ミニの電気自動車シリーズに新たに加わったのが、最速バージョンの「ミニ ジョン・クーパー・ワークスE」。昔なつかしいジョン・クーパーの名を冠した最新の電気自動車は、果たしてどんな乗り味をみせてくれるのだろうか。

ミニのハイパフォーマンスブランド「JCW」
“ミニ”と“ミニクーパー”の違いをご存知だろうか。いまやミニとクーパーは切ってもきれない関係にある。そもそもは1960年代にミニをベースとしたラリーカーで、モンテカルロラリーを3度制した名エンジニア、ジョン・クーパーの名前に由来するものだ。クーパーとは高性能バージョンにつけられた名称であり、この時代からクーパーやクーパーSといったモデルが市販されるようになった。
2002年よりミニはBMWグループ傘下となり、英国ブランドの伝統を受け継ぎつつ開発、生産などはBMWが行っている。そうしてミニはそのバリエーションを拡大してきた。現行モデルでは3ドア、5ドア、コンバーチブルの3種類のボディタイプの名称はすべて“ミニクーパー”に統一され、高性能バージョンではなく標準グレードという位置づけになった。これ以外にもSUVタイプのCOUNTRYMAN(カントリーマン)、電気自動車のみをラインアップするACEMAN(エースマン)も存在する。

ミニクーパーが標準グレードになったことで、別に高性能バージョンを表す名称が必要になる。そこで生まれたのがJCW(JOHN COOPER WORKS)という、ジョン・クーパーのフルネームを冠したサブブランドだ。
2024 年にはミニとしては初となる量産EV、ミニクーパーEが登場。そして今回試乗したのは今年追加されたその高性能バージョンである「MINI JOHN COOPER WORKS E」。ちなみに内燃エンジン仕様のミニとEVのミニ、外観は似てはいるがプラットフォームなどは別物になっている。
EVにとって重要な鍵となるのが空力性能。JCW Eではフロントグリルとアンダーボディをフラットに、リアには大型のディフューザーを装備して空気抵抗を低減。専用のフロントバンパーとリアスポイラーがダウンフォースを発生し、コーナリング時などに車体を路面におしつけて挙動を安定させる。
インテリアでは、ダッシュボードにリサイクルポリエステルを用いたファブリックを採用。ドライバーの目の前にはメーターはなく、速度などはヘッドアップディスプレイに表示される仕組みだ。インフォテインメントはセンターの丸いディスプレイに表示される。JCW専用の太いリムのステアリング、スポーツシートなどがやる気にさせてくれる。
60年代のミニクーパーを彷彿とさせる
パワートレインは、床下に容量54.2kWhのリチウムイオンバッテリーを配置。フロントアクスルに搭載した電気モーターで前輪を駆動する。最高出力は通常時は170kW(231PS)で、Eブースト使用時は190kW(258PS)に到達。最大トルクは350Nmを発生し、一充電走行距離は421kmとなっている。 Eブースト機能とは、ステアリングのパドル操作で作動し、アクセルペダルを踏み込むと、追加で約20kWのパワーが10秒間供給されるもの。発進時や追越加速時などにその効果を発揮する。
走行モードはJCWにふさわしい“ゴーカート”モードを選んで走りだす。とにかく加速鋭く、きっちりアクセルペダルを踏むと最近ではめったに感じることのないトルクステアまで盛大に味わえる。そして車内には排気音ならぬ電子的疑似音が響きわたる。表面の荒れた道を走行しているとその反動がシートやステアリングを通してダイレクトに伝わってくる。
スプリング、スタビライザー、ダンパーのすべてを専用にチューニングしたスポーツサスペンションを採用し、タイヤもEV専用のスポーツタイヤを装着していた。ボディ剛性が高いだけに腰砕けになるような印象はないが、正直にいうとこれほど硬派な乗り心地のクルマは今どき珍しい。路面のフラットなサーキットとか、いっそダートとか、そんな道を全開で走るときっと楽しいだろうけど、これ1台で日常のすべてを賄うとなると少しばかり気が引ける。
とはいうものの、もっと乗り心地のいいミニが欲しいのならばJCWを選ばなければいいということだ。選択肢は他にもたくさんある。“ジョン・クーパー”の名を冠し、1960年代のミニクーパーがもっていた乗り味を最新の技術で現代に蘇らせたなら。そんな元祖ミニクーパーへの原点回帰というBMWのエンジニアたちによる確信犯的な企みなのではないかと思った。かつてのミニクーパーを知る大人の遊びグルマというわけだ。







