自分のためではなく、子どものため、みんなのため。そんなふうに考えて生きたことで彼女の未来は大きく広がった。2024年末、多額の資金を投入して地元・熊本の老舗旅館を再生させたスザンヌさん。スタート地点は、かつて中退した高校での“学び直し”だった。【特集 RE:チャレンジャー】

どうして勉強しなきゃならないの?
キュートな笑顔とスラリとしたスタイルは、若いころと変わらない。スザンヌさんは17、18年前、バラエティ番組で珍回答を連発する“おバカタレント”として全国的な人気者になった。そんな彼女がのちに故郷に元気を与える経営者になるなんて、当の本人も思っていなかっただろう。きっかけは、子供の小学校入学だったという。
「子供から『どうして勉強しなきゃならないの?』『宿題しなきゃならないの?』ときかれて、ちゃんと答えられなかったんです。私自身、ちゃんと勉強したことがなかったし、勉強する意味なんて考えたことがなかった。そうしたら、ちょうどコロナ禍だったということもあって、私が中退した高校から『籍が残っているから、リモートで復学しませんか』という打診が来たんです。こんなチャンスは二度とないと思ったし、『ママもがんばるから一緒に勉強しよう』って子供に言えると思って、学び直しをすることにしたんです」
高校復学、そして大学へ
2011年に結婚、2014年に子供が誕生した。だが2015年に離婚し、地元・熊本に戻っていた。熊本や東京で時々タレント活動をするものの、人生の多くの時間を子育てに割いていたスザンヌさんにとって、34歳からの「高校生活」はとても新鮮だった。
「自分の半分くらいの高校生と一緒に勉強していたんですけど、彼女たちの学び方、考え方を知るのがすごく楽しかったんです。ディベートの授業とかあると、みんな真剣に政治のこととかを話し合うんですよ。そういう若い子たちに刺激を受け、背中を押してもらっていました。勉強というか、いろんなことを知っていくのも楽しかったし、せっかく勉強する習慣がついたのにやめてしまうのはもったいないなと思って、大学に進学することにしました」
2022年4月、スザンヌさんは日本経済大学に進学。彼女が専攻したのはファッションビジネスコースだった。
「もともとアパレルとかブランドのビジネスをやってみたいという思いはあったんですけど、大学のゼミで起業のこととかを学んでいるうちに『私にもできるかも。会社つくってみよう』と。ビジネスをやるぞ!って感じではなく、勉強の一環というか、実習みたいな感覚(笑)。だって普通に会社をつくろうと思ったら、コンサルとか会計士とかいろいろな人にお金を払って、道筋を作ってもらうわけじゃないですか。
でも私の場合、学生だから、まわりに専門家の教授や先生がいて、いつでも無料で親切、丁寧に教えてもらえるんです。起業の理念とか定款はどうすればいいか、簿記会計とか契約はどうすればいいかとか、先生方に聞けばわかりやすく教えてくれる。2023年に株式会社yamaを立ち上げ『Style Reborn』という古着リメイクのブランドをスタートしたんですが、大学に行っていなければ実現していなかったかもしれません」

1986年熊本県生まれ。福岡でのモデル、タレント活動を経て19歳で上京。2007年、『クイズヘキサゴン』でブレイクし人気タレントとして活躍。2008年には「熊本県宣伝部長」に就任。2011年に結婚、2014年に長男を出産。2015年、離婚を機に熊本で生活を始める。現在は、母親、タレント、経営者、大学生として多忙な日々を送る。
築70年の旅館に一目惚れ
実は、熊本に帰った翌年、彼女は友人とともにカフェをオープンしたことがある。だが、開店3ヵ月後に熊本地震に見舞われ、店は閉店に追い込まれた。
「あの地震で店も食器類も全部グチャグチャになったので、再開するのは難しい状況でした。ただ今思えば、当時は客単価とか人件費とか経営のことはなにも知らず、考えずでやっていたので、地震がなかったとしてもうまくいかなかったと思います」
学び直し、自信をつけ、経営者となった彼女が次に考えたのは、熊本に“自社ビル”を持つことだった。
「東京に持っていたマンションが7500万円で売れたんです。熊本ならその金額があれば、小さなビルが買える。古いビルでいいからかわいくリノベーションして、アパレルとかエステの店とかやれたらいいなと思って、物件を探してみることにしました。でもタイミングがよくなかったのか、思うような物件が見つからず……。そんなときに紹介されたのが、市内の中心部からクルマで30分ほどにある山間の旅館。4年前に廃業したけど建物はそのままだというので、興味本位で見に行ってみたんです」
熊本市西区河内町、有明海にのぞむ龍栄荘は約70年前に開業。地元の人に愛された温泉旅館だったが、後継者不足のため、2019年に閉館していた。
「目の前にきれいな海があって、後ろはみかん畑の山と神社。建物は廃業して数年経っているのに堂々とした雰囲気でした。ちょうど海に夕日が沈むタイミングで、本当に素敵だったんです。それが300坪で2400万円! しかも温泉もついている。完全に一目惚れですよね。7500万円あればリフォームもできるだろうと。ほぼ即決のような感じで買うことを決めました」
だが、いざリフォームを始めると思わぬ誤算がスザンヌを待っていた……。
※次回に続く(5/1日公開予定)