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2024.11.08

【石田健×岸博之】つまらない日本を面白くするに必要なものとは?

慶應義塾大学教授・岸博幸先生が、各分野で活躍するいま気になる人と対談する不定期連載企画「オトナの嗜み、オトコの慎み」。今回の対談相手は、ニュース解説者・The HEADLINE編集長の石田健氏。

石田健氏と岸博幸氏

金銭欲や物欲よりも問題解決欲求が上

 石田健さんは自身のメディア『The HEADLINE』で編集長を務める傍ら、ニュース解説者として幅広く活躍されています。僕が持っている印象は「まじめ」。本当にやりたいことって何?

石田 今、メディア不況で、大手新聞社でさえ生き残りが厳しいといわれています。でも、大きなメディアが重要な役割を担っているのは確か。彼らが全国各地に支局や記者を置いているから、災害報道などが行えているわけです。大手メディアは知識のインフラ。ネットのニュースはその焼き直しで流通部門を担っているだけ。大手が厳しいからこそ、時代に合った新しいメディアを自分たちが作っていきたいと思っています。

 やっぱりまじめな答えだなあ。石田さんのコメントを聞くと、真っ当すぎて、「つまらない」とも感じてしまう。石田さんの心の奥には、儲けたい、名声が欲しい、高級車に乗りたいといった欲や野望はない?

石田 欲望やコンプレックスは少ないほうだと思います。これは僕だけでなく、世代的な傾向といえるかも。

 それが現在の30代なのかなあ。でも、会社や事業を大きくしたいという野望はあるんですよね。

石田 規模が大きければ大きいほど、伝えられることが増えますから。その思いは、野望といえば、野望といえる。例えば、会社の規模を大きくするために大企業へ営業に行き、何もわかっていない相手に時には「これじゃあ、全然ダメです」と言われる。「やれやれ……」と思うけど、「こちらが至らずに申し訳ございません」と、平然と振る舞うことはできます。会社を大きくするという野望のためにやっているから、平気です。

 客観的というか、冷酷というか。シリコンバレー的発想が強いんですかね。

石田 確かに、僕らの世代はシリコンバレーに強い影響を受けている気がします。大学時代にフェイスブックが上場。政治家よりもメタやグーグルの起業家に憧れました。

 彼らから何を学んだ?

石田 彼らからの学びかはわからないですが「大きな問いを解け」は意識してます。脱炭素とか、モビリティやヘルスケアの問題とか、大きな課題に向き合う起業家は増えましたよね。そうした事業で、世の中をよくすることができれば。

 世の中のため……。社会進化論的には正しいんでしょうね。自己の金銭欲や物欲を優先する人たちをどう思います?

石田 お金はあったほうがいい。それによって選択肢の幅が広がりますから。でも物欲は、ある程度のレベルを超えたら「ここでもう満足だ」っていうアッパーがある。僕はある程度満足しているから、金銭や物、女性への欲望ではないところに目が行く。社会の問題をパズルのように解くことに、欲求が向くんです。

いかがわしさも日本には大切

 僕が問題だと感じるのは、アッパーのレベルが下がったこと。日本はここ30年で一気に貧乏になり、ほどほどで満足するようになってしまった。

石田 確かに。自己の物欲をもっと露悪的に見せてくれる人が出てきたら、社会は面白くなると思う。

 自分はそんな存在になろうとは思わない?

石田 思いませんね。露悪的な振る舞いをしたら、今だとすぐに叩かれてしまいますよね。でも、まじめすぎると「つまらない」と思われる。そのギリギリのバランスが難しいんです。

 つまらない日本を面白くするためには、どうしたらいいでしょう?

石田 「国民共通の物語」を作ることが大事かもしれません。昔は巨大な社会階層があった。政治家が一番上にいて、その下に企業経営者、さらにその下にサラリーマンという感じで、ヒエラルキーがよくも悪くも意識されていた。そのなかで、政治家が掲げるような、全国に道路を造りましょうとか、皆で同じ方向を向くことができたと思うんです。でも、今の日本は分断社会。ピラミッドがたくさんできて、各々のピラミッドが別々の物語を持っています。

 各ピラミッドは情報の共有さえできていない。

石田 逆説的に、近代化される前に近いのかもしれないですよね。昔は貴族と市井(しせい)の人々が完全に分断されていた。お互いのヒエラルキーも欲望の対象もよくわからなくて、共通言語もなかった、そういう側面が今もある気がします。

 日本とは逆にアメリカは大きな物語作りがうまい。

石田 究極にうまいですね。例えば安全保障で米中対立があるとか、脱炭素とか、AIとか、大きなお金が動く背景には大きな物語がありますよね。

 日本で物語作りができていたのは田中角栄の頃まで。今はどうしてそれができないんだろう?

石田 新しい物語を作る人って、最初はいかがわしく見えますよね。マルクス主義よりも前の、初期社会主義といわれるサン=シモン主義なんか、いかがわしさの塊じゃないですか。でも、それを面白がるくらいでないと物語は膨らまない。「あの人の言っていることはよくわからないが、なんだか未来はありそうだ」というところに人は集まるのかも。

 日本は新しい物語が始まると、すぐに収益の話になる。それで少しでもいかがわしさが見えると、物語の芽を摘んでしまう。

石田 難しいけれど、日本が豊かになるには大きな物語を生みださないとダメ。その大きな課題に立ち向かう人に、ひとりでも多く出てきてほしいですね。

石田健氏と岸博幸氏
石田健/Ken Ishida(左)
1989年東京都生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程(政治学)修了。2020年、政治、経済、テクノロジーなどのニュースをわかりやすく解説するメディア『The HEADLINE』を立ち上げ、編集長を務める。

岸博幸/Hiroyuki Kishi(右)
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。現在、エイベックスGH顧問のほか、総合格闘技団体RIZINの運営にも携わる。

TEXT=川岸徹

PHOTOGRAPH=杉田裕一

HAIR&MAKE-UP=米尾太一(untitled.)

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