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仕事が楽しければ
人生も愉しい

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2024.10.16

ミッツ・マングローブ×岸博幸「世の中全体が厚かましい。まずは身の丈を知るべし」

慶應義塾大学教授・岸博幸先生が、各分野で活躍するいま気になる人と対談する不定期連載企画「オトナの嗜み、オトコの慎み」。今回の対談相手は、タレント・歌手のミッツ・マングローブ。

ミッツ・マングローブ×岸博幸

仕事は楽しくなくて当たり前

 僕はお会いするたびに、ミッツさんは自由に楽しく生きているように感じます。人生の楽しさについてどう考えていますか。

ミッツ 私にとって楽しさっていうものは、オマケのように後からついてくればそれでいいもの。楽しさの優先順位は低いんですよ。

 意外に感じます。

ミッツ 楽しさなんてものを追求するから、日本の景気はここまで悪くなってしまった。最近の人は仕事を「楽しみたい」って言うでしょう。でも、それが最優先になっちゃうとダメ。日本は戦後、社会や世の中のために、という気持ちで必死に働いてきたから、国として成長できたわけで。

 今の日本がダメなのは、ネットの普及も大きな原因ですね。承認欲求が高まり、フォロワーの数ばかりを気にして、しょうもないことをやっている。人間として緩く、弱くなってしまった。

ミッツ 基本的に、労働は退屈でつまらないもの。でもそれに対して精一杯取り組むから、国益を上げることができるんです。そして精一杯やった結果、いい仲間に出会えたとか、生きがいを見つけられたとか、それが楽しさや幸せっていうものですよ。最初に「いい仲間に出会いたい」「生きがいを見つけたい」なんて考えるから、若者は社会に絶望してしまう。

 社会で生きるのはしんどいこと。入社したばかりの新人が「思っていたのと違うからもう辞めます」なんて、お前はどれだけ甘やかされてきたのかと。ミッツさんが社会生活のなかで常に意識していることは?

ミッツ 世間様に迷惑をかけないで暮らすことですね。こういうなりわいですし、自分は迷惑者だって感覚は常にあるし、本当の自分は「ちょっとそこどけよ」っていうタイプなので。できるだけ「すみません、前を通らせていただきます」という気持ちでいないと際限がなくなってしまう。それと、制約や境界線を大事にしています。勘違いしている人が多いけれど、制約がないと自由になんかなれない。

 制約を守って生きながら、時にそれを破ることで喜びや楽しさを感じる。それが自由っていうもの。

ミッツ 今の時代って、「何の制約もありません、ボーダーもありません、さあ、あなたは自由ですよ」って言うことが正しいと思われている。でも、それって不自由。岸先生が言われたとおり、制約や境界線をきちんと意識することが自由への第一歩。そして、時にそれを変化させたり、広げたり、踏み越えた結果、楽しさや幸せもついてくるのではないでしょうか。

 ミッツさん、今の時代にレアな価値観をお持ち。

ミッツ そう。極めて古風な懐古主義者です。古いものが捨てられないし、音楽も昔の曲ばかり聴いている。マツコさんにはいつも叱られますが。

 マツコさんは現代的?

ミッツ あの人はアンテナの張り方が若い時と変わらない。常に新しい情報や知識をインプットする容量を確保できていて、さらに物に頼らず記憶力も凄まじい。

 ミッツさんのように同じ仕事を長く続けていくスタイルも素敵だと思うなあ。「星屑スキャット」という音楽ユニットでコンサートツアーをやっていて、来年で20年を迎えますよね。

ミッツ はい。まもなく20周年。今は仕事として、粛々と向き合っていますが、その境地に来られたことはとてもありがたいです。演者側は淡々と同じステージを繰り返すことが芸能の肝だと思っているので。

社会を変えるためまずは身の丈を知る

 ストレス解消法は?

ミッツ やっぱり、いい男を見ること。この夏のオリンピックも、男の顔や身体目的でいろんな競技を観ました。日本人にも外国人にもカッコいい選手がいましたが、名前は秘密にしておきます。岸先生のストレス解消法は、やっぱり女?

 いやいや……。格闘技を見たり、音楽を聴いたり、好きな趣味を自己流で楽しんでいます。仕事中のストレス発散は、やっぱりたばこかなあ。気持ちの切り替えに大切なものです。

ミッツ 私もたばこは手放せない。私にとってたばこは「合いの手」。鮨店に行くと、職人さんが鮨を握りながら手をパンって打つでしょう。あれのような感じ。たばこがあるから仕事にリズムが出る。でも、愛煙家にとって、たばこを吸う環境は悪くなる一方ですが、せめて喫煙所やスペースをもっと快適で清々しい場所にしてほしい。そのためだったら、もっと税金払いますから。

 たばこを吸う人を見る周囲の目も厳しい。

ミッツ 現代人って、なんでこんなに人を叩きたがるのでしょうね? 羨んだり、妬んだり、否定したり。他人の人生を棒に振らせることしか生き甲斐がないのかしら。その最大の武器が「私、弱者です」アピールなんだから、そんな社会に希望なんてないでしょ。

 物理的にも金銭的にも、日本はどうしようもないくらい貧困になってしまった。しかも、現状に対する危機感もない。ミッツさんは日本を変えるために、どうしたらいいと思います?

ミッツ 国民全員が身の丈を知ることですよ。「自分だけは得をしよう」なんて厚かましさは捨てて、他人や世の中のために、どれだけ自分を犠牲にできるか、どれだけ無駄なことに時間やお金を費やせるか。それが豊かさというものではないでしょうか。岸先生はどうすれば日本が変わると思いますか?

 まずはミッツさんのコンサートに行くことですね。ミッツさんが質の高い仕事を粛々とこなす姿を見て、その裏にはどれだけの鍛錬や苦心があるのかを想像してみる。そういうところに、精神を豊かにする第一歩があるんじゃないかな。

ミッツ・マングローブ×岸博幸
ミッツ・マングローブ/Mitz Mangrove(左)
タレント・歌手。1975年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国ウエストミンスター大学に留学し、商業音楽について学ぶ。2005年、音楽ユニット「星屑スキャット」結成。音楽活動のほか、テレビ・ラジオなどで活躍中。

岸博幸/Hiroyuki Kishi(右)
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。現在、エイベックスGH顧問のほか、総合格闘技団体RIZINの運営にも携わる。

TEXT=川岸徹

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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