アストンマーティンとは基本的にGTカーブランドである。そのラインアップにおいてもっともコンパクトで俊敏なスポーツカーが「ヴァンテージ」だ。そしてこのたびその性能をさらに引き上げ「S」の名を冠した「ヴァンテージS」が登場した。最高出力680PS、最大トルク800Nmという脅威のパワーをクローズドコースで存分に味わってみた。

F1のセーフティカーにも採用されるパフォーマンス
この数年、最高出力が500PSを超えると駆動方式は4WDを採用することが一般的になってきた。2WDより4WDのほうが、より安全かつ効率的に大パワーを扱うことができるためだ。例えばメルセデスAMGやBMW Mなどは、2WDと4WDを切り替える機構を取り入れたりもしている。
しかし、あえてリスクが伴うことは承知のうえで、フロントにエンジンを搭載し、リア駆動の2WDモデルをつくり続けているブランドがアストンマーティンだ。現行の量産ラインナップにおいても4WDを採用するのはSUVのDBXのみである。

現行型のヴァンテージは4世代目にあたるモデル。2024年には大幅改良が実施されており、「S」はその進化版にあたる。近年、アストンマーティンはF1の公式セーフティカーとして採用されているが、その大役を務めるには並外れた性能が求められるため、ヴァンテージSの性能の高さが裏付けられている。
今回の試乗は千葉県南房総市にある会員制ドライビングクラブ・THE MAGARIGAWA CLUBにて行われたため、公道では味わえない速度域でそのパワーを存分に味わうことができた。
従来モデル比で+15PSの680PSを発揮

ヴァンテージSのボディサイズは全長4,495mm×全幅1,980mm×全高1,275mm、ホイールベースは2705mm。車両重量は1745kg。全長は4.5m以下に収まっておりアストンマーティンのラインアップにおいてはもっともコンパクトなモデルだ。
エクステリアにおける特徴は、フロントにエアダムが追加され、ボンネットにエンジンの排熱効果を高めるブレードを装備したこと。さらに、アンダーボディの改良により空力が向上している。さりげない差別化としてフロントフェンダーに、赤いエナメルガラスを充填したハンドメイドの真鍮鍛造製の「S」のバッヂがあしらわれている。

インテリアは、DB12のながれを汲む水平基調なもの。ダッシュボード中央に10.25インチサイズのタッチスクリーンを配置。その下部のセンターコンソールにスタート/ストップボタンやシフトセレクター、ボリューム、エアコンの温度調整スイッチなどが並ぶ。スタート/ストップボタンを囲むローレット加工された金属製のロータリースイッチはドライブモード切りかえを行うもので、レッドやシルバーから色を選べるという。

パワーユニットは、メルセデスAMGによって供給される4リッターV8ツインターボエンジンをベースに独自のチューニングを施したもの。最高出力は従来モデル比で+15PSの680PS、最大トルクは800Nmを発揮する。出力の変更に伴い、ドライブバイワイヤのスロットルマップにもチューニングが行われている。トランスミッションはZF製8速ATをリアに搭載するトランスアクスル方式を採用する。最高速は325km/h、0−100km/h加速は3.4秒となっている。
運転の愉しいハンドリングマシン

足回りには減衰力の制御帯域を広くとれるビルシュタイン製DTXアダプティブダンパーを採用しており、コーナー侵入時のフロントの入りとステアリングのレスポンスを向上させている。かといってやみくもに硬く締め上げるのではなく全体調和が図られており、乗り心地も改善している。
実際にコースを走っても、これがヴァンテージなのかと思うくらいコースの後半のワインディングセクションでもアンダーステア傾向を微塵もみせることなくグイグイ曲がる。高速域でのスタビリティも高い。
フロントとアンダーフロアまわり、そしてリアに装着されているデッキリッドスポイラーによって最高速度時のリアのダウンフォースを44kg、全体としては111kg増加させるというが、単純な馬力アップよりも足まわりや空力の性能の改善が効いているようだ。ステアリングを通して安心、安定感が伝わってくる。

冒頭にも書いたようにアストンマーティンとは基本的にGTカーブランドである。すべてのモデルがラグジュアリーかつ優れたグランツーリスモ性能を有している。しかし、ヴァンテージSは、スポーツカーらしいハンドリングマシンとしての楽しさも併せ持っている。最初は680PSを後輪駆動でなんて、戦々恐々としながら走り始めたけれど、最後は降りたくないと思うくらい運転していて愉しいクルマだった。
問い合わせ
アストンマーティンジャパン TEL:03-5797-7281

