慶應義塾大学教授・岸博幸先生が、各分野で活躍するいま気になる人と対談する不定期連載企画「オトナの嗜み、オトコの慎み」。今回の対談相手は、CGOドットコム総長のバブリーさん。

大阪のギャルが私を救ってくれた
岸 今回の対談相手は合同会社CGOドットコムを率いるバブリーさん。「ギャルマインドで世の中をアゲ↑ていく」を目標に、企業や自治体などにギャルを派遣。会議に参加して、企業の人たちとフラットな立場でディスカッションすることで、現代社会が抱えている閉塞感を打ち破ろうと努めています。まずはお聞きしたい。バブリーさんは、もともとギャルだったの?
バブリー いいえ、ギャルになったのは16歳の時。それまでは地元・甲府の進学校に通っていたんですけど、不登校になっちゃって。家出して、大阪に出て、そこで知り合ったギャルがとてもかっこよく見えた。私もギャルになって、夜遊びしまくったんです。3年間、ガチでギャルをやった後、やっぱり大学で勉強したいと思って、立教大学に進学。ギャルマインドの研究を始めて、在学中に今の事業を立ち上げたという感じです。
岸 ギャルマインドって、いったい何?
バブリー 「自分軸」「直感性」「ポジティブ思考」の3つがギャルマインドの重要な要素。ギャルは「相手がどうであれ、自分はこうしたい」という意志が強く、直感を大切に自分のスタイルを貫いていきます。ギャルはファッションが注目されますが、一番大事なのは精神性の部分です。
岸 ギャルマインドは先天的に備わっているもの?
バブリー どうなんだろ。ギャルやってるコたちは、小さい頃にいじめられたり、私のように「勉強して、いい大学に行くのが当たり前」のような価値観を押しつけられたりした経験を持つ人が多い。そうした納得がいかない抑圧から、自分の生き方を大切にしたいという思いが高まるんじゃないですかね。ギャルマインドによって私は救われたし、ギャルマインドが世の中を救うとも思っている。それで、事業を立ち上げたわけです。
岸 その事業がもう4年も続いている。世の中がギャルマインドを求めていたということですね。
バブリー 私たちが提案する「ギャル式ブレスト®」は、現在まで100社が導入。その9割が大手企業です。
岸 企業に出向いて、どんな流れで会議が進むの?
バブリー 会議のルールは5つ。「肩書き・役職関係ない」「あだ名で呼び合う」「リアクション多め」「一番好きな服で参加」「敬語禁止」。先日、三菱鉛筆の会議に呼ばれた時には、6代目社長の数原滋彦さんが参加していました。うちらは“しげぴー”ってあだ名をつけて、それからずっと“しげぴー”呼び。若手社員も全員、そう呼ばなければいけない。しかも、ため口。
岸 それで、効果は?
バブリー 最初は目を合わせずに、ずっと下向いている社員が多いんだけど、会議が進むにつれて発言が増え、雰囲気も確実に明るくなる。それに満足して、「これからも継続して会議に参加してほしい」とか、「うちの会社でも導入してみたい」という依頼が来るんです。
岸 ギャルマインドって、アメリカ人のマインドに近い。僕は5年間アメリカに住んでいたけど、会議に出ると、出席者はみんな目が輝いている。前向きで、明るく、そもそも名前は呼び捨てかニックネーム。それが日本だと、目はうつろで、上司に忖度する人ばかり。
バブリー 日本人も潜在的にギャルマインドを持っている人は多いはず。でも、会社という組織に属すると、どんどん自分を解放できなくなってしまう。だから、そこを少し解きほぐしてあげれば、オープンマインドを取り戻せるって思う。
“ビジュ”がダメ! まずは表情を整えて
岸 バブリーさんの目には、今の日本の政治家はどんなふうに見えますか。
バブリー まず、ビジュが残念。特に顔が本当に暗い。顔って、その人の性格が出るでしょ。辛気臭くて、目つきの悪い政治家を、推せるわけないじゃないですか。
岸 トップが暗くつまらない顔をしていると、下の人たちもそうした顔になっていく。表情は伝染するんです。だから日本は暗く、つまらない国になってしまった。若い世代から見ても、日本はつまらないでしょ。
バブリー 日本は全体的に「サゲ」な印象。ギャルはバイブスの高いところに流れていく傾向があって、以前、うちにいたギャルは青森から東京に出てきて、「東京はイケてない」って言いだした。それで大阪に流れたんだけど、「大阪もイケてない」って言って、今は台湾に行っちゃった。
岸 台湾に行ったギャルは、ちゃんと生活できている?
バブリー その子はほとんど無一文で、知り合いもいない状態だったけど、「今はたくさん友達ができて、夜はずっと遊んでる」って。ギャルはサバイブ能力が高いんです。私もこの前タイに行ったら、現地の人がすっごく歓迎してくれて、あっという間にバイブスを共有できた。
岸 海外って予想以上に簡単に溶けこめるよね。日本ほど閉鎖的な国は珍しい。寛容さがなくて、考え方や生き方が違う人をすぐに排除しようとする。結果として、社会の硬直化がひどくなる。ところで、今、バブリーさんの会社にはギャルが何人くらいいるの?
バブリー 19歳から30代まで30人くらい。なかには男のギャルも。兼業の人も多くて、アーティスト活動やプロレス、スナックのママをやっている人もいる。
岸 いろんなタイプのギャルが企業に行って、トラブルを起こすことはない?
バブリー それが一度もないんですよ。先方は「宇宙人が来るぞ」くらいの感覚だし、ため口で話すのも「ギャルなんだから当然だよね」と思ってくれる。私たちの仕事は、ガチガチに固まった企業文化をぶち壊すこと。その企業の方針に同意することを求められているわけではないので。
岸 ギャルの価値はものすごく高い。そこに気づいた企業が、次々にギャル文化の導入を試みている。その動きがさらに活発になってほしい。日本が明るさを取り戻す秘訣は、ギャルマインドにあると感じます。

CGOドットコム総長。山梨県甲府市生まれ。高校中退後、大阪へ家出し、ギャル文化に感銘を受ける。2022年に合同会社CGOドットコムを設立し、企業や団体の会議にギャルを送り込む「ギャル式ブレスト®」などの事業を展開する。
岸博幸/Hiroyuki Kishi(右)
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。現在、エイベックスGH顧問のほか、総合格闘技団体RIZINの運営にも携わる。

