PERSON

2023.08.05

運がいいと思う人と、運が悪いと思う人の違いは?「はぁって言うゲーム」開発者の解答

人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。名作ゲームが生み出される過程には、現代にも応用できるビジネスヒントが隠されている!

KLAX/クラックス
1990年にアタリが出した落ちものパズルゲーム。デザイナーはマーク・スティーブン・ピアス。
転がってくるタイルをパドルで受け止めてからフィールドに落とし同色を縦横斜めに並べて消していく。パドルにいったん乗せることで順番を入れ替えたり、連続で配置するテクニックが使える。ウェーブと呼ばれるミッション型ルールもある。「メガドライブ版で夢中になって遊んだが、パッドの方向キーが意図と違う方向に入りやすく勝手にタイルを弾き飛ばしてしまい『わーー!』ってなりがちだった」。

「運がいい人」の秘密の法則と「ぷよぷよ」の誕生

落ちものパズルゲーム「ど~みのす」は、開発中止になろうとしていた。
「ど~みのす」は、サイコロが落下してきて、それをつなげる落ちゲーだった。
「テトリス」に触発されてはじまった企画で、3人ぐらいで進めていたプロジェクトだ。
これがどうにも面白くならないらしい。

開発中止にすべきかどうかの会議が、会社近くの喫茶店で開かれることになった。
繊細な内容になりそうなので会社で会議しにくかったらしい。

ぼくは「ど~みのす」の開発にノータッチだったし、どういう状況かも知らなかった。
ただ「喫茶店に行きたい!」と思って「会議に参加していいですか」とねじ込んでもらった。
ゲームセンターにはよく行っていたが、喫茶店にはあまり行ったことがなくて憧れだったのだ。

会議は迷走した。
開発中止にするのはもったいない。
こうしたらいいのではないかという新しいアイデアは出るが、それを実現できるのか、そしてそれは面白いのか、まったく検討がつかない。

そもそも、予定していた開発期間はオーバーしている。デザイナーは次の仕事に移っている。プログラマーも次の作品に取り掛からなければならないタイミングだ。
新たに戦力を投入する余力もない。

なんとか、パッと、魔法の杖のひとふりで解決できないものか。
もちろん、そんな魔法の杖は、だれも持ち合わせていない。
会議は行き詰まった。そもそもプロジェクトが行き詰まっているのだ。開発中止にすべきなのだろうと誰もが思っていたらしい。

そのことに、ぼくだけ気づいてなかった。

そもそも、「喫茶店に行きたい」と思って、会議に参加していたので、あまり発言もしていなかった。
ウインナーコーヒーというものを初めて注文して、「ウインナーが入ってるわけじゃないんだ!」と心の中で驚き、あまり楽しい雰囲気じゃない会議に「もぐりこんで失敗したなー」と思いながら、コーヒーに浮かんでいるホイップクリームをちみちみと突いていた。

その時、誰かが言った。
「米光くんが、引き継いでやってみたら?」
行き詰まった会議に飽きていたのか、みんな、それがいいという雰囲気になった。場がぱっと明るくなった。

ぼくは、よくわかってないまま「はい。やりますよ!」と返事をしていた。
「テトリス」「コラムス」などの落ちゲーが大好きだし、そのころ「KLAX」にハマっていて、落ちものパズルゲームの新しい可能性にも注目していたから、どうにかなるだろうと考えたのだ。

米光一成/Kazunari Yonemitsu
1964年広島県生まれ。大学卒業後、コンパイルに入社。現在でも人気の“落ちゲー”「ぷよぷよ」などのタイトルをリリース。その後、フリーランスとして、ゲーム制作ほか、デジタルハリウッド大学教授や、池袋コミュニティカレッジ講師なども。「はぁって言うゲーム」(幻冬舎)のほか、「あいうえバトル」「負けるな一茶」「いっしゅんジェスチャーはぁ?」「言いまちがい人狼」などをリリース。

「根拠のない自信」と「安請け合い」でチャンスを掴む

そして、「安請け合い」した最大の理由は、「根拠のない自信」。
「ようやく俺に任せてくれる気になったのか」ぐらいの思い違いをして、「がんばるぞ」と燃えたのだ。
「ひとまず一番の若僧に押し付けて、会議を終わらせよう」ってことだとは思いもしなかった。

この「根拠のない自信」と「安請け合い」で、ぼくはいままでも何度か失敗している。
でも、それと同じぐらい「根拠のない自信」と「安請け合い」でチャンスを掴んでもいる。

ウインナーコーヒーを飲みながら、状況をよく分からないまま「はい、やります」と安請け合いしたこのプロジェクトが「ぷよぷよ」になって大ヒットするとは、この時のぼくは予想すらしてない。

『運のいい人の法則』(角川文庫)という大ベストセラーの著者、リチャード・ワイズマン博士は、テレビ番組で、運のいい人と運の悪い人がいるのは何故なのか調べる企画をスタートする。

運がいいと思う人と運が悪いと思う人を募集して、宝くじの当選番号を予想してもらう。運がいい人は当選番号を当てられるのか? 700人に、宝くじの予想番号とアンケートに答えてもらった。

結果は、運のいい人も運の悪い人も、当選数は同じだった。予知能力などなかった。

だが、このときのアンケートで際立った違いが見つかる。“運のいい人は運の悪い人の二倍以上、当せんする自信があると答えていた”のだ。

「運がいい人」は自信を持っている。自信がある人は臆せずチャレンジする。「運がいい人」はチャレンジする回数が多い。

当選確率が同じなら、アクションした数が多い人が当選する可能性が上がる。それが「運がいい人」の秘密の法則だ。

だから、若い頃の「根拠のない自信」と「安請け合い」は大切だ(と、この年になって思う)。
何度も何度も打席に立たなければ、ヒットもホームランもないのだ。

TEXT=米光一成

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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