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2022.05.19

巨人・岡本和真が、すでに4番の風格を纏い始めていた智弁学園3年時──連載「スターたちの夜明け前」Vol.30

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。【連載 スターたちの夜明け前はこちら】

写真:日刊スポーツ/アフロ

2014年3月24日に行われた選抜高校野球大会・三重高校戦

昨年はセ・リーグ3連覇を逃し、チームの立て直しが急務と言われている巨人。今年も故障者が続出している影響で苦しい戦いが続いているが、そんななかで不動の4番として活躍を見せているのが岡本和真だ。4月中旬には体調不良で欠場した試合はあったものの、ここまでセ・リーグトップとなるホームランを放ち、打線を牽引している。もし岡本がいなければ、チームは更に苦しい状況に追い込まれていたことは間違いないだろう。

そんな岡本は全国屈指の強豪である智弁学園(奈良)でも入学直後から大器と評判となっており、1年秋からは早くも4番を任されている。実際に現場でプレーを見ることができたのは3年春に出場した選抜高校野球、2014年3月24日に行われた対三重高校戦だった。この試合が岡本にとっては初の甲子園でのプレーだったが、驚きの聖地デビューを飾ることになる。3番、サードで出場すると初回の第1打席でいきなりセンターバックスクリーンへの先制ソロホームランを放つと、第2打席には強烈なセンター前ヒットを放ち追加点を演出。そして6回に迎えた第3打席では内角のストレートを完璧にとらえ、この試合2本目となるホームランをレフトスタンドへ運んでみせたのだ。

結果はもちろんだが、素晴らしかったのがそのバッティングの内容だ。1本目のホームランはフルカウントからの6球目をとらえたもの。捕手が構えていた内角とは逆のやや外角寄りの甘いストレートだったが、追い込まれている場面であらゆるボールの選択肢があるなかで迷いなく振り切れるというのは只者ではない。第2打席は初球、第3打席はツーボールからといずれもファーストストライクをとらえたもので、数少ない打てるボールをとらえようという強い意識が感じられた。

木製バットも苦にしない、圧倒的な成長スピード

当時のノートにも「タイミングをとる時に少し反動をつける動きが大きいのは気になるが、スイングの軌道は安定しており、ヘッドスピード、インパクトの強さともに高校生とは思えないレベルにある。(中略)下半身も強く、粘りがあり、決して腕力だけでなく全身を使って振れるのも長所。内角の厳しいコースもしっかりとらえ、スイングの軌道も安定している」という記録が残っている。大会前から高い注目を集めていたなかで、これだけの結果を残せるということも、若くして巨人の4番を任せられる資質がよく表れている。

しかし、ノートにも「タイミングをとる時に少し反動をつける動きが大きいのは気になるが」と記載があるように、当時の岡本はまだ弱点があったことは確かであり、次の試合ではその不安要素が露呈することとなる。対戦相手となった佐野日大のエースは大会ナンバーワン投手の呼び声も高かった田嶋大樹(現オリックス)の前に4打数1安打、2三振と抑え込まれ、チームも延長戦の末、サヨナラ負けを喫したのだ。奪われた2つの三振は内角のスライダーと速いストレートが決め球となっており、反動をつける動きの大きさがゆえに対応できていない印象を受けた。第4打席には内野安打を放ち、最後の打席では死球で出塁したものの、岡本にとっては悔しさの残った試合だったことは間違いない。

そして、この試合をきっかけに岡本は大きく成長することとなる。3年夏の甲子園は初戦で明徳義塾に敗れてホームランは出なかったものの、エースの岸潤一郎(現西武)から2安打をマーク。そして甲子園の後に行われたU18アジア選手権では日本代表の4番として5割近い打率を残したのだ。この大会は木製バットで行われたもので、他の打者がその対応に苦しむなかでも岡本は見事な打撃を披露。選抜の時に比べると明らかにタイミングをとる動きが小さくなり、それでいながら強く振ることができるようになっていたのだ。元々遠くへ飛ばす資質がありながら、高いレベルの投手との対戦で更にレベルアップできたことが、現在の活躍にも繋がっていると言えるだろう。

今年で26歳という年齢を考えると、選手としてのピークはまだまだ先である。3年連続となるホームラン王、打点王、そして自身初となるシーズン40本塁打に向けて、ここから更に成績を伸ばしていくことを期待したい。

【連載 スターたちの夜明け前はこちら】

Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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スターたちの夜明け前

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

TEXT=西尾典文

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