」が、どれを演じたのかを当てるというシンプルなゲームである。
例えば、B:力をためる「はぁ」を引いたならば、渾身の「はぁ」を繰り出すことになり、「子」はそれを見て、どれを演じたのか当てるのだ。さて、一体どの「はぁ」だったのか。
当然、お題カードはたくさんの種類があり、「はぁ」のほか、「さぁ」「うそ」「好き」などから、「自己紹介(自分の名前)」や顔芸のみというものまである。
そう。まさに「はぁって言うゲーム」。
このアナログゲームだが、縦15×横10×深さ3センチという実にコンパクトなサイズ。箱の中には、カードとチップが入るのみの非常にシンプルなものだ。それでも、前述した「お題」を追加すべく(これは、ハマると次から次へと新たな「お題」が欲しくなるのだ)、全4弾までリリースされているのも納得だ。
もちろん、本当の面白さはプレーしてみないとわからないので、ぜひとも家族や仲間と楽しんでいただきたい。あるいは、ちょっとビミョーな関係の集まりでも打ち解けるのには最適だと思う。
きっかけは、「あ、さみしっ!」と思う気持ちから
駆け足でゲームの紹介をした。ここからは、このゲームの魅力が伝わっているものとしての話となる。
実にシンプルなやりとりで面白さを生み出す。これは、米光さんの名を轟かせた伝説のテレビゲーム「ぷよぷよ」にしても同様。稀代のゲームメーカーによるヒット作は、どのようにして生まれたのか。その経緯は、まさに「ひょんなこと」からだった。
「池袋のカルチャーセンターで『ゲームづくり道場』なる講座の講師を長らく勤めているのですが、授業が終わると生徒さんたちとだいたい飲みに出たりするんです。居酒屋に行く途中、みんなすごく楽しそうにおしゃべりしているのに、なぜか僕だけがぽつーんとひとりになったときがあったんです。『あ、さみしっ!』って思って。みんなに構って欲しい、『好き』って言われたい(笑)。じゃあ、みんなから『好き』って言ってもらえるゲームを作ればいいんだって」
話の輪に加われないことは、誰しもあるが、ゲームによって加わろうとするのは、世界広しといえど、米光さんくらいのものだろう。紙切れに、現在のゲームと同じような「お題」を5個くらい記して、すぐにみんなでやってみることに。
「結構盛り上がったんですよ。これはゲームとしていけるなと手応えを感じましたね。で、その後、毎回、参加しているゲームマーケットで、インディーズ版を出品したんです」
ゲームマーケットというのは、東京ビッグサイトで年2回行われるゲームの祭典。プロからアマチュアまで、メジャーからインディーズまで、ありとあらゆるゲームが一堂に会するビッグイベントである。この出品が、ターニングポイントとなった。
「カード化して作ってたんですが、もたもたしてたら印刷の納期が間に合わなくなりそうで、じゃあどうしよう、ってんで見つけたのが、11枚綴りのコーヒーチケット印刷。ミシン目で切り取るアレです(笑)。こっちのほうが持ち運びも便利だってことで、そこにフォーマットを合わせよう、ってことでできたのが、インディーズ版なんです」
見た目は、まるっきりのコーヒーチケットなのだが、これが、今日、老若男女を熱狂させるゲームになるのだから、世の中はわからないものである。
人々との出会いによって、より大きなストーリーに
きっかけは、米光さんが仲間の輪に入れなかった「あ、さみしっ!」という感情だったが、広まったのには、ふたりの人物が大きく影響する。
まずは、プロデューサーの白坂翔さん。彼は、ゲームカフェ「ジェリー ジェリー カフェ」のオーナーであり、ゲームプロデューサーとしての顔をもつ実業家。2017年のゲームマーケットでいち早く目をつけたのが、この白坂さんなのだ。
「白坂さんは、それ以来お付き合いさせていただいているんですが、とにかく動きが速い人。それまでは、お名前くらいしか聞いたことなくて、1ミリも面識はなかったのですが、『米光さん、これ面白いです。すぐ商業化しましょう』といって、ぱぱーってパッケージ版のプロトタイプを作ってきてしまったんです。『はや!』って(笑)。
その試作品が、なんとコーヒーチケット版を作る前に作ったカード版と構造が非常に近かった。。。
いや、実際驚きましたよ。その試作品を見て、完全に信頼できる! ゲームを知っている人なんだ!って」
以降、信頼できるパートナーとして、タッグを組むことになった。その際に、白坂さんのゲームカフェ「ジェリー ジェリー カフェ」で取り扱うバージョンとして「ベストアクト」のタイトルで最初に世に出たわけだ。
「白坂さんは、『人に興味ないでしょ』とか、失礼なことを言ってくるんですが(笑)、そりゃ、彼に比べたら社交性は低いですよ」
と、米光さんが前置きするのは、現在の幻冬舎版への道筋を作ってくれたのも、この白坂さんだからなのだ。結果、もうひとりのヒットの大立者と言える、編集者・佐藤有希さんの手によって「ベストアクト」は、「はぁって言うゲーム」として、大々的にリリースされた。
ゲームフリークが集う場ではスタイリッシュに「ベストアクト」、そして、一般層には、おもしろおかしい「はぁって言うゲーム」に。2つのチャンネルをもつことで、幅広い層に浸透していったのだ。
「『はぁって言うゲーム』って言うゲームです、って説明しないといけない変なタイトルで、でも、そういう部分もまたコミュニケーションとしていいなって思っているんです」
白坂さんをして「天才」と言わしめる、根っからのゲームメーカー、米光さん。ここで紹介した彼の魅力は、ほんの一端にすぎないが、あの名作「ぷよぷよ」をも生み出したヒットメーカーたる思考回路に次回は迫っていきたい。※2回目に続く