PERSON

2023.07.23

カシオのゲーム電卓「デジタルインベーダー」に見る、部下が失敗したときに上司がすべきこと

人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。名作ゲームが生み出される過程には、現代にも応用できるビジネスヒントが隠されている!

「面白い」と「つまらない」は、紙一重。その境界線とは?

「テトリス」の大ヒット、そして「コラムス」などの出現により、「落ちものパズル」はゲームジャンルとして認識された。

ゲーム会社コンパイルでも「落ちものパズルを作ろう」という機運が高まり、3人ぐらいのチームが結成される。

後に、このプロジェクトをぼくが引き継ぎ、「ぷよぷよ」に繋がっていくのだが、この時点では、まだノータッチ、ぼくは参加していない。

大作RPGなどに比べると、「落ちものパズル」の基本構造はシンプルだ。あっという間に骨組みはできてしまう。

そのプロジェクトで、「どーみのす」というタイトルでサイコロが落下してくる「落ちものパズル」ゲームができあがる。

ところが、これが面白くない。

ぼくがプレイテストしたときは、「隣接したサイコロの目が合計7になると消える」というゲームだった。

単純な足し算とはいえ、瞬時に計算を連続的にさせられる。

「どーみのす」は、「がんがん足し算するのがめんどう」で、面白くなかった。

だが、人間というのは不思議なもので「何を面白い」と感じ、「何をつまらない」と感じるかは、紙一重だ。

米光一成/Kazunari Yonemitsu
1964年広島県生まれ。大学卒業後、コンパイルに入社。現在でも人気の“落ちゲー”「ぷよぷよ」などのタイトルをリリース。その後、フリーランスとして、ゲーム制作ほか、デジタルハリウッド大学教授や、池袋コミュニティカレッジ講師なども。「はぁって言うゲーム」(幻冬舎)のほか、「あいうえバトル」「負けるな一茶」「いっしゅんジェスチャーはぁ?」「言いまちがい人狼」などをリリース。

同じ足し算ゲームなのに、カシオの電卓が面白いのはなぜ?

簡単な足し算で思い出すのは、1980年に登場したカシオのゲーム電卓「MG880(デジタルインベーダー)」。

電卓の構造上、右から左にインベーダーが攻めてくるので、いままで気づかなかったが、縦にすると元祖落ちものパズルゲームなのでは!?

カシオのゲーム電卓「MG880(デジタルインベーダー)」は、こんなゲームだ。

見かけは、ただの1980年代の電卓だ。上部に横長の液晶画面があり、下に計算のためのキーがある。

キーを押すと、例のデジタルな数字フォントで数字が表示されて、もちろん計算ができる。

その電卓に「デジタルインベーダー」というゲームが内蔵されているのだ。

画面右からインベーダーが攻めてくる。インベーダーといっても、ただの数字だ。

プレイヤーはキーを押して、左端にある「照準の数字」を変化させる。キーを押すたびに1→2→3→4→5→6……と数字が上がっていく。攻めてくるインベーダー数字と一致したらFIREボタンで攻撃。同じ数字のインベーダーが消える。

その間にもどんどん数字は増えて、右から左へ、プレイヤー陣地に攻め入ってくる。というシンプルな構造に、ボーナス得点となる「UFO出現」のゲームメカニクスが加わっている。

UFOは「n」で示される。
消した数字の合計が10になると「n」が出現し、ボーナス得点につながるのだ。ここでも、単純な足し算がプレイヤーに強いられる。

それでも「面白い」と感じるのは、バランスだろう。

「どーみのす」は、ひっきりなしに単純な足し算をプレイヤーに強いる。しかもゲームオーバーになると「単純な足し算を失敗してしまった」と残念な気持ちになってしまう。

一方で、「デジタルインベーダー」は、基本点を上げていく部分は、あくまでも「同じ数字」でFIREするだけ、単純明快。足し算部分はあくまでもボーナスなのだ。足し算をしなくても、ゲームオーバーにはならない。プラスアルファの部分に、少しのリスクと知的遊戯を加算したところに妙味がある。

ただ許す? 叱る? 失敗したときに上司がすべきこと

シンプルなゲームであればあるほど、「もう一度やろう」と思わせるポイントはどこにあるのか、フォーカスを当てて考える必要がある。

「デジタルインベーダー」で、「n」を狙ってゲームオーバーになった場合、ボーナスをゲットしようと欲をかいてしまった、次からはヤバいときはボーナスを狙わずに通常攻撃をしようと「反省」できる。失敗の原因が明確で、その対策が思い浮かぶ状況、つまり「次はこうやってやろう」という指針が立つことが大切だ。
「次はこうやってやろう」と思えれば、実際に「もう一度」プレイしはじめるのだ。

これは仕事の現場や、プロジェクトでも同じことだ。
たとえば誰かが失敗する。このとき、上司がすべきことは、ただ許すことでもなく、叱りつけることでもない。

次への指針を言語化して伝えることだ。本人が「次はこうすれば成功する」と実感できるようにすることである。

それが実感できれば、部下は諦めない。
成功へのチャレンジのために、またアクションしはじめる。

■デジタルインベーダーとは
1980年にカシオ社から発売された電卓「MG880」に内蔵されたゲーム。照準数アップの効率を考えてまとめて消す方法と、高得点を狙う方法(登場してすぐのインベーダーを消すほうが得点が高い)をうまく組み合わせてプレイ。しかもボーナスのUFOも狙いたいので、シンプルな構成にもかかわらず案外奥が深い。

TEXT=米光一成

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