CAR

2025.12.07

羊の被りものは、いまやモビルスーツに。史上最強のBMW M5【試乗】

第7世代へとフルモデルチェンジしたBMW M5は、初のプラグインハイブリッドモデルになった。システム最高出力727PS、最大トルク1000NmというBMW史上最強のパワーユニットを搭載する元祖“羊の皮を被った狼”は、果たしてどんな走りをみせるのか

羊の被りものは、いまやモビルスーツに。史上最強のBMW M5【試乗】
BMW AG

M5としては初のハイブリッドモデルに

初代M5が登場したのは1984年のこと。当時のBMWのモータースポーツ活動を担っていたBMW Motorsport社(現在のBMW M社)が5シリーズセダンをベースにレースカー譲りの高性能エンジンを搭載して仕立てた、最高速度250km/hに達する世界最速の4ドアセダンがM5だった。一見するとふつうのセダンというギャップから、“羊の皮を被った狼”という異名をもつようになった。

それから約40年のときを経て、M5は第7世代へと進化した。ポイントとしては、年々厳しくなる排ガス規制をクリアしつつも、従来よりも高性能なモデルとするためM5としては初めてハイブリッドモデルになったことだ。

充電ユニット
充電ユニットは最大7.4kWの普通充電に対応。最大航続距離は約70km、EVでの最高速度は約140k/h。新型BMW M5は、先代モデル同様にドイツのディンゴルフィング工場において、生産が行なわれる。

パワーユニットは、最高出力585PS、最大トルク750Nm を発揮する4.4リッターV8ツインターボエンジンと、Mモデル専用に開発された8速ATのハウジング内に収められた197PSを発揮する電気モーターを組み合わせた、M専用プラグインハイブリッド「M HYBRIDシステム」を採用する。

システムトータルでの最高出力727PS、最大トルクは1000Nmに到達。ハイパフォーマンスSUVのBMW XM Labelと同様にBMW史上最強のパワーユニットを搭載するモデルのひとつだ。バッテリー容量は22.1kWhで、約70kmのEV走行が可能となっている。

ボディサイズは全長5096mm、全幅2156mm、全高1510mm、ホイールベース3006mmと先代の7シリーズにも迫るもの。ベースとなる5シリーズと比べるとフロントフェンダーは75mm、リアフェンダーは48mmもワイドになっている。

ルーフ
軽量化のためルーフにもカーボンを採用する。

またM専用フロントバンパーやガーニッシュ、そしてブラックのキドニーグリルには夜間走行時には光り輝くギミックのアイコニックグローが備わる。リアまわりにおいても専用リアバンパーにカーボンリアスポイラー、ディフューザーが装備されている。新型は狼感がそこら中に漂っており、もはや羊には見えない。

ステアリングを通して伝わってくる圧倒的な剛性感

インテリアは最新のBMWデザインの流れをくんだもので、12.3インチのインフォメーションディスプレイと14.9インチのコントロールディスプレイを組み合わせたBMWカーブドディスプレイが、ドライバーの目の前に配置されている。先代モデルに比べてボタン類が大幅に削減され、使用頻度の高いスイッチ類はステアリングとセンターコンソールに集約された。シートは立体的なサイドサポートを備えた専用品だ。

シートに腰掛け、ステアリングを握っただけでこのクルマが只者ではないことが伝わってくる。センターコンソールにあるスタート/ストップボタンはMモデル用に赤く彩られている。赤と青を基調としたメーターの表示やアンビエント・ライティングが目に鮮やかだ。

センターコンソールにある「M HYBRID」ボタンを操作すると、エンジンとモーターとのエネルギー配分を制御することができる。モードは「ダイナミックプラス」「ダイナミック」「ハイブリッド」「エレクトリック」「eコントロール」という5種類。ダイナミックの2つはエンジンとモーターともに積極的に使うスポーツ仕様で、ノーマルはハイブリッド。バッテリー残量が十分であれば基本的にEV走行する。

一方で「M MODE」ボタンを使えば「ロード」、「スポーツ」、「トラック」と走行モードの変更が可能。さらに「SET UP」という機能を使えば、シャシーやステアリング、ブレーキ、エンジンサウンドなど個別で好みに調整することもできる。そして駆動方式は基本的に4WDだが、2WDへの切り替えも可能となっている。これらセットアップの組み合わせの数は膨大で、1日の試乗ではとても試せない。ましてやドリフトすることを前提とした2WDモードなどはとても公道で使えるものではなく使いこなすにはサーキットに行くほかない。

727PS/1000Nm+最新制御がもたらすクールな速さ

EVモードで走り出した瞬間からボディ剛性の高さがわかる。BMWは基本的に内燃エンジン車からEVまでを同じプラットフォームでつくる戦略をとっているが、あらかじめフロア下にバッテリーを搭載する構造となっているのが剛性アップに効いているようだ。車両重量は2.4トンもあるので相当に重いはずだが、高剛性であることに伴い、足回りが存外にしなやかに動くためそれを感じさせない。EVとしても十分に速く、EVモードでの最高速度は140km/hに到達するという。

そしてエンジンが始動すると、とにかく速い。「アダプティブMサスペンション」や「アクティブMディファレンシャル」、初の4輪操舵「インテグレーテッド・アクティブ・ステアリング」、Mモデル専用の4輪駆動システム「M xDrive」などの最新電子制御と727PS/1000Nmという圧倒的なパワーによって、この大きく重いボディをぐうの音も出ないほどにねじふせている。荒々しさを感じることはなくただただクールに速い。あまりの制御の素晴らしさに自らが操っている感覚は希薄ともとれるが、速くて快適なグランドツアラーとしてはうってつけである。

かつてMモデルといえばドライバーオリエンテッドで運転支援機能の採用にあまり積極的でない時代もあったが、いまや一定の条件下において、ステアリングから手を離しての走行が可能となる「ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能」をはじめ、完全自動駐車が可能となる「パーキング・アシスト・プロフェショナル」まで、ADAS(先進運転支援システム)もフル装備である。

新型M5は、いまや羊のふりもしていないし、爪を隠してもいない。全方位で身体能力を拡張してくれるものという意味では、これは現代のモビルスーツなのだと感じた。

TEXT=藤野太一

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