英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者のお話、第242回。連載【英語力0.5レッスン「人のEnglishを笑うな」】とは
人生で初めての経験
「風呂の栓がない」
先日のアメリカ出張の際、一緒に行った女性の先輩が夜、そう言ってホテルの私の部屋を訪ねてきました。取材が続き、私たちがホテルに戻ったのは深夜です。一刻も早く風呂に入って寝たかったのですが、どうやら先輩の部屋のバスタブには、なぜか栓がなく、湯をためることができないということ。
「フロントに電話して言えばいいじゃないですか」
そう言いかけましたが、「風呂の栓がない」って英語でなんて言えばいいのでしょうか。ただでさえ英語の電話が苦手なのに、そんな難しいシチュエーションを説明できる気がしません。それにそもそもホテルで「風呂の栓がない」という状況を経験したことがなく、「もしかしたら最新のホテルの風呂には、栓などなく違う方法で湯をためるのかも」とまで思って、自分の部屋の風呂を確認してみました。けれど私の部屋のバスタブには、やっぱりちゃんと栓、ありました。
チェーンで繋がっていない、取り外しのできる栓だったので、おそらく先輩の部屋は風呂掃除の際に、係の人がつけ忘れたのだと思われます。
翌朝も早いのですぐにでも寝たかった私たちは、小難しいやりとりをする体力がなく、フロントに言うのをあきらめました。
「私、もう疲れてるんで今日はシャワーだけでいいです。うちの栓、貸しますよ」
そう言って自分の部屋の風呂の栓を取り外して先輩に渡しました。
人に風呂の栓を貸したのは、人生で初めてのことでした。
Bath plug=風呂の栓
翌日、英語での言い方を調べてみたら「バスプラグ」というなんとも簡単な単語でした。他にもdrain plugとかstopperともいうそうです。でもstopperだと何を「ストップ」するものなのか説明が必要になりそうです。
“Bath plug”がないことをわかりやすく説明するために
朝からの仕事を終え、夕方に同じホテルに戻り、風呂の栓がないことを思い出した私は、「Bath plugがない」とフロントに電話をしようと思いました。
けれど昨晩先輩に日本語で「風呂の栓がない」と言われた際、一瞬意味がわかりませんでした。風呂の栓を無くしたことが人生で一度もなかったので、一瞬何を先輩が探しているのか、よく理解できなかったのです。だからきっと、英語で言っても同じように、ホテルの人も「?」となるのではないか。それが私の下手な英語だったらなおさら相手を混乱させるのではないか、そう思いました。
結局、栓のない風呂の写真をスマホで撮って、フロントまで降りて行き、その写真を見せながら“There is no bath plug in my room.”と説明しました。ホテルの人は驚いた顔をして「あとで持っていくよ」と言ってくれました。
風呂の栓のスペアがフロントにあるのかどうかはよくわかりませんが、ちょっと外出している間に気がついたら風呂の栓がつけられていました。
おかげでその日はゆっくり湯船に浸かることができ、疲れをとることもできました。今後また海外のホテルで、風呂の栓がない、なんてことに遭遇するかもしれません。その日のために、Bath plugちゃんと覚えておきたいです。
連載【英語力0.5レッスン「人のEnglishを笑うな」】とは……
英語力ゼロのまま渡英、行けばなんとかなると思いつつなんともならなかった2年間のイギリス生活。帰国後はせっかく覚えたいくつかの英単語も忘れ去り、それでも時々は英語と格闘してみる現在、40歳。
「その英語でよく外国に行ったね」「めちゃくちゃカタカナ英語だね」と、なぜか日本人に笑われながらも、覚えたフレーズの数々。いつかはうまくなりたいから、恥を忍んで今日もブロークンイングリッシュ。下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。人のイングリッシュを笑うな。