2025年12月に発売された著書『勝手な夢を押しつける親を憎む優等生と、東大は無理とバカにされた学年ビリが、現役合格した話』でも描かれているように、 “子別”指導によって、学力の低かった子どもたちを志望校へと導く坪田塾。そのレベルまでは至らずとも、家庭内で子どもの意欲を刺激するフックを見つけることはできるのだろうか? 今回は、「今、親ができること」を、塾長である坪田信貴先生に教えてもらった。5回連載の2回目。【その他の記事はこちら】

「やる気にさせる」。その言葉に隠された本当の意味とは?
勉強にしても将来の夢にしても、子ども自ら動いてほしいと願うのが親というもの。でも実際は「宿題は終わったの?」「テストできたの?」「ゲームばかりしてないで!」と日々言い続けてしまうのが現実だ。
これまで無気力・無関心だった子どもたちをさまざまな形で勉強に取り組ませ、大学合格という生徒、そして親たちの夢を実現してきた坪田先生に、ぜひ聞きたいのが「勉強への意欲を刺激するきっかけは、家庭でも作れるか否か」ということだ。
「親御さんからは『うちの子をやる気にさせるにはどうしたらいいですか』とよく聞かれます。でもその“やる気”とは、勉強という意味でのみなんですよね。例えばYouTube鑑賞や睡眠に『やる気を出す』って言わないじゃないですか(笑)。
結局“やる気”って、『親の価値観でこう動いてほしい』という要望のための動機でしかない。『うちの子のやる気スイッチはどこにあるんでしょう?』という質問は、翻訳すれば『子どもが私の言う通りに動いてくれないんですけど、どうしたらいいですか?』という意味なんです」
いわば、「私の言う通りに動きなさい」と言いながら、「自分で考えて動きなさい」と相反することを言っているような状態ということだ。そこに大きな問題があると坪田先生は言う。
「まさに“やる気スイッチのパラドックス”に陥っているんです。心理学でいえば、“やる気”とは“動機付け”のことを意味します。親御さんは『やる気』がないと言うけれど、どんな子供にもやる気は必ずあるんです」
確かに勉強以外で考えれば、休み時間に友達とバレーボールをする、家で好きなYouTubeを観るなど、いくらでも子どもは能動的に動いている。
「重要なのは“しない”ことに注目するのではなく、逆にこの子が自主的にしていることは何なのか? なぜそれをやりたいんだろう? と分析してみること。そこにヒントがある。例えば、アニメが好きなら、なぜこのアニメが好きなんだろう? キャラクター? ストーリー? もしかしたら音楽が好きなのかもしれない。それはアイドルでもゲームでも構いません。そこから、子どもの価値観や興味があることが見えてくるはずです」

教育者、経営者。これまでに1300人以上を「子別指導」し、心理学を用いた学習指導により、偏差値を短期間で急激に上げることに定評がある。上場企業の社員研修や管理職研修なども含め、全国の講演会に呼ばれ、15万人以上の人が参加している。テレビやラジオでも活躍中。第49回新風賞受賞。著書に、120万部突破のミリオンセラー『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(ビリギャル)がある。
意欲アップは、子どもを理解することから始まる
今回の著書でも、自分をバカだと卑下しすべてに本気になれない翔太は、先生が自分の大好きなゲームの主人公に例えて話してくれたことで、自分の状況や可能性に気づく。またADHD(注意欠如・多動症)の健太には、彼が興味を示す迷路やパズルを使った勉強法を伝えることで、ルールという概念を理解させていく。坪田塾が“個別”指導ではなく、“子別”指導とうたっているのはそこに意味がある。
「ビリギャルを読んだ方から、主人公・さやかちゃんが勉強をするようになったのは素直だったからと言われることも多かったのですが、彼女も頭ごなしに勉強ができないと判断する学校の先生やお父さんには、めちゃくちゃ反抗していました。子どもは、自分のことを理解しようとしてくれる人にはちゃんと素直になるけれど、理解せずに上から押し付けてくる人にはやっぱり反抗的になる。だから、勉強への意欲を刺激するフックを見つけたいなら、まずその人を理解しなくちゃいけない。そのためにはまず子どもが興味を持つことに、ちょっと踏み込んでみることが大事なんです」
塾で指導する上でも、子どもの好きなことを理解するのはとても重要なことだという。
「テストの点数がシンプルに上がるのが好きな子、勉強の過程を認められることで喜ぶ子、前回60点で今回55点でもライバルが40点なら嬉しい子もいます。親にしてみれば点数が下がったと思うかもしれないけれど、その子にとっては点数よりも、“ライバルに勝った”ということが最大のやる気のフックになるんです」
親は絶対に子どもの審査員になってはいけない
とはいえ、中高生と言えば思春期の難しい年頃でもある。子どもの好きなことを理解しようと、親が子どもの領域に入ってくることを嫌がったりすることもあるのではないだろうか?
「実はそこが、親がそれまでどんな教育をしてきたかの最大の課題だと思っています。なぜそうなるか。それは親が審査員になっているからなんです。親に必要なのは、その子をジャッジすることではなく“共感” して、自分は仲間であると思ってもらうこと。子どもが『今日は○○君と遊んだ』と話しかけてきたのに、『宿題はやったの?』などと返してはいないでしょうか? これは専門的に言うと行動変容と言うのですが、親は最初から審査員になって、相手の行動を変えようとしているんですね。
子どもが、自分の領域に親が入ることを嫌がるというのは、もう仲間ではなくなっているということ。例えば、大好きなバスケットボールも友達とやっているだけなら楽しいけれど、そこにNBA のコーチが来ていい選手を探しているとなったらガチガチになっちゃいますよね。集中できないし、自分らしさなんて一切出せない。親との関係も同じです」
確かに、常に自分をジャッジする親が「勉強しなさい」と言ったり教えようとしても、子どもにとっては苦痛でしかない。
「だから結局、親が勉強をさせようとした時点でもう“負け”なんです。審査員ではなく、親がなるべきは共感してくれる仲間。その子の人生をひとつのドラマだと捉えた時、そこにいる“仲間”であることが大切なんです」

