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2023.09.17

約7億円で落札! イギリスを代表する独立時計師ロジャー・スミスの最高傑作とは

連載「オークションから読む高級時計の行方」の第14回は、ロジャー・スミスの「懐中時計 No.2」を取り上げる。

ロジャー・スミスの「懐中時計 No.2」
©️PHILLIPS

ストーリーを纏う独立時計師ロジャー・スミスの最高傑作

2023年6月11~12日にフィリップスが開催した時計オークションでの最高落札額を記録したのは、ロレックス、パテック フィリップ、オーデマ ピゲのスポーツウォッチでもなければ、フィリップ・デュフォー、F.P.ジュルヌらの希少モデルでもない。

最高額は490万ドル(日本円で約6億8670万円)で落札されたロットナンバー12の「懐中時計 No.2」。イギリスを代表する独立時計師ロジャー・スミスが、のちに師となる20世紀で最も偉大な時計師と評されるジョージ・ダニエルズに弟子入りを認めさせたという逸話を持つ作品だ。

懐中時計 No.2(1998年製造)。©️PHILLIPS

ロジャー・スミスはわずか22歳でジョージ・ダニエルズへの弟子入りを志願し、その説得材料として初めて製作した懐中時計を見せたところ、ジョージ・ダニエルズの反応は好意的ではなく、新人として一から出直すようにアドバイスされた。

その後、ロジャー・スミスは、永久カレンダー、スプリングデテント脱進機、トゥールビヨンを備えた2作目の懐中時計を約5年の歳月をかけて完成させる。時計のすべてのコンポーネントはスミス自身が原材料から手作業で製作。さらには、懐中時計全体を5回作り直し、最大11回焼き戻し、気が遠くなるような作業を乗り越えた成果をみせた時計を目にしたジョージ・ダニエルズは、「あなたは立派な時計職人です」という賛辞を贈り、ロジャー・スミスを唯一の弟子として受け入れた。

この「懐中時計 No.2」を承認した直後、ジョージ・ダニエルズは自身が1974年に開発したコーアクシャル脱進機がオメガに採用された記念に、一連の時計を完成させるためにロジャー・スミスへ協力を求めた。 これが後の「ミレニアムシリーズ」となる。

2001年に「ミレニアムシリーズ」が完成すると、ロジャー・スミスは独立して独自の腕時計を作成することを決意。 2011年にジョージ・ダニエルズが亡くなった後、ロジャー・スミスはマン島にある工房を継承し、ジョージ・ダニエルズの腕時計や懐中時計の製造とサービスも引き継いた。

これまでロジャー・スミスが手掛けた懐中時計は合計で3点のみ。「懐中時計 No.1」は、ジョージ・ダニエルズに不十分な作品と判断されたことを理由に分解され、現在はムーブメントのみがマン島の工房に残っている。「懐中時計 No.3」 は個人の依頼で作られ、現在も所有されている。 今回のオークションに出品された「懐中時計 No.2」は、2004年までロジャー・スミスが所有していたが、その後、自身の名を冠したブランドの立ち上げ資金として売却された。これらの情報は、 重要なコレクターによって提供されたものであり、これまで公にされたことはなかった。

ロジャー・スミスの「懐中時計 No.2」
大切に扱われたことがよく分かる極上のコンディション。©️PHILLIPS
ロジャー・スミスの「懐中時計 No.2」
ムーブメントには、ロジャー・スミス、ボルトン、そして「No.2」の刻印が確認できる。©️PHILLIPS

イギリス製造の時計では史上最高額を更新

ロジャー・スミスは今回のオークションに関して次のような言葉を残している。

「時計の落札価格は予想を超えていました。 それは私にとって本当に感慨深い瞬間ででした。 『懐中時計 No.2』は私が作った時計の中で最も重要な時計であり、これほどの関心を集めたことは非常に恐縮でもあります。 これは確かに私自身の時計の旅における大きなマイルストーンであると同時に、イギリスの時計製造にとっても有意義な声明となることを願っています」

イエローゴールド製の直径66.5mmの懐中時計を巡る戦いは熾烈を極めた。かくして「懐中時計 No.2」が残した490万ドルという数字は、ロジャー・スミスのコレクション、そしてイギリス製造の時計では史上最高額を更新し、時計オークション全体をリードする役割を果たした。

独立時計師たちが残した記念碑的な作品はこれからも価格高騰する可能性を大いに秘めている。しかし、ブームの裏ではより正当な評価が求められていることも事実だろう。その点からも今回のロジャー・スミスの最高傑作「懐中時計 No.2」の出品がオークション市場に与えた影響は大きいと言わざるを得ない。今後もその動向に注目したい。

■連載「オークションから読む高級時計の行方」...
新興の富裕層を巻き込み、かつてない白熱した落札が繰り広げられる時計オークション。本連載では、ジャンルは一切問わず、高級時計のトレンドを占う注目の時計をフォーカスする。

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オークションから読む高級時計の行方

インターネットやSNSの普及からあらゆる時代の時計が簡単に入手できるようになった。そうはいったところで、パーツの整合性や真贋の問題が問われるヴィンテージウォッチの品定めは一筋縄ではいかない。本連載では、ヴィンテージの魅力を再考しながら、さまざまな角度から評価すべきポイントを解説していく。

TEXT=戸叶庸之

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