新規訪問数は年間100軒以上。世界の次世代バーカルチャーを追うお酒ライターが、アジアのバーシーンの勢力図をリアルレポート! 今回はシンガポール編。

アジアを牽引してきたシンガポールのバーシーンのいま
世界で愛されるトロピカルカクテルのひとつ“シンガポールスリング”を生み出し、脈々と続くカクテル文化を持つシンガポール。
そのカクテル文化を国際的なステージに押し上げる転機となったのが、2012年に誕生したカクテルバー「Jigger & Pony」だ。現在はシンガポールとインドネシアに合計8店舗を展開し、約60名のバーテンダーを擁する、アジアを代表するバーグループのひとつに成長を遂げた。
ライフスタイルバーとして、時代を映すコンセプトを打ち出すグループの新店は、常にバー業界の注目を集める。2025年には80年代カルチャーをテーマにした「Pop City」、2026年には韓国カルチャーを取り入れた「BOP」をオープン。日本や韓国のカルチャーを独自の視点で昇華した、最旬のバーを紹介したい。
グループの旗艦店の「Jigger & Pony」

グループの展開を語るにあたり、欠かせないのが旗艦店である「Jigger & Pony」の存在だ。同店は2012年にシンガポールのアモイ・ストリートにオープンし、その後、現在のアマラホテルへ移転。モダンなクラシックバーと賑やかなラウンジを併せ持つ独自のスタイルとホスピタリティで、2025年のAsia’s 50 Best Barsでも3位にランクインと高い人気を誇る。

創業者は金融業界出身のインドゥラ・カントノとホスピタリティ業界出身のガン・グオイ。創業からのコンセプトには「人々が寛ぎ、友情を育み、幸せを共有できる場所をつくる」とあり、飲食店である前に人々がソーシャライジングできる場であることを掲げる。また開業時には日本のバー文化に影響を受けたことから、クラシックカクテルをシンガポールに根付かせることへの想いがあり、技術の高いバーテンディングをゲストに見せているのも特徴だ。
60名を超える所属バーテンダーの教育・育成は、2013年からグループ入りをしているBar Programme Directorの江口明弘がプログラムを作り上げており、すべてのスタッフが高水準の技術とホスピタリティが提供できるように仕組みづくりがされている。
毎年テーマを変えるカクテルメニューには、今年は「BLOOM」を掲げ、花が咲き誇るようにポジティブなバイブスを届けたいという想いを込めた。メニューは「HOPE」や「Growth」など4つのチャプターで構成され、24種類のオリジナルカクテルが揃う。ひとりでも、カップルでも、グループでも、それぞれの時間を楽しめる“日常の延長”としてのバーを提案する「Jigger & Pony」。競争の激しいシンガポールのバーシーンにおいても、唯一無二の存在として進化を続けている。
リスニングルームも併設。80年代の文化を味わう「POP CITY」

シティポップと呼ばれる80年代の日本の音楽が海外でも盛り上がるなか、そのコンセプトをバーに落とし込んでいるのが「POP CITY」。元銀行の古い建物の扉を開くと現れるのは、モダンな屏風や、レトロなタッチのポスター、レコードが並び、日本と西洋的感性の入り混じるリビングルーム。音楽は日本に限らず、80年代のビッグヒットが中心に流れ、国籍を問わず、誰にとっても心地よい懐かしさを感じられる空間だ。
カクテルは当時の音楽、ファッション、サブカルから着想を得たもの。シティボーイを象徴するBEAMSをイメージした「ポップシティ サワー」は、ウイスキーの響や梅酒、紫蘇に、アロマタイズドワインを加えサワースタイルに。竹内まりやの楽曲イメージは「ストロベリーラブパンチ」として、ジンやストロベリー、バジル、シェリーを使用した甘酸っぱいカクテルに表現。海外の目でキュレーションされた日本のサブカルチャーを感じられるメニューは、懐かしさとともに新鮮な違和感をもたらす。グラスに込められるのは、単なる味わいではなく、音楽や記憶、時代の空気そのものだ。

店の一角には、CDの視聴スペースが壁に埋め込まれたリスニングルームがあるのも興味深い試みだ。ハイボールを飲みながら好きな音楽に浸れるほか、ウイスキーのボトルキープも可能。シティポップが若者に浸透していったように、日本のウイスキー文化も若者に浸透してほしいという想いがこの場所には込められている。
日本へのリスペクトと愛に溢れた空間で80年代の雰囲気に浸ってみるのはいかがだろう?
Kカルチャーをバーに落とし込む「BOP」

Jigger & Ponyグループの最新のバーであり、2026年1月にオープンしたのが、Bartenders of Ponyの頭文字からとられた「BOP」だ。韓国語でご飯を意味する밥(パブ)と発音を重ねており、テーマには韓国文化を取り入れている。
この試みは、世界的な韓国カルチャーの盛り上がりをバー文化へと取り入れたもの。K-POPをはじめ、韓国のコンテンツが世界中で支持を集める今、そのエッセンスを取り入れることがグループのさらなる進化につながる。そんな発想から、グループのクリエイティブディレクターのウノ・ジャンが手がけたもので、韓国の音楽や伝統的なモチーフをモダンに再解釈した、遊び心あふれる空間だ。

扉を開けると、韓国の街角で布が風になびく風景をモチーフに、美しい布が吊るされたカウンターが迎える。DJブースと客席、カクテルをつくるバーカウンターがシームレスにつながる大きなテーブル、そして奥には韓国の接待文化を象徴する「ルームサロン」を思わせるソファー席と、ここでは空間全体で韓国文化の世界観を体感できる。
シグネチャーカクテルのひとつは、ビールにソジュを入れるソメクという飲み方を進化させ、ソジュのかき氷を削りいれた「アイスド ソメク」。シンガポールで親しまれているビールに氷を入れる飲み方をヒントに、韓国とシンガポール、それぞれの飲酒文化を融合させた一杯だ。

世界に広がるKカルチャーを、シンガポールのバーグループならではの感性で磨き上げた「BOP」は、シンガポールのベストバーを表彰する「SGCX2026」でも、トップ5にランクイン。その熱気はぜひ現地で体感してほしい。
異なるコンセプトで巡る、もうひとつのシンガポール
グループではそれぞれの店舗がひとつの文化を担う。マリーナベイ・サンズを望むイタリアンレストラン「CAFFE FERNET」、1960年代の日本のミッドセンチュリーデザインをテーマにした「LIVE TWICE」、クラシックカクテルとアジアの素材を組み合わせた「GIBSON」など、シンガポール国内には7店舗のコンセプトの異なるバーが揃う。グループのバーを巡るだけで、時代と場所を旅するような体験ができるはずだ。
「シンガポールは日本と同様にバー文化が成熟したマーケット。そのなかでも2年に一度程度ほど時代の空気を変えるようなバーが誕生し、シーンを活性化させています」と語る代表のインドラ。今後のバーシーンを占ううえでも、この業界を代表するバーグループの動向から目が離せない。
【インド・ベンガルール編はこちら】
【台湾・高雄編はこちら】
【インドネシア・ジャカルタ編はこちら】

お酒ライター 児島麻理子
出版社、洋酒会社勤務を経て、酒にまつわる執筆やプロデュースを行い、酒の魅力を発信し続ける。2025年には酒に特化したPR会社TOASTを立ち上げた。年間に訪れる新規バーは100軒以上。世界中の蒸留所も巡っている。












