人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。名作ゲームが生み出される過程には、現代にも応用できるビジネスヒントが隠されている!
「面白い」と「つまらない」は、紙一重。その境界線とは?
「テトリス」の大ヒット、そして「コラムス」などの出現により、「落ちものパズル」はゲームジャンルとして認識された。
ゲーム会社コンパイルでも「落ちものパズルを作ろう」という機運が高まり、3人ぐらいのチームが結成される。
後に、このプロジェクトをぼくが引き継ぎ、「ぷよぷよ」に繋がっていくのだが、この時点では、まだノータッチ、ぼくは参加していない。
大作RPGなどに比べると、「落ちものパズル」の基本構造はシンプルだ。あっという間に骨組みはできてしまう。
そのプロジェクトで、「どーみのす」というタイトルでサイコロが落下してくる「落ちものパズル」ゲームができあがる。
ところが、これが面白くない。
ぼくがプレイテストしたときは、「隣接したサイコロの目が合計7になると消える」というゲームだった。
単純な足し算とはいえ、瞬時に計算を連続的にさせられる。
「どーみのす」は、「がんがん足し算するのがめんどう」で、面白くなかった。
だが、人間というのは不思議なもので「何を面白い」と感じ、「何をつまらない」と感じるかは、紙一重だ。
同じ足し算ゲームなのに、カシオの電卓が面白いのはなぜ?
簡単な足し算で思い出すのは、1980年に登場したカシオのゲーム電卓「MG880(デジタルインベーダー)」。
電卓の構造上、右から左にインベーダーが攻めてくるので、いままで気づかなかったが、縦にすると元祖落ちものパズルゲームなのでは!?
カシオのゲーム電卓「MG880(デジタルインベーダー)」は、こんなゲームだ。
見かけは、ただの1980年代の電卓だ。上部に横長の液晶画面があり、下に計算のためのキーがある。
キーを押すと、例のデジタルな数字フォントで数字が表示されて、もちろん計算ができる。
その電卓に「デジタルインベーダー」というゲームが内蔵されているのだ。
画面右からインベーダーが攻めてくる。インベーダーといっても、ただの数字だ。
プレイヤーはキーを押して、左端にある「照準の数字」を変化させる。キーを押すたびに1→2→3→4→5→6……と数字が上がっていく。攻めてくるインベーダー数字と一致したらFIREボタンで攻撃。同じ数字のインベーダーが消える。
その間にもどんどん数字は増えて、右から左へ、プレイヤー陣地に攻め入ってくる。というシンプルな構造に、ボーナス得点となる「UFO出現」のゲームメカニクスが加わっている。
UFOは「n」で示される。
消した数字の合計が10になると「n」が出現し、ボーナス得点につながるのだ。ここでも、単純な足し算がプレイヤーに強いられる。
それでも「面白い」と感じるのは、バランスだろう。
「どーみのす」は、ひっきりなしに単純な足し算をプレイヤーに強いる。しかもゲームオーバーになると「単純な足し算を失敗してしまった」と残念な気持ちになってしまう。
一方で、「デジタルインベーダー」は、基本点を上げていく部分は、あくまでも「同じ数字」でFIREするだけ、単純明快。足し算部分はあくまでもボーナスなのだ。足し算をしなくても、ゲームオーバーにはならない。プラスアルファの部分に、少しのリスクと知的遊戯を加算したところに妙味がある。
ただ許す? 叱る? 失敗したときに上司がすべきこと
シンプルなゲームであればあるほど、「もう一度やろう」と思わせるポイントはどこにあるのか、フォーカスを当てて考える必要がある。
「デジタルインベーダー」で、「n」を狙ってゲームオーバーになった場合、ボーナスをゲットしようと欲をかいてしまった、次からはヤバいときはボーナスを狙わずに通常攻撃をしようと「反省」できる。失敗の原因が明確で、その対策が思い浮かぶ状況、つまり「次はこうやってやろう」という指針が立つことが大切だ。
「次はこうやってやろう」と思えれば、実際に「もう一度」プレイしはじめるのだ。
これは仕事の現場や、プロジェクトでも同じことだ。
たとえば誰かが失敗する。このとき、上司がすべきことは、ただ許すことでもなく、叱りつけることでもない。
次への指針を言語化して伝えることだ。本人が「次はこうすれば成功する」と実感できるようにすることである。
それが実感できれば、部下は諦めない。
成功へのチャレンジのために、またアクションしはじめる。
■デジタルインベーダーとは
1980年にカシオ社から発売された電卓「MG880」に内蔵されたゲーム。照準数アップの効率を考えてまとめて消す方法と、高得点を狙う方法(登場してすぐのインベーダーを消すほうが得点が高い)をうまく組み合わせてプレイ。しかもボーナスのUFOも狙いたいので、シンプルな構成にもかかわらず案外奥が深い。