2025年4月2日、「アマン東京」、「アマン ニューヨーク」に続く、都市型サンクチュアリとして「アマン ナイラート バンコク」が誕生した。日本のメディアではいち早く訪れたホテルの全貌をご紹介する。

まるで美術館のようなアマンの都市型サンクチュアリ
羽田空港から約7時間のフライトを経て、タイ・スワンナプーム国際空港に到着したところから、すでにアマンの旅は始まっている。「アマン ナイラート バンコク」のスタッフに導かれ、ファストトラック(優先入国審査)で入国。その後、快適なリムジンに乗りこみ、車窓から金色の寺院やショッピングセンターなど活気ある街並を望み、一路ホテルへ向かう。約50分で到着した先は、街の喧騒とは無縁の緑豊かなホテルのエントランス。「アマン ナイラート バンコク」が位置するのは、バンコク中心部の大使館が立ち並ぶエリアで、都心であるにもかかわらず、静寂のなかにあるという稀有なホテルなのだ。
まず圧巻なのは、1階のエントランスと9階のロビー。リムジンでホテルに到着すると、銅板を彷彿とさせるような滑らかで温かみのある金属パネルが波のように重なり合い、エントランスの屋根を覆う。また、植物ウォールや樹木が配され、ライトアップが美しく、いっきに静謐な世界へと導かれるよう。
9階のレセプションエリアへ到着すると、3階分の吹き抜けの圧倒的スケールの空間が目前に広がる。樹齢100年を超えるチャムチュリーの木をモチーフにした高さ12mの彫刻がそびえ立ち、6,000枚の葉が徐々にその色を金から黒へと変化させるインスタレーションが出迎えてくれる。水盤にはランタンが浮かび、異世界に迷い込んだような感覚に。その様はまさに幻想的という言葉が相応しい。
アマンは、1988年にタイ・プーケットに初のリゾート「アマンプリ」を開業したことを皮切りに、現在、世界20ヵ国に36軒の唯一無二のリゾートをつくり続けている。すべてがその国や地域の文化、自然、歴史を尊重しながら、アマンらしさを追求することで、その地ならではの体験を味わえるうえに、どこを訪れても深い寛ぎを得られることから、常にゲストの心身を満たしてくれる。
その伝説の始まりとも言える聖地、タイの中でも大都市・バンコクに誕生した「アマン ナイラート バンコク」。ホテル名に冠する「ナイラート」とは、バンコクで初めてバス事業や船の運航をスタートし、地域開発なども行ってきた名家。ナイラート家との協業の元、ホテルのデザインはこの地の文化的背景に根ざし、時代を超えた価値を体現する。ユニークなのは、ナイラート家の邸宅跡地であるナイラートパーク内にホテルがあること。木々がそびえる陽光が気持ちよいナイラートパークを歩けば、大きな空のもと、鳥のさえずりが聞こえ、バンコクの中心地にいることを忘れてしまう緑のオアシスだ。
なかでも、「アマン ナイラート バンコク」のインスピレーションの元とも言える存在が、「ナイラートパーク ヘリテージホーム」だ。1951年にナイラート氏によって設計・建築された邸宅で、2012年に敷地は庭園として生まれ変わり、現在もこの敷地内に残る貴重なもの。宿泊ゲストは歴史あるこの邸宅を巡るなどアクティビティを体験できるので、ぜひお薦めしたい。
お籠もり必須のアーバンリゾート
「アマン ナイラート バンコク」は地上36階建の館内に52室のスイート、34戸のアマンレジデンス、会員制クラブ「アマンクラブ」、総面積1,500㎡の「アマン スパ&ウェルネスセンター」、そして個性豊かなダイニングやバーで構成されるという、お籠もりにうってつけな充実のホテル。
全52室のスイートは最小でも92㎡という広さを誇りバンコクでも最大級。目を見張るのは、アマンならではの空間設計とオリジナリティ溢れるインテリアだ。世界中のスーパーラグジュアリーなデスティネーションの美学を形づくる建築家、ジャン=ミッシェル・ギャシー氏が統括し、インテリアは氏が率いる建築デザインファーム、デンニストンが手がけ、ここにしかない本物のラグジュアリーのカタチをつくりあげた。
客室は全6種。部屋によって眺望が異なるのも一つの個性で、北向きの窓からバンコク北部の市街地をパノラマ的に眺める「デラックススイート」(94〜98㎡)、南向きの窓からナイラート・パークの緑や夕暮れ時の街並みを望む「プレミアムスイート」(94〜99㎡)、西・北方面に広がる森林と都会が混在した景観を楽しめる「コーナースイート」(92㎡)、南西の角に位置し、都市風景を一望できる「プレミアコーナースイート」(92㎡)、西側に面し、オープンエアのテラスを有する「テラススイート」(114㎡)、そして18階の1フロアを占めパノラマティックな眺望を独占できる「アマン スイート」(566㎡/追加ベッドルーム2室を含むと713㎡)など多種多様だ。
今回は、「デラックススイート」と「アマン スイート」の2部屋をご紹介したい。
まず11階から17階に位置する「デラックススイート」へ向かうためにエレベーターから降りると、2層吹き抜けの中央に禅ガーデンと水盤をモチーフにしたアートワークが目の前に現れる。静謐さを演出するた贅沢な空間づかいだった。
部屋に一歩足を踏み入れると、最大限に自然光をとり込む天井高の大きな窓。部屋はクリーム色やグレー系のクラシックカラーを基調とし、木材、石材、レザー、樹皮などの自然素材をインテリアに多用しているため、その調和が深いリラックスに誘う空間となっている。客室にはナイラートパークの植物をモチーフしたアート作品が随所に飾られる。
滞在中に便利だったのは、客室内の可動式パネル。完全な壁で仕切られているわけではないので、少しパネルを押せばバスルーム、ベッドルーム、クローゼットのレイアウトをセミオープンに切り替えられ、どこに向かうにもノンストレスの導線が得られた。
圧倒的なダイナミックさを誇るのは、18階の全フロアを占め、バンコク最大級の広さを誇る「アマン スイート」だ。西向きのテラスに続くリビングエリアはもちろん、南向きの長いバルコニーに面したラウンジ、シアタールーム、専用エレベーターを備え、ベッドルームを2室加えられるなど、フレキシブルなレジデンススタイルのスイート。
息を飲むのは、部屋の中に突如として現れるプライベート・スパだ。大きな水盤と巧みな光の演出で幻想的な雰囲気を醸しだしながら、温水と冷水のプランジプール、サウナ、スチームサウナなどを完備。完全プライベート空間のため、誰の目も気にせずゆったりとリラクゼーションを図れるという、他には類を見ないスケール。その空間演出に心揺さぶられずにはいられない。
口福をかなえるレストラン&バー
お楽しみの食事はというと、早朝から深夜まで楽しめるラインナップが揃う。10数メートルはあろうかという天井高を誇る9階のダイニングフロアには、アマンの象徴的なイタリアン ダイニング「アルヴァ」、テラス席もあるオールデイダイニング「1872」、そして、宿泊者のみ利用できるプールサイドバー「ザ・プール」が。
また、19階のアマンクラブには日本からインスパイアされた鉄板焼き「ヒオリ」、鮨「セスイ」とともに、毎日ライブミュージックが楽しめるラウンジ&カクテルバー「アマン ラウンジ」や「シガーバー」が備わる。なかでも、「ザ・プール」と19階は宿泊者、レジデンスオーナー、クラブ会員専用なのでゆったりとした時間を過ごせるだろう(「アルヴァ」と「1872」は事前予約でビジターゲストも利用可)。
4つのレストランのなかでもアマンの象徴的なレストランである「アルヴァ」。そのシェフ、エドアルド・トラヴェルソ氏の料理は「ハーヴェスト・キュイジーヌ(収穫の料理)」というアルヴァの哲学を体現し、旬の食材へのこだわりを持つイタリアンを提供する。朝や昼なら、バンコクならではの豚串焼きBBQやタイ風のおかゆなども楽しめるのも嬉しいところ。
「1872」でも、イタリア料理はもちろん、パッタイやグリーンカレーといったタイ料理もラインアップする。また、エグゼクティブ・ペストリーシェフのフロリアン・クトー氏によるアフタヌーンティーも人気で、事前予約で訪れるビジターも多いという。ピエール・エルメ氏ら著名なパティシエのもとで研鑽を積みつつも、北京、バンコク、香港といった都市での経験が昇華。アフタヌーンティーは、まるでアートのように見目麗しくありながら、食感、味わい、バランス、そのすべてにおいて感動的だった。
ここバンコクで、日本からインスパイアされた新しいダイニングコンセプトを提供する2軒についてもご紹介したい。
カウンター8席のみの鮨「セスイ」で腕を振るうのは水流智志氏。江戸前鮨の伝統的な技法とセンスが光る。19品のコースはおまかせで、1品1品が繊細で美しく、香りや食感を刺激しながらも、食材の旨みを最大限に引き出す構成。水流氏の温かな空気感のなか、料理は一球入魂とも言えるこだわりを持つ。
そして、鉄板を囲むようなコの字型カウンター14席の鉄板焼き「ヒオリ」。各地の農園から厳選した食材を使用し、味噌や醤油をベースにした自家製ソースとともに供される。鉄板焼きという枠を超えたメニュー構成で、次は何が出てくるのかとワクワクするような美食体験となることだろう。アラカルトもあるので気軽にサクッとつまむこともできるのも、さまざまなシチュエーションに適していて、使い勝手も抜群。
ホリスティックな回復が期待できるスパ
アマンに滞在するにあたって、何が何でも外せないのはホリスティック・ウェルネス体験。単なるスパではなく、心・身体・精神の調和をかなえる目的地でもあるからだ。伝統療法と先端医療、パフォーマンス向上を目的とした「アマン スパ&ウェルネスセンター」へ。2フロア総面積1,500㎡を誇り、サウナやハイドロセラピー設備を備えたアマン スパを筆頭に、美容医療に根本から向き合うヘルティチュード・クリニックによるメディカル・ウェルネス、そしてジムやサウンドヒーリングなどを行うスタジオを備える。
アマン スパでは、アマンのシグネチャートリートメントなど多く取り揃えるが、今回体験したのは「アマン ナイラート バンコク」限定の「ライスコンプレスオイルマッサージ」。
まずは、最大限の効果をもたらすために、温浴施設へ。ナイラート・パークを眼下に、温かいジェットバスで筋肉の緊張をほぐしたり、ドライサウナ&スチームサウナで身体の芯から温める。
スパの施術では、もち米を詰めたライスコンプレスを温めて使用し、それを肌に沿って穏やかに押し当てていくため、じんわり身体が温かくなっていくのがわかる。それと同時に、部屋はお米の香ばしい美味しそうな香りが漂う。温熱と香りによって、どんどん深いリラックス状態へと導かれていく。また、精油オイルによるボディトリートメントにはタイマッサージの技法も取り入れられ、栄養成分が肌を滑らかに整えてくれると同時に、筋肉のコリがほぐれ、精神的にも肉体的にもリラックス効果は抜群だ。
本物のラグジュアリーを求めてたどり着くべき場所
エネルギー溢れるバンコク中心部のなかでも、ナイラートパークの緑と異次元の静謐さに包まれた、アマンの都市型サンクチュアリ。成功者が歴史を育んだこの地はある意味、パワースポットのようだ。歴史に思いを馳せながら、アマンによる心地よいおもてなしの精神が心にじんわりと沁みる、心身ともに満たされる滞在となった。
「人がラグジュアリーを形づくる」を身をもって感じさせてくれるリトリート、それが「アマン ナイラート バンコク」だ。