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2022.10.12

走る高級時計!? マクロン大統領のお供も務める“逆張り”プレミアムサルーン

世の中には、高級車と呼ばれるモデルは星の数ほどある。そのなかで、明らかに異質の輝きを放っているのが、DS 9というフランス車だった。連載「クルマの最旬学」とは……

フランスの高級車「DS 9」

高級車のトレンドをガン無視する「DS 9」

フランスのマクロン大統領が公用車として使う「DS 9」というモデルを紹介する前に、まずDSというブランドを説明する必要があるだろう。

一般に、DSはシトロエンから独立した高級ブランドだと認識されている。それは間違いではないけれど、メルセデス・ベンツをよりパワフル&ラグジュアリーに仕立てたAMGとも、トヨタ車をより洗練させたレクサスとも、立ち位置が異なる。

より前衛的に、よりモードにといった具合に、アーティスティックな路線に振ったのがDSで、「高級=保守」という路線とは一線を画している。

DSは公表していないけれど、このブランド名が、1955年にデビューして自動車業界に衝撃を与えたシトロエンDSに由来するのは間違いない。シトロエンDSは、「宇宙船のような」と称されたデザインと、ハイドロニューマティックという独創のサスペンションシステムがもたらす乗り心地によって、高級車の概念を覆した。

この名称を採用したことからも、DSがアヴァンギャルド路線を狙っていることは明らかだろう。

プラグインハイブリッド仕様のE-SENSE

「パリでしか味わえないラグジュアリー。」というのが日本でのキャッチコピー。写真はプラグインハイブリッド仕様のE-TENSE。

まず、外観を見てみよう。

近年の高級車のデザインにはひとつのトレンドがある。それは、シャープなラインや複雑な面の構成で個性を表現するのではなく、全体のフォルムで勝負するというものだ。典型的なのがメルセデス・ベンツやレンジローバーで、装飾や演出を控えることで、削り出しの金属を磨き上げたかのような、トゥルンとした佇まいとなっている。

ところがDS 9はどうだ。そうした“引き算の美学”を無視するどころか、真逆の方向に突き進んでいる。
エッジィなラインを廃するどころか、ボンネットのど真ん中にはセイバーと呼ばれるギラリとしたラインを走らせる。テールランプを灯すと、ちりばめられた三角錐のモチーフが華やかな雰囲気を醸す。この三角錐は、ルーヴル美術館のガラスのピラミッドからインスピレーションを得たものだという。

フランスの高級車「DS 9」のボンネット

これがボンネットを2分割して存在感を主張するセイバー。

「DS 9」のテールランプ

ルーヴル美術館のガラスのピラミッドから着想を得た三角錐のモチーフが、テールランプのほか、インテリアにも反復して用いられる。

外観と同様、インテリアも昨今のトレンドをガン無視している。昨今のトレンドとは、できるだけスイッチやダイヤルを減らしてタッチスクリーンにインターフェイスを一元化するというもので、結果としてインテリアもシンプルな方向に進んでいる。

ところがDS 9はどうだ。シフトセレクターの周囲にスイッチの類を残しているだけでなく、前述のピラミッドのモチーフを反復することと、高級腕時計に使われるギョシェ彫りという手法でさらに目立たせているのだ。そして、ギラリと輝くエンジンのスターターボタンを押すと、B.R.M.というフランスメーカーの時計が反転して盤面が現れる。

筆者が試乗した高級仕様の「OPERA」は、シートも凝っており、腕時計の革のストラップをイメージしたものだという。インテリアは、クルマというよりも、高級腕時計をデザインするかのように、細部まで丁寧かつ繊細に作り込まれているのが印象的だ。

「DS 9」OPERAのシート

DS 9には、ベーシック仕様のRIVOLIと、高級仕様のOPERAというふたつのグレードがある。OPERAのシートは、腕時計の革ストラップがモチーフとなっている。

「DS 9」OPERAのインテリア

スイッチを減らすどころか、むしろデザインの一部としてスイッチが存在感を主張している。

力こそ正義、にあらず

いざ走らせてみても、DS 9は他の高級ブランドと違う。どこが違うのかというと、力こそ正義だとは考えていないことだ。

話が横道にそれるけれど、ご存知のようにクルマは馬車の後継者だ。馬車の場合は、4頭仕立て、8頭仕立てと、馬の数が多くなるほどに、高級になった。クルマもこの流れをくんで、300馬力、500馬力とパワフルになるほどに、高級だと認められるのが一般的な考えだ。

ところがDS 9はどうだ。エンジンは1.6ℓの直列4気筒ガソリンターボ。最新の技術によって1.6ℓでも225馬力の最高出力を発生するから、高速道路の追い越し車線だってバンバン走れるけれど、超絶パワーを誇る最近の高級車とは根本的な考え方が違う。

もともと、第二次世界大戦後のフランス車は、それほどエンジンパワーを重視してこなかった。効率的でスムーズならそれでよし、という合理的な割り切りがあった。

フランスの高級車「DS 9」

サイズ的にはメルセデス・ベンツのEクラスやBMWの5シリーズに近く、後席やラゲッジスペースにも余裕がある。

DS 9にはガソリンエンジン仕様(Pure Tech)のほかに、プラグインハイブリッド仕様(E-TENSE)もラインアップするけれど、PHEVもベースとなるエンジンは同じだから、動力性能が飛躍的に向上することはない。

スムーズで心地よく走るけれど、エンジンが出しゃばることがないDS 9には、そうしたフランス独特の合理的な考え方を見ることができる。フランスを代表するモータースポーツの催しであるル・マン24時間レースでは、1960年代に「熱効率指数賞」という効率を評価する指標で表彰されるようになったことを思い出す。

フランスの高級車「DS 9」

カメラが前方の路面状況を把握し、それに合わせてサスペンションの制御を変えるDSアクティブスキャンサスペンションというデバイスが、良好な乗り心地を実現した。

乗り心地も独特だ。イタリア製のスポーツセダンのようにシャープでもなければ、ドイツ製高級セダンのように重厚というわけでもない。

路面の起伏に合わせて、4本足の動物のように足回りをうねうねと伸び縮みさせて、路面からのショックを和らげる。山道でスパッとハンドルを切るような乗り方よりも、地平の彼方を目指してリラックスしてハンドルを握るような乗り方が似合う。もはやハイドロニューマティックのような特殊な足回りの仕組みは採用していないけれど、なるべくドライバーに負担をかけずに長距離を移動させたい、という狙いは通じているのだろう。

やはりフランスのオーディオメーカーであるFOCAL(フォーカル)のサウンドシステムが奏でる音楽を聞いていると、クルマより生活を大事にしている人のためのクルマ、という気がしてきた。

決して万人受けするモデルではないし、だれにでもお薦めというモデルではない。でもハマる人は、沼の底まで引きずり込まれるはずだ。

フランスの高級車「DS 9」

DS 9 Pure Tech OPERA
全長✕全幅✕全高:4940✕1855✕1460mm
ホイールベース:2895mm
車両重量:1640kg
エンジン型式:1.6ℓ直列4気筒ガソリンターボ
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:225ps/5500rpm
エンジン最大トルク:300Nm/1900rpm
乗車定員:5名
価格:¥7,359,000~(税込)

問い合わせ
DS AT YOUR SERVICE(DS コール) TEL:0120-92-6813

Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。

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クルマの最旬学

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TEXT=サトータケシ

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