CAR

2025.11.09

ジキルとハイドの両面で時代にマッチ。PHEVになったランボルギーニ・ウルスSE【試乗】

ランボルギーニは、2024年末までにラインアップのすべてをハイブリッドへと移行し電動化を進めていく「コル・タウリ(Cor Tauri)」という戦略を打ち出してきた。そしてセールスの半数以上を占めるブランドの大黒柱であるSUVの「ウルス」もガソリンエンジン仕様にかえて、PHEV(プラグインハイブリット)の「ウルスSE」へとモデルチェンジを果たした。日本上陸を果たした「ウルスSE」で自然豊かな福井の町を走ってみた

ジキルとハイドの両面で時代にマッチ。PHEVになったランボルギーニ・ウルスSE【試乗】

実はサステナビリティに積極的なランボルギーニ

福井県は古来より、「越山若水」と呼ばれてきた。越前の山々を指す「越山」と、若狭の水を現す「若水」をあわせた言葉で、緑豊かな大地と清らかな水に恵まれたところを意味するという。

一聴するとランボルギーニとはかけはなれた世界のようにも思えるが、実はサステイナビリティに関しては積極的なブランドである。イタリアの本社工場は2015年からカーボンニュートラルを達成しており、太陽光発電をはじめ再生可能エネルギーによる自家発電量を増加し、地域緑化などにも取り組んでいる。またこれまで難しいとされてきたカーボンファイバーなど複合素材のリサイクルも開始。ウルスSEは従来のガソリン仕様に比べて約80%のCO2削減を実現している。いまはスーパーカーブランドだからこそカーボンニュートラル社会の実現に向けて積極的な姿勢を打ち出す必要があるのだ。

ランボルギーニ・ウルスSE
試乗会の拠点は福井駅からほど近い割烹店「開花亭sou-an」。店舗とインテリアの設計は建築家・隈研吾氏によるもの。

これまで福井県というと、東京からはすこし縁遠い印象があった。しかし、2024年3月に北陸新幹線の金沢~敦賀駅間が開業し、東京から福井まで乗り換えなし最短2時間51分で到着する。午前8時すぎに東京駅を出発して昼前には福井にいるなんてことが可能になった。

スタート地点は、地元の旬の魚介や野菜などを使った一品料理や本格懐石をよりカジュアルに楽しむことができる割烹店「開花亭sou-an」。店舗とインテリアの設計は建築家・隈研吾氏が手掛けており、緻密な幾何学的デザインはどこかランボルギーニのそれと相通じるものだ。コース仕立てのランチに舌鼓をうったあとは試乗へと向かう。

ランボルギーニ・ウルスSE
ルートの途中にあらわれたのは約1kmにわたって264本のフウが並ぶ一直線の道、あわらアメリカフウ並木道。

試乗コースは、いま話題の福井県立恐竜博物館や一乗谷朝倉氏遺跡、永平寺、越前和紙の里、地元の蔵元、黒龍酒造が運営する複合施設ESHIKOTOなどに立ち寄る魅力的なプランが用意されていたが、試乗そっちのけになってしまいそうで今回は遠慮しておいた。定番ではあるけれど、世界三大奇勝のひとつとして知られ、日本の国指定天然記念物に選ばれている東尋坊を目指すことにする。

デフォルトはEVモードで、約60kmの電動走行が可能

ランボルギーニ・ウルスSE
「Y」字型のテールランプをはじめ新しくなったリアまわりのデザイン。オプション品のアクラポビッチ製チタンマフラーが装着されていた。

まずエクステリアをチェックしてみる。一見すると従来の内燃エンジン仕様とそれほど変わっていないように思えるが、ディテールは別物になっている。バンパーとフロントグリルは空力性能を高めるために刷新。また新しいフローティングボンネット、リアディフューザーなどを採用する。マトリックスLEDテクノロジーを採用したヘッドライトには新しいライトシグネチャーを導入している。リアまわりでは「Y」字型のテールランプを採用。リア・ディフューザーも刷新しガヤルドなどのスーパースポーツカーからインスパイアされたデザイン要素が盛り込まれている。

ランボルギーニ・ウルスSE
コックピットを彷彿とさせるインテリア。新しいバージョンのヒューマン マシンインターフェイス (HMI) を採用する。

インテリアデザインは、まさにコクピットを彷彿とさせる「Feel Like a Pilot」というランボルギーニの哲学を体現したもの。ダッシュボード中央に配される大型ディスプレイとメーターディスプレイはともに12.3インチで、バージョンアップにより直感的な操作が可能になった。

メーターをのぞきこんで、電動モデルであることを意識するのは、左端にバッテリー残量計があること。そして右下にある走行モード表示がEVとなっている。バッテリー残量が十分であれば、基本的にEVモードでスタートする。従来のモデルなら、エンジンスターターを押すと爆音とともにV8エンジンが目覚めることになるのだけれど、無音でスルスル〜と走りだす。

PHEVなので、駆動用のリチウムイオンバッテリーの容量は25.9kWhとコンパクトなもの。ラゲッジルームの床と電子制御リアデファレンシャルでサンドイッチするように配置し、駆動用のモーターは8速AT内に収めている。満充電であればEVモードでおよそ60kmの走行が可能で、最高速は130km/hに到達する。

V8ツインターボエンジンの気持ちよさは健在

市街地を抜けるといったん高速道路へと向かう。ドライブモードをスポーツに切り替えるとV8エンジンが始動し、いかにもランボルギーニらしく排気音が高まる。

ドライブモードは電動化したことで少々操作が複雑になった。赤いスタート/ストップボタンの左右にレバー(タンブーロ)を配置。左側は従来と同様の「ストラーダ」「スポーツ」「コルサ」「サッビア(砂漠)」「テッラ(オフロード)」「ネヴェ(雪)」とパフォーマンスの切り替えを行うもの。右のレバーでは「EV」「ハイブリッド」「パフォーマンス」「リチャージ」と駆動系の切り替えを行う。ハイブリッドモードではエンジンとモーターを併用しエネルギー効率を最大化。パフォーマンスモードはエンジンを主体にモーターがサポートし走行性能を最大限に高める。リチャージモードではエンジンを使って発電し、バッテリーを最大80%まで充電できる。

パワートレインは、4リッターV8ツインターボエンジンに先述の電動モーターを組み合わせたもの。エンジンは最高出力620PS、最大トルク800Nmを発揮。これに192PS/483Nmを発揮する電動モーターを組み合わせることで、システム最大出力は800PS、最大トルクは950Nmを発生する。0-100km/h加速はウルスSを0.1秒しのぐ3.4秒で、最高速度はウルスSより7km/h速い312km/hに到達する。アクセルを踏めばいつでも圧倒的にパワフルで、気持ちよさが味わえる。

足回りには、フロント285/35、リアは325/30、ともに23インチなんていう大径幅広なタイヤ、ピレリPゼロを履いているけれど、ゴツゴツとした突き上げや嫌なかたさを感じさせない。エアサスペンションのセッティングも良好で、洗練された乗り心地が印象的だった。さらに大柄のボディを意のままに止めることができるカーボンセラミックブレーキのタッチも素晴らしい。

これは自動車に限った話ではないが、コンプライアンスでがんじがらめないまの世の中にあってジキルとハイドではないけれど、人は善悪の境界線を模索しているように感じる。ウルスSEは従来モデルよりCO2 排出量を80%削減しながら、その一方で史上最高のトルクと出力を発揮する。脱炭素とパフォーマンスの両立は、まさにこれからのスーパーカーの課題である。「越山若水」の地で、これがいまのひとつの最適解なのだと感じた。

TEXT=藤野太一

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