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2023.07.05

野村克也「エースと4番は育てられない」。“育成・再生の達人”の真意とは

戦後初の三冠王で、プロ野球4球団で指揮を執り、選手・監督として65年以上もプロ野球の世界で勝負してきた名将・野村克也監督。没後3年を経ても、野村語録に関する書籍は人気を誇る。それは彼の言葉に普遍性があるからだ。改めて野村監督の言葉を振り返り、一考のきっかけとしていただきたい。連載「ノムラの言霊」4回目。

野村克也監督連載第4回「エースと4番は育てられない」

阪神とヤクルトのスカウティングの大きな差

「エースと4番は育てられない」

それが野村克也の持論だった。「育成・再生の達人」と呼ばれた野村の手腕を考えれば「なぜだ?」と思う人が多いかもしれない。

阪神が最下位に沈んだ1998年秋に野村は監督に就任した。その秋のドラフトで阪神は、将来性を見込んで藤川球児(高知商高)をドラフト1位で指名した。

藤川が46ホールドで突如ブレークしたのは、2005年。実に入団から7年を要している。1998年の阪神は最下位なのだから、即戦力投手を獲得するべきではなかったか。

ちなみに同じ年のドラフト1位では、上原浩治(大阪体育大=1年目20勝)が巨人を逆指名、西武は松坂大輔(横浜高=1年目から3年連続最多勝)を指名した。小林雅英(東京ガス→ロッテ、日米通算234セーブ)という逸材もいた。

しかし、1999年秋のドラフト1位はなぜか内野手の的場寛一(通算7安打)。2000年秋のドラフト1位は即戦力投手の藤田太陽(川崎製鉄千葉)だったが、故障がちで現役13年間で通算13勝に終わった。

1996年から3年連続2ケタ勝利を挙げて当時のエースだった藪恵壹だが、1999年6勝、2000年6勝、2001年0勝。結果、「野村・阪神」は3年連続最下位に終わるのである。

阪神の前、「野村・ヤクルト」時代のドラフト1位は、1989年秋は西村龍次(ヤマハ=1年目10勝)、1990年秋は岡林洋一(専修大=1年目12勝)、1992年秋は石井一久(東京学館浦安高=3年目7勝)、1992年秋は伊藤智仁(三菱自動車京都=1年目7勝)、1993年秋は山部太(NTT四国=2年目16勝)。

10勝級の即戦力投手を毎年のように獲得して、彼らもチームの勝利に貢献。「野村・ヤクルト」は1990年代に4度リーグ優勝の黄金時代を築いていたのである。

「育成」と「補強」は違う。エースと4番は出会うもの

1999年と2000年、2年連続最下位の成績に、野村は意を決して、関西財界の重鎮でもあった久万俊二郎オーナーに直訴した。

「エース候補はドラフトで毎年1人ずつドラフト上位で指名してください。4番打者はバースやオマリーのように外国人大砲か、他球団の日本人大砲をFAで補強してくれれば、チーム強化を急げます」

「野村君、それはどういうことかね」

「エースと4番は育てようとして、育つものではありません。極論ですが、出会うもの。勝手に育つものです。教育できても、育成はできないのです。『育成』と『補強』は別物。それはチーム編成であって、監督采配とは別問題なんです」

どの球団もいい選手を簡単にトレードで出さないものだ。そうであれば、まずはアマチュア球界から「エース候補」「4番打者候補」をドラフトで獲らなくてはいけない。しかし、技術や心構えを教育しても、順調に育つとは限らない。ある程度の時間も要する。

しかも、エースや4番打者たるべき、生来のポテンシャルが必要だ。ポテンシャルに関しては1位や2位の「ドラフト上位選手」と、それ以下の選手では正直な話、雲泥の差がある。

だから、本塁打一発で試合展開を変えられるような大砲の育成は難しく、その場合はFAで早急に弱点補強するなり、外国人選手の長打力に頼るのも一案であるのだ。

2003年、星野仙一政権下となった阪神は「補強」した伊良部秀輝(ヤンキース)が13勝、下柳剛(日本ハム)が10勝、ジェフ・ウィリアムス(ドジャース)が25セーブ、金本知憲(広島)が77打点。

1985年以来、18年ぶりの勝利の美酒に酔うのである。

そしてこの年、1997年ドラフト2位入団、野村が2001年に28試合に先発(リーグ最多)させた井川慶が花開き、20勝投手となった。

一般企業になぞらえれば、近未来の「エース候補社員」や「4番候補社員」は、それなりのポテンシャルを有する人材を入社試験でしっかりと見極めて採用しなくてはならない。困ったときには中途採用も1つの手段であるというべきか。それが組織の編成だ。

現球界、エースも4番もほとんどがドラフト上位選手

【各チームのエース】
山本由伸(オリックス=ドラフト4位)
東浜巨(ソフトバンク=ドラフト1位)
高橋光成(西武=ドラフト1位)
田中将大(楽天=ドラフト1位、FA)
佐々木朗希(ロッテ=ドラフト1位)
上沢直之(日本ハム=ドラフト6位)
小川泰弘(ヤクルト=ドラフト2位)
今永昇太(DeNA=ドラフト1位)
青柳晃洋(阪神=ドラフト5位)
菅野智之(巨人=ドラフト1位)
大瀬良大地(広島=ドラフト1位)
柳裕也(中日=ドラフト1位)。

【各チーム4番打者】
森友哉(オリックス=ドラフト1位、FA)
柳田悠岐(ソフトバンク=ドラフト2位)
渡部健人(西武=ドラフト1位)
浅村栄斗(楽天=ドラフト3位、FA)
ポランコ(ロッテ=外国人)
万波中正(日本ハム=ドラフト4位)
村上宗隆(ヤクルト=ドラフト1位)
牧秀悟(DeNA=ドラフト2位)
大山悠輔(阪神=ドラフト1位)
岡本和真(巨人=ドラフト1位)
西川龍馬(広島=ドラフト5位)
細川成也(中日=ドラフト5位、現役ドラフト)

現在の12球団のエースと4番打者を列挙してみたが、ほとんどがドラフト1位か2位の上位指名選手である。

エースでドラフト下位選手は山本由伸(オリックス=ドラフト4位)、上沢直之(日本ハム=ドラフト6位)青柳晃洋(阪神=ドラフト5位)の3人。

4番打者でドラフト下位選手は、万波中正(日本ハム=ドラフト4位)、西川龍馬(広島=ドラフト5位)、細川成也(中日=ドラフト5位)の3人。それ以外はFA移籍や外国人選手。

結果は、野村の言うとおりなのだ。
 

まとめ
組織の根幹をなす地位につく人材は、「教えて育て上げる」のとは次元が違う。生来の高い潜在能力を有し、自ら早く能力を顕在化させる。そういう人材を見極めて獲得すべきである。
過去の連載記事はコチラ

著者:中街秀正/Hidemasa Nakamachi
大学院にてスポーツクラブ・マネジメント(スポーツ組織の管理運営、選手のセカンドキャリアなど)を学ぶ。またプロ野球記者として現場取材歴30年。野村克也氏の書籍10冊以上の企画・取材に携わる。

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【野村克也】ノムラの言霊

戦後初の三冠王で、プロ野球4球団で指揮を執り、65年以上もプロ野球の世界で勝負してきた名将・野村克也。今こそ、改めてその言葉を振り返り、一考のきっかけとしてほしい

TEXT=中街秀正

PHOTOGRAPH=毎日新聞社/アフロ

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