PERSON

2021.12.30

大学2年の頃、発展途上だった青柳晃洋は確かなる手ごたえをつかんだ──連載「スターたちの夜明け前」Vol.20

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。連載【スターたちの夜明け前】

2013年5月26日 帝京大2年時 首都大学野球春季リーグ戦 東海大

今シーズンのセ・リーグで大きく飛躍した投手の一人が青柳晃洋(阪神)である。開幕から先発ローテーションの柱として安定した投球を見せ、東京五輪の侍ジャパンにも選出。本大会では2試合に登板して5失点と力を発揮することはできなかったものの、ペナントレースでは後半戦も勝ち星を積み重ね、13勝6敗とキャリアハイの成績を残して最多勝と最高勝率のタイトルも獲得したのだ。予告先発となった試合が雨天中止になることが非常に多く、“雨柳さん”の愛称でも話題となったが、そんななかでもこれだけの成績を残したことは調整力の高さの証明と言えるだろう。

青柳は2015年のドラフト5位で帝京大から阪神に入団しているが、決して日の当たる野球人生を送ってきたわけではない。高校時代は神奈川県立川崎工科高校でプレー。同校はかつてロッテの抑えとして活躍した内竜也を輩出しているものの(当時は川崎工業)、決して強豪校というわけではなく、青柳も神奈川県内では好投手とは言われていたものの、知る人ぞ知るという程度の選手だった。

筆者が実際に青柳のピッチングを見たのは、帝京大進学後の2年春に行われた関東学院大とのオープン戦だ。誰か特別なお目当てがいたわけではなく、当時帝京大の3年生で正捕手だった木南了(現日本通運)の評判を聞いていた程度である。ちなみに今年ヤクルトでブレイクした塩見泰隆(当時2年)は帝京大の3番センターで出場して2本のタイムリーを放っているが、当時はまだまだ体が細く、プロに行くような選手だとは思わなかった。青柳はこの試合、8回から4番手でマウンドに上がるとヒットと四球で出塁を許したものの、2イニングを投げて無失点、3奪三振の好投で試合を締めている。

ただ、まだまだ寒い春先ということでボール自体の凄みは感じられず、当時のノートにも「サイドとアンダーの中間くらいの腕の振り。変則フォームで打ちづらそう」としか書いていない。投手では青柳の前に投げた同学年の西村天裕(現日本ハム)の方がオーソドックスな本格派でストレートの力もあり、強く印象に残っている。

そんな青柳を改めて注目すべき選手として見直したのはそれから約2か月後の2013年5月26日に行われた首都大学野球春季リーグ戦、東海大との試合だった。ここ数年は上位チームの差が小さくなっている首都大学野球だが、当時は東海大が圧倒的な強さを誇っており、この試合も大城卓三(現巨人)、渡辺勝(現中日)、田中俊太(現DeNA)と後のプロ野球選手が3人も出場している。しかし青柳はそんな強力打線を相手に見事なピッチングを披露。立ち上がりの1回に押し出しで1点を失ったものの、2回以降は東海大打線をわずかヒット3本、無失点に抑え込み、完投勝利をマークしたのだ。当時のノートには「変則的なサイドスローだがボールの勢いは申し分なく、ピッチングスタイルは本格派」、「かなり沈み込んで低い位置から腕を振り、腕が遅れて出てくる」、「138キロくらい(この日の最速は140キロ)でも球持ちが長く、打者は差し込まれる」などと書いている。

この試合では7個の三振を奪っているが、そのうちの6個が空振りの三振だったことからも、青柳のボールにスピードガン以上の威力があったことがよく分かるだろう。その一方で7個の四死球を与えており、ノートにも「抜けるボール、引っかかるボールが多く、制球はアバウト。上手く散っている時はいいが、ボール球が先行することも多く安定感には欠ける」という記載を残しているように、コントロールに課題があったことは事実である。しかしまだまだ実績のない2年生投手がリーグ王者の東海大を相手に1失点完投勝利をマークしたことは自信となったはずであり、大きなターニングポイントととなった試合でることは間違いないだろう。

プロ入り後に140キロ台後半までスピードアップ

そして青柳がプロでここまで大成することができたのは、年齢を重ねるごとに課題をひとつひとつクリアしていったからに他ならない。大学4年秋のシーズンでも東海大を相手に1失点完投勝利をマークしているが、この時与えた四球はわずかに1と、下級生の頃とは格段に制球力がアップしていることが分かる。それでも当時のストレートは最速140キロ程度ということもあってドラフトの順位は低かったものの、プロ入り後は年々スピードを増して今ではコンスタントに140キロ台後半をマークするまでになっている。大学時代のピッチングを見ても、ここまでの成長を予感できた人はなかなかいなかっただろう。

ただ今シーズンは飛躍の年となったことは確かだが、チームはあと一歩でリーグ優勝を逃し、前述したように自身も東京五輪では打ち込まれるなど悔いが残った部分もあったはずである。その悔しさをバネに、来季以降も更に進化したピッチングを見せてくれることを期待したい。

【第19回 牧秀悟(DeNA)】

Norifumi Nishio
1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

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