爆発的な大ヒット作というわけではないけれど、長きにわたってクルマ好きから愛されているのが、ルノー・カングーというモデルだ。カングーがフルモデルチェンジを受け、3代目に進化した。連載「クルマの最旬学」とは……
15年ぶりのフルモデルチェンジも“愛されキャラ”健在
ルノー・カングーが日本で愛されていることを示すのが、「カングー・ジャンボリー」というファンミーティング。2022年に山梨県・山中湖村で開催された「カングー・ジャンボリー」には、全国から1783台のカングーとそのオーナーたちが集まった。
どんな名車であっても、たとえばBMW3シリーズのファンミーティングにこれだけたくさんのファンが集まるとは思えないから、カングーというモデルがいかに“愛されキャラ”であるかがわかる。
日本でこれほどカングーが人気となっていることを、フランスのルノー本社では驚いているという。
そのカングーが15年ぶりにフルモデルチェンジを受け、3代目へと移行した。はたしてカングーは、3代目も“愛されキャラ”を引き継いでいた。新型ルノー・カングーに試乗しながら、このクルマが愛される理由を考えてみた。
引き継がれた、ペットのようなキャラクター
人を乗せ、荷物を積むのであれば、四角いミニバンが最も合理的な形だ。だから日本ではミニバンがファミリーカーの主流になり、一時期の休日のサービスエリアや道の駅は四角いクルマであふれ返っていた。
いっぽう、ミニバンが便利なのは知っているけれど、いまいち踏み切れないユーザー層もいる。ミニバンは洒落ていないし、ファミリーカーの匂いが強すぎる、というのがその理由だ。そして、そういった人々が飛びついたのが、ぬか味噌臭くないカングーだった。
けれどもカングーは、おフランスのお洒落を前面に出したクルマではない。もともとこのクルマは、ヨーロッパでは半数以上が商用車として使われることを前提に開発されていて、パリでは水道工事業者や食品メーカーのカングーをよく見かける。ちなみに、2代目カングーのサイドブレーキの形状は、フランスの郵便局にあたるラ・ポストのドライバーたちの要望に応えたものだという。
このように、“働くクルマ”としての機能を極めたデザインが、日本のクルマ好きにはお洒落に見えたのだ。シンプルな用の美が、日本人の感性に合ったのかもしれない。
新型カングーのエクステリアデザインも、盛ったり飾ったりしないことで逆にお洒落に見えるという、いままでの路線を継承した。基本、四角いんだけれど、見ようによっては丸みを感じさせる独特のフォルムが、小動物っぽくて愛らしい。そう、このペットのようなキャラクターが、カングーが日本で支持される大きな理由のひとつ。このキャラを引き継いだわけだから、新型も日本で人気者になるはずだ。
エクステリアに大きな変化がなかった一方で、インテリアは激変した。というのも2代目がデビューした15年前とはクルマを取り巻く環境が激変しているから。新型カングーには前のクルマに追従しながら車線をキープする機能など、最新の運転支援装置が備わるようになっており、処理する情報量が飛躍的に増えているのだ。
いままでのインターフェイスでこの情報量を処理しようとするといくつスイッチを付けても足りないから、現代の潮流に則って、カングーも液晶タッチスクリーンに切り替わっている。
ディーゼルにすべきか、ガソリンにすべきか
新型ルノー・カングーのエンジンは、ルノー・日産・三菱のアライアンスで開発した1.3ℓ直列4気筒直噴ガソリンターボと、1.5ℓのディーゼルターボの2種。両者の性格がかなり違うのがおもしろい。
ひとことで言えばガソリンは軽快で、ディーゼルは力強い。違いはエンジンの印象だけでなくドライブフィールにも表れている。ガソリン仕様が爽やかに走るのに対して、ディーゼル仕様は重厚な感覚だ。というのもディーゼルのほうが90kg重くなるからで、どちらがいい、悪いではなく、好みの問題になるだろう。甲乙つけがたい。
従来の6速オートマチックトランスミッションに替わって装備される7速のツインクラッチ式EDGの変速もスムーズで、変速ショックをほとんど感じさせずにシームレスに加速する。
2代目カングーにはマニュアルトランスミッション(MT)が設定され、MT愛好家から支持されていた。ルノー・ジャポンによれば、今後、MT仕様の設定を検討していくとのことだった。
歴代のカングーが支持されたのは、快適な乗り心地と優れたハンドリングを両立していたという理由もある。ミニバンで、このふたつを楽しめるクルマはなかなか見当たらないのだ。さすがにたっぷりと時間をかけて練っただけあって、新型カングーはこのふたつが飛躍的に進化している。
加えて、車内の静粛性も大幅に向上しており、全体に1クラスか2クラス、上質になった印象だ。
これは、サスペンションだけでどうにかなるレベルではなく、基本骨格から刷新したことが効いているのだろう。ちなみにボディの基本骨格もルノー・日産・三菱のアライアンスで開発されたもので、三人寄れば文殊の知恵というか、レベルの高い仕上がりになっている。
荷室の広さは圧倒的で、簡単な操作で後席を畳めば、サーフボードやスキー板などの長尺物も楽に積み込める。これまたカングーの伝統であるけれど、荷室に余計な出っ張りや凸凹がないから、実に荷物を積みやすい。このあたり、さすがプロフェッショナルユースだ。参考までに、最大積載量は従来型の850kgから1000kgに向上していることを付け加えておきたい。
これまでのカングーは、「ちょっと遅いけれどかわいいから許そう」とか、「少しうるさいけれどそれもキャラだよね」というところがあった。ペットはちょっとマヌケなほうがかわいい、というような。
けれども新型カングーは、賢いペットに進化した。しかもかわいらしいキャラは失われていない。3代目もまた、爆発的な大ヒット作にはならないだろうけれど、クルマのことがよくわかった趣味人から、長く愛されるクルマになるはずだ。
ルノー・カングー
全長✕全幅✕全高:4490✕1860✕1810mm
ホイールベース:2715mm
車両重量:1560kg(ディーゼル1650kg)
エンジン型式:1.3ℓ直列4気筒ガソリンターボ/1.5ℓ直列4気筒ディーゼルターボ
トランスミッション:7速AT(7EDC)
エンジン最高出力:131ps/5000rpm(ガソリン)
エンジン最高出力:116ps/3750rpm(ディーゼル)
エンジン最大トルク:240Nm/1600rpm(ガソリン)
エンジン最大トルク:270Nm/1750rpm(ディーゼル)
乗車定員:5名
価格:¥3,840,000(税込)〜
問い合わせ
ルノー・コール TEL:0120-676-365
Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。