ド派手なルックスと徹底した従業員ファーストの経営で、全国から視察が絶えないという坂口捺染社長、坂口輝光氏。現在は本業以外にカフェやショップ経営などの多角化に乗り出し、地域活性にも力を注いでいるが、その根底には「楽しんでいる大人の姿を子供に見せたい」という想いがあった。【その他の記事はこちら】

1982年岐阜県生まれ。岐阜商業高等学校卒業後、単身アメリカに留学。パサデナシティカレッジ卒業後に帰国し、2004年、家業である坂口捺染に入社。2010年に専務、2014年に社長に就任。ラジオ『T.W.R presents ゆっこ学園 Tell me tours ~輝光との旅~』(ぎふチャン)のパーソナリティも務める。
生きるのは楽しいと、子供達に伝えたい
坂口捺染は、コロナ禍を契機に積極的な投資に打って出た。2021年は第四倉庫を、2022年には第五工場と新本社を、そして、2024年に新事業となるカフェとオリジナルショップの複合施設を新設するなど、この4年間で15億円の資金をかけ、事業を急速に拡大している。その理由は、従業員の安定的な生活の保証と、より多くの雇用創出、地域コミュニティのつながりを深めるためだ。
2023年には予算1200万円をかけ「TWR冬花火with MUSIC」を開催。地元の岐阜特別支援学校グランドを舞台に、午前11時から夜8時まで、ライブにダンス、縁日にキッチンカー、プリント体験などが繰り広げられ、最後は約6000発の花火で締めくくる。1万人もの人が詰めかけた地域随一のビッグイベントのテーマは「大人が見せる本気で、子供達に夢と体験を」。坂口氏は、ピンクのスーツに身を包んでクイズライブを行い、ボーイズグループ、甘党男子のメンバーに混ざってステージで歌とダンスを披露するなど、自らイベントを盛り上げた。

他にも、サンタクロースに扮して地元の保育園などを巡って子供達約300人にプレゼントを配ったり、ぎふ長良川花火大会鑑賞のため会社の駐車場を開放したりと社会貢献に力を入れているが、本人は「そういう意識でやっているわけではないんですけどね」と、気負いがない。
「イベントには地域の子供達がたくさん来てくれるんですよ。その子たちに、損得関係なく、無条件で周りの人が喜ぶことをやって、自分も楽しんで笑っている大人がいることを見せたくてね。
いろんなストレスやら責任やらで、笑えなくなっている大人はたくさんいる。仕事だって楽しいことは2割で、8割は辛くて大変なことばかりだろうしね。そんな大人たちを見ていたら、子供が大人になりたくないとか社会に出たくないと思うのは当然でしょう。
だからこそ、『周りのために』って、カッコ悪くても必死こいて汗だくになり、笑っている大人の姿を見てほしい。それは、きっと子供達にとって良い刺激になるはずだから。子供達が『生きるって楽しいんだな』『大人になるのはおもしろそうだな』って思ってくれれば、すげぇ嬉しいし、それが大人の子供に対する責任じゃないかって。
それに、今は学校教育もなかなか難しくて、子供達がいろんな大人に揉まれる場面って少ないでしょ。こんな風に地元で、子供からおじいちゃん、おばあちゃんまで集まって交流することで、子供が何か学べるんじゃないかなとも思うんですよね」

朝4時起床で21時就寝の超マジメ生活
会社経営に地域貢献、講演に加え、2024年からは地元のラジオ局でパーソナリティも務めるなど、八面六臂の活躍を見せる坂口氏。プライベートはどのように過ごしているのかとたずねると、「365日仕事をしていて、休みはないですね」という答えが返ってきた。
「従業員はお盆休みや年末年始の休暇があるけれど、自分には不要。だって、仕事をしている時が一番楽しいから。年末年始も、神棚を整えるとか水回りを掃除するとか、やることけっこうあるんですよ。
毎日のルーティーン? 朝はだいたい4時に起きて、瞑想してヨガをやって、7時に会社に行って、1時間くらい従業員としゃべってから社長の業務をこなして、夜7時半に家に帰って、両親と妻、子供達といっしょに晩御飯を食べて、腹筋と腕立てを500回やってから風呂に入ってストレッチをして、9時には寝る。会食もしないし、ゴルフもやらない。なんかね、自分だけが楽しいとか得をするとかが、僕にとって一番のストレスなんですよ」

そんな父の背中を見て育った長女と長男は、そろって「お父さんのようになりたい」と口にする。長女は大学生活の傍ら地元の合唱団「ながら児童合唱団」の団長を務め、長男は、2025年の夏の甲子園を沸かせた岐阜商業高校野球部の4番バッターとした注目を集めたものの、野球には区切りをつけ、アメリカの大学への進学を決意。経営学を学び、将来は坂口捺染の四代目を継ぎたいと公言している。坂口氏の遺伝子を継ぐだけあって、ふたりともすでに自分の道を見つけ、邁進しているようだ。
「息子の野球も高校になって初めて見たくらいなんで、子供を教育したという記憶はないけれど、結局は背中を見せることやと思う。オレは365日働いていてもいつも楽しそうにしているし、奥さんが子供達に、仕事漬けのオレのことを愚痴ったこともない。だからふたり共、『早く仕事がしたい』と思ったんじゃないかな。
ただ、子供達には、誰かのために、周りのためにと思ったことに突き進みなさいとは言っています。それに対して、賛成意見もあれば反対意見もあるのは当たり前。それに振り回されず、自分の信じたことを貫いて、見返りを求めずに動けって」

失われた30年からなかなか脱却できず、停滞感が漂う日本。日本が再び輝くには、坂口氏のように「大人が本気で楽しむ」ことが必要なのかもしれない。

