2023年、スーパーカーの代名詞ともいうべきランボルギーニが、創業60周年を迎えた。これを祝うイベント「60th Anniversary Lamborghini Day」が鈴鹿サーキットで行われ、約280台のランボルギーニが集結した。連載「クルマの最旬学」とは……
日本人とランボルギーニは相思相愛
見慣れているはずの鈴鹿サーキットの駐車場が、非日常の空間になっていた。ランボルギーニの創業60周年を祝うイベント「60th Anniversary Lamborghini Day」に参加するために、日本中のオーナーたちが駆けつけたのだ。
さすがにスーパーSUVのウルスやウラカンなど、最近のモデルが多いけれど、1960年代の名車ミウラや、1970年代のスーパーカーブームの立役者であるカウンタックなど、歴史的なモデルもちらほらお見受けする。
ランボルギーニの2022年の国別販売台数を見ると、日本はアメリカ、中国(香港とマカオを含む)、ドイツ、英国に次ぐ第5位。しかも日本市場は対前年比でプラス22%と、ほかの市場に比べて伸び率が高い。
ランボルギーニは本年1月にイタリアで創業60周年記念イベントを開催しているけれど、本国以外の国で開催するのは日本が初となる。このブランドが、いかに日本市場を重視しているのかがわかる。日本のクルマ好きとランボルギーニは、相思相愛の関係にあるのだ。
では、日本人はなぜこんなにもランボルギーニのことが好きなのだろうか。
ひとつに、スーパーカーブームの影響があることは間違いない。現在の40代から50代はランボルギーニ・カウンタックが世界で一番カッコいいと刷り込まれており、しかもランボルギーニは最新モデルにもきちんとカウンタックのモチーフを散りばめている。成功した大人が、子どもの頃の夢を“大人買い”できるのがランボルギーニなのだ。
けれども、それだけではないと感じたのは、鈴鹿サーキットの本コースで250台以上の新旧ランボルギーニがギネス記録を狙って行ったパレードランを見た時だ。パレードが、「Largest parade of Lamborghini cars」(ランボルギーニ車による最大のパレード)というギネス記録に認定されるには、以下の条件を満たす必要がある。
参加台数が100台以上、走行距離が3.2km以上、パレードの車間距離は2台分以内。はたして251台のランボルギーニがパレードを行い、見事にギネス記録に認定された。
1960年代から現代に至るまで、さまざまなランボルギーニで共通しているのは、「ルック・アット・ミー!」とか、「エンジンのサウンドを聞いて!」というメッセージを発していることだ。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という文化で育ってきたわれわれ日本人にとって、成功した人が成功の証を堂々とお披露目するのは新鮮だ。しかもランボルギーニはスタイリングも音も陽気で突き抜けているから、見ているこちらも幸せな気持ちになり、「成功してよかったね!」と素直に声をかけたくなる。
お金持ちがお金を持っていることを隠したり、成功した人を妬むような、そんな日本のジメジメとした雰囲気の真逆にあるから、日本人はランボルギーニを好きになるのではないだろうか。
もうひとつ、ランボルギーニの歴史も日本人の心に刺さるような気がする。ご存知のように、トラクター会社の社長だったフェルッチオ・ランボルギーニは、愛車フェラーリの改善点をエンツォ・フェラーリに提言したところ、冷たい態度であしらわれた。「だったら自分で作ってやる」というのがこのブランドの出発点で、この物語が日本人の判官贔屓の心情に訴えるのかもしれない。
周囲の人まで幸せにするクルマ
見事にギネス記録を更新したランボルギーニのうち、約50台は3日かけて鈴鹿サーキットから京都、奈良へとツーリングする「Lamborghini GIRO Japan 2023」に参加した。筆者も、最新のSUVのウルスと、見るからにスーパースポーツらしいスーパースポーツのウラカンのハンドルを握り、取材者としてGIRO(イタリア語で旅の意)に同行した。
ランボルギーニを運転して古都を走りながら、こんなにスマホを向けられるクルマはほかにないと実感した。みなさん、笑顔でスマホを向ける。ちょっとアクセルペダルを踏み込んで、「フォン!」という音を響かせると、笑顔がさらに弾ける。
ドライブしている人間だけでなく、周囲も楽しい気持ちにさせる能力は、ランボルギーニが世界一だ。
京都や奈良の狭い道で感じたのは、意外にも運転がしやすいことだった。車幅があることは充分に気をつける必要があるけれど、ハンドルやアクセルの微妙な操作に対して、繊細に反応してくれる。機械としての出来がいい。これも、近年のランボルギーニが順調に業績を拡大している理由だろう。
SUVのウルスだったら荷物は載るし、乗り心地は快適だし、普通にファミリーカーとして使える。
ただし、ドライブモードで「CORSA」(レースの意)をセレクトすると、爆音と噛み付くようなエンジンのレスポンスで、あっち側の世界に連れて行かれそうになる。整理整頓された日常と、夢のような非日常を行ったり来たりできるのもランボルギーニの魅力で、これを一度味わうとフツーのスポーツカーには戻れなくなる。
創業60周年を迎えたランボルギーニは、今年いよいよ初のハイブリッドモデルを発表する。電動化や自動運転の時代に、ランボルギーニはどんなアイデアで私たちを驚かせてくれるのだろうか。
Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。