母は強い。シングルマザーはさらに強い。地元・熊本での旅館経営をスタートしたスザンヌさん。子供の小学校進学をきっかけに始めた“学び直し”が彼女の人生を大きく変えた。多忙な日々を送りながら、人生を思い切り楽しんでいる彼女のパワーの源泉は? 【特集 RE:チャレンジャー】

ママはひとりでも大丈夫
2024年12月、熊本市西区河内町に「KAWACHI BASE 龍栄荘」をオープンしたスザンヌさん。現在シングルマザーである彼女は、経営者、タレント、母親、そして大学生と、4つの“顔”を持ちながら、いきいきとした日々を送っている。
「今はすごくバランスよく、それぞれの役割をやれている。充実している感じです。やっぱり子供が小さかったときは、人生の9割以上が母親業だったし、気持ちにも余裕がなかった。学校に通うようになって、ようやく自分のことを考えられるようになり、地元に恩返ししなきゃという気持ちも生まれてきた感じです。子供はまだ小学生ですけど、これから大きくなるにつれて、どんどん手がかからなくなり、そのうち独り立ちするんだと思います。ずっと母一人子一人で来たから、そうなったときに『ママはひとりでも大丈夫』と子供に思ってもらえる母親でいたいですね。旅館業を始めたのも、子離れ親離れのためと言ってもいいかもしれない(笑)」

1986年熊本県生まれ。福岡でのモデル、タレント活動を経て19歳で上京。2007年、『クイズヘキサゴン』でブレイクし人気タレントとして活躍。2008年には「熊本県宣伝部長」に就任。2011年に結婚、2014年に長男を出産。2015年、離婚を機に熊本で生活を始める。現在は、母親、タレント、経営者、大学生として多忙な日々を送る。
のびのび自由に子育てをしたかった
結婚生活は福岡で送っていた。2015年に離婚した際、東京に戻ってタレント業を本格化するという選択肢もあったはずだ。だが、彼女は子供とともに地元・熊本へと戻る決断をした。
「東京で子供と二人っきりで生活する、自分ひとりで子育てするということが想像できませんでした。自分が生まれ育った熊本に帰れば母も妹もいる。自然が豊かで、食べ物が美味しくて、人が温かい。そういう熊本でのびのび自由に子育てをしたいという気持ちでした。いま思えば、その選択は間違えてなかったかな。うちは当たり前に公立の学校に通っていますが、東京だと幼稚園、小学校から受験がスタンダードでしょ。そんなの親も子供も大変じゃないですか。公園のブランコも並ばなきゃならないって聞きました。熊本だとどの公園でも自由に走り回って遊べますから。
習い事とか塾とかを考えると、東京に比べると選択肢が少ないというのはありますけど、子供が本当にやりたいことを見つけたときに全力でサポートすればいい。私がそんなふうに自由に育ってきたので、子供にもそうあってほしいなと思っています」
龍栄荘再建のために自己資金1億5000万円を投じた。それだけの資金があれば、自分と子供、ふたりの今後の人生を豊かにできたのではないか。そう訊ねるとスザンヌは、ニコリと笑った。
「そうそう、そうなんですよ! だから迷いましたよ。人生で最大の買い物ですし、旅館業がうまくいかなければ戻ってこない可能性もあるわけですから。やっぱりこのお金は自分と子供のためにとっておくべきじゃないかって。でも80歳まで生きるとしたらちょうど今、折り返し地点。使う予定がないお金なら、みんなのため、河内町や熊本の人のために使うのもいいんじゃなかと思えたんです。みんなのためにお金を使って熊本が元気になれば、いずれ自分や子供に戻ってくる。そういうふうに考えられるようになった自分の成長も、ちょっと嬉しかったんですよ。逆に自分や子供のためだけだったら、それだけのお金を使うことはできなかったと思います。みんなの役に立つと思えたから、納得して使うことができました」
息子の夢はセブン-イレブンの店員!?
子供は働くママをどうみているのだろうか?
「私には言いませんけど、私の友達とかに『ママは夜遅くまで仕事して頑張ってるよ』とかって話しているらしいです。背中は見てくれているようで、龍栄荘がママの旅館だということも理解しているようです。この間、『この旅館、いつかあなたにあげるからね』と言ったら、『ええ?』って困った感じでした。いま、彼の夢はセブン-イレブンの店員になることなんです(笑)。店頭のクジを店員さんなら早めに買えると思っているみたいで。店員よりはオーナーを目指してほしいな〜と、母親的には思っているんですけど」
いつも明るく、朗らかなのは、若いころと変わらない。だが、彼女が手がけている旅館再生が成功すれば、後継者問題に悩んでいる全国の旅館にとって大きなインパクトになりうる。経営者スザンヌがどんな手腕を見せてくれるのか、今後がとても楽しみだ。