自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載「クルマの最旬学」。夏のバカンスシーズンを控えた今回は、ヨーロッパを代表するラグジュアリーなキャンピングカーを紹介する。【過去の連載記事】
豪華さで名を馳せるドイツの名車
2年前のコロナ禍での緊急事態宣言期間中、自宅にこもりながら熱中したのがキャンパー探しだ。キャンパーがあれば、ウィルスなんて気にせずに好きな時に、好きな場所へ行くことができる──。
人間、考えることは同じで、南仏在住の知人とメールのやりとりをしていたら、フランスではキャンパーがバカ売れして、ウェイティングリストが長くなるいっぽうだったという。そして、キャンパーの中でも豪華さで名を馳せ、憧れの的になっているのがドイツのフォルクナー・モービルという会社だと知った。
調べてみると確かにすごくて、ボルボのバスをベースにしたこのサイズは、キャンパーではなくモーターホームと呼ぶらしい。バカンスのこの季節、フォルクナー・モービルのパフォーマンス・シリーズというモーターホームを紹介したい。
クルマの中にクルマがある、マトリョーシカ構造
フォルクナー・モービルの創始者であるゲルハルト・フォルクナーは、機械をいじることとモーターホームでの旅を愛するデザイナーだった。「せっかくの休日を過ごすのに、自宅で享受していた快適さや便利さを諦めなければいけないのはおかしい。もっといい方法があるはずだ」という思いで、モーターホームを完成させた。それがパフォーマンス・シリーズで、ポイントは特許を取得したセンターガレージ。ここに愛車を積んで移動することができるのだ。
モーターホームで旅をするのに、なんでクルマを持っていくのか? 穏健なみなさんのなかには、そういう疑問をお持ちになる方もいるだろう。けれどもクルマ好きとしては、フォルクナーさんの気持ちがよ〜くわかる。海沿いの絶景の場所に停めたモーターホームでのんびりコーヒーを味わってから、ワインディングロードで潮風を受けながらオープンカーを走らせる。あるいは爽やかな風が吹き抜ける高原で、クラシックカーを走らせるなんていうのもいい。このモーターホームは、クルマ好きのそうした夢を実現してくれるのだ。
冒頭に記したように、基本骨格とメカニズムはボルボのバスがベースで、エンジンも最高出力460馬力を発生するボルボ製。そこにフォルクナー・モービルが独自にデザインした、車台と呼ばれる“上モノ”を載せた構造になっている。だから走る機能についてはヨーロッパの最先端で、追突を警告する装置や自動で介入する緊急ブレーキ、車線からはみ出ると注意をうながす装置など、安全装備は盤石だ。
エアサスは、貨物輸送用ではなく乗客運搬用に完璧にチューニングされているとのことで、ドライバーの疲労を低減することに寄与するという。カタログには「道路の上を走っているというより、少し浮いて滑空しているような感覚です」とあって、さすがにそれは大げさだとしても、かなりモダンな乗り心地だと思われる。
インテリアやレイアウトに関しては、ほぼオーダーメイドで、いくつかの推奨されている間取りをベースに、バスルームのタイルやソファの革まで選ぶことになる。
太陽光発電と発電機によって電力は供給され、空調や給湯は完璧にコントロールされる。IHクッキングヒーター、電子レンジ、冷蔵庫、食洗機などなど、希望すればなんでもビルトインできる。プリンターやWi-Fi環境を整えた、ワークステーションとして使うプランも用意されている。
真打ち登場! 約3億円の最高級版
そして2021年の秋、ドイツのデュッセルドルフで開かれたキャンパーの見本市で、パフォーマンス・シリーズの最高級モデルが発表された。一般的な乗用車だけでなくスーパーカーのサイズまで格納可能なモデルで、ブルメスターというドイツの高級音響メーカーと共同開発した専用サウンドシステムを備えるなど、贅の限りを尽くしたモーターホームだ。
価格は203万5000ユーロからだから、「1ユーロ=140円」換算だと2億8490万円。これがもし「1ユーロ=120円」の時代だったら4000万円ぐらい安かったのに! と、どっちにしたって買えるわけはないのに計算機を叩いてしまった。
ちなみに、カンガルーの赤ちゃんのように収納されるブガッティ・シロンはベース価格が310万ユーロから。ただし、2台合わせて513万ユーロだから、スーパーヨットが1000万ユーロはくだらないことを思えば、こういう組み合わせで夏のバカンスを楽しむ人たちが存在しても不思議ではないのだ。
なるほど、と納得できるような、できないような。
フォルクナー・モービル・パフォーマンスS
全長✕全幅✕全高:12m✕2.5m✕3.85m
車重:18トン
エンジン最高出力:460ps
価格:203,5000ユーロ〜
Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。