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2023.06.17

テトリスというゲームの凄さ「ルールを超える思考と巨大迷路」

人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。名作ゲームが生み出される過程には、現代にも応用できるビジネスヒントが隠されている!

ビジネスパーソンが知っておくべき、「テトリス」の衝撃

1988年、「テトリス」の登場は衝撃だった。

当時のゲーム業界は「もっと美しく、もっと巨大に、もっと複雑に」という潮流に呑み込まれていた。

なにしろ、前年1987年にPCエンジン、1988年10月にメガドライブが出た。

ゲーム機の性能が上がり、表現力が増し、できることが飛躍的に広がっていった。

画面からはみだす巨大なボスキャラに興奮し、オーケストラのような音楽が流れることに奮い立ち、『No-Ri-Ko』が生声で喋るのに一部の者が熱狂した。

そんな中に、四角いブロックが落ちてくるゲームが登場するのだ。

われわれが最初にプレイした「テトリス」は、セガから出たアーケード(ゲームセンター)版だった。

いまやテトリスといえば音楽はロシア民謡だったり、背景にロシア的な意匠が使われたりしているが、当時の「テトリス」はロシアを連想させるものはなかった(背景にコモドオオトカゲの写真が出てきた)と記憶している。

素朴なシステムと簡素なグラフィックス。プレイヤーが操作するのは、愛らしいキャラクターでも勇敢な勇者でもない。幾何学的なブロックだ。

「なんだこれ?」と訝しむのは最初だけ。プレイすると一瞬でテトリス中毒になってしまう。

これはヤバい。ハマる。

なんだ、これは。

こんなにシンプルなのに、こんなに面白い。

俺たちがやりたかったゲームって、そもそも「これ」だったんじゃないか。

先輩のひとりが言う。「これ、企画書をどうやって通したんだ」

「もっと美しく、もっと巨大に、もっと複雑に」の流れの中では、もし「テトリス」が企画書として提出されても、通らないのではないか。

企画の段階で没になるだろう、と。

「これ、企画書をどうやって通したんだ」

すぐに、その謎は解明する。

テトリスは、1984年、ロシア科学者パジトノフが作ったものだった。

そして当時のロシアは国家的制約が厳しく、旧式なコンピュータしか使えなかった。派手なグラフィックが表示できる性能などなかったのだ。

当時のロシア科学者が使っていたコンピュータは、文字か記号しか表示できなかった。

オリジナル「テトリス」は、括弧や記号を使って図形を表示し、音楽も効果音もなかった。

等号を並べ(====================)てフィールドの底辺を作り、ブロックは、[] で作った。

パジトノフは、自分の環境下でめいっぱいのゲームを作り、それが功を奏した。

彼は、「もっと美しく、もっと巨大に、もっと複雑に」という潮流の外側にいたのだ。

ウィル・ペイジは『ピボット思考』(早川書房)という本の中で“迷路の出発点からゴールにたどり着くまで、周囲を迂回するルートをとっても構わない”と言う。

だが、迷路の暗黙のルールに捕らわれた我々は、周囲を迂回するということそのものに思い当たらない。

暗黙のルールにがんじがらめにされていることにすら気づかないのだ。

ぼくは、テトリスのあまりの中毒性に、その斬新さに、「悔しい、悔しい」と心のなかで唱えながら百円玉を積み上げて何度も何度もプレイした。

■テトリスとは

ロシア科学者アレクセイ・パジトノフが1984年に開発したパズルゲーム。
「落ち物パズルゲーム」の先駆け。
日本では1988年にセガ版がゲームセンターに登場した。
ブロックが着地して動かなくなるまで0.5秒前後の「遊び」があり、高速落下になっても滑らせるようにブロックを移動させる技などが可能で、やり込み甲斐もあった。

米光一成/Kazunari Yonemitsu
1964年広島県生まれ。大学卒業後、コンパイルに入社。現在でも人気の“落ちゲー”「ぷよぷよ」などのタイトルをリリース。その後、フリーランスとして、ゲーム制作ほか、デジタルハリウッド大学教授や、池袋コミュニティカレッジ講師なども。「はぁって言うゲーム」(幻冬舎)のほか、「あいうえバトル」「負けるな一茶」「いっしゅんジェスチャーはぁ?」「言いまちがい人狼」などをリリース。

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ぷよぷよ大作戦

TEXT=米光一成

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