2023年4月のある夜、渋谷のTRUNK(HOTEL)地下1階、バンケット用大型キッチンに、トップシェフたち40名が大集結した。世界のレストラン文化、そして美食を追い求めてきた男、本田直之氏が4年ぶりに開催した「Chefs Gathering」の開幕だ。
料理人の垣根を越える、その日限りの美食のフュージョン
このイベントにゲストはいない。シェフたちがその場で料理を作り、時に他のシェフと協力し完成させた料理を、ドンペリニヨンを片手に自らキッチンで食す、シェフによるシェフのためのイベントなのだ。
集まったのは「傳」の長谷川在佑氏、「ラシーム」の高田裕介氏、パリの「パージュ」手島竜司氏、「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」のアントニオ・イアコヴィエッロ氏など、ジャンルを問わない錚々(そうそう)たるメンバー。
さらにこの開催日直前に決定した「アジアのベストレストラン50」に、ここに集まったメンバーのなかの7人がランクイン。1位と3位を獲得したタイ「ル・ドゥ」「ヌサラー」のシェフ、トン・ティティッ・タッサナーカチョン氏も来日したとあって、会場は祝福ムードに満ちていた。本田氏は言う。
「シェフは、他ジャンルのシェフと交流することは普段ありません。料理の世界にいない僕のような人間が声をかけることによって彼らが出会い、化学反応を起こしてくれたら」
その言葉どおり、「垣根を越えての出会いは刺激的」(「パージュ」手島氏)、「料理人で集まれることが嬉しい」(「傳」長谷川氏)、「こんな体験初めて!」(「ル・ドゥ」「ヌサラー」トン氏)とシェフたちが喜びの声を上げていた。
周りを見ながら、即興的にコラボレーションしていく40名のシェフ。キッチンの中をワイングラス片手にウロウロ、料理をつまみ、会話しながらインスピレーションを得ていく。
「それぞれの材料を一緒にしてみたら美味しい、という発見もありますね。何よりいいシェフは、国や言語が違っても共通の感覚を持っている。お互い刺激を受けてくれたら、こんなに嬉しいことはありません」(本田氏)
その日限り、もう二度と食べられないであろう即興コラボメニューがそこかしこで発生、贅沢すぎる空間の中、誰もが幸福そうに笑う。
刺激を受けたシェフたちは、自らの持ち場に戻った時、さらなる進化を遂げるはずだ。