連載「オークションから読む高級時計の行方」の第12回は、レジェップ・レジェピの「レジェップ・レジェピ クロノメトル コンテンポラン Ⅰ」と浅岡肇の「project T」「Tsunami 16」を取り上げる。
オークションを賑わすレジェップ・レジェピ、浅岡肇の代表作に注目!
ラグジュアリースポーツウォッチのブームがやや落ち着き、高級時計のトレンドは多様化の一途をたどっている。
その一翼を担うのが、フィリップ・デュフォーやF.P.ジュルヌを筆頭とする独立時計師が手がけたタイムピースである。基本的に量産を度外視した設計ゆえ、そのどれもがずば抜けて希少性が高い。なおかつ人気が高いため、セカンダリーマーケットで価格が高騰することも頷けるだろう。
ここでは、2023年の5月24~25日に香港で行われたフィリップスの時計オークションにて、予想落札額を大きく上回る金額で落札されたレジェップ・レジェピと浅岡肇の作品について触れる。
予想の2倍以上の落札価格となった話題作
レジェップ・レジェピの名を聞いてピンとくる方はかなりの時計ツウだろう。1987年にコソボで生まれた氏は、12歳でスイスに移り住み、15歳でパテック フィリップの研修生として時計業界でのキャリアをスタートさせた。その後、BNBコンセプト、F.P.ジュルヌを経て、2012年にアクリヴィアを設立した。
成功を収めるきっかけとなったのが、2018年のバーゼルワールドで注目を浴びた「レジェップ・レジェピ クロノメトル コンテンポラン Ⅰ」であり、同年のGPHGでメンズ ウォッチ オブ ザ イヤーに選ばれたことからもレジェップ・レジェピの出世作だと言っても過言ではない。
ロット832のピンクゴードケース×グラン フー ブラック エナメル ダイヤルの「レジェップ・レジェピ クロノメトル コンテンポラン Ⅰ」は限定25本のうち、「20」のシリアルナンバーが付けられている。予想落札価格の160万~300万香港ドルに対して、723万9000香港ドル(日本円で約1億3,210万円)という2倍以上の価格で落札された。
日本を代表する独立時計師・浅岡肇の代表作
独立時計師アカデミー(AHCH)の会員である浅岡肇は、東京藝術大学を卒業後、プロダクトデザイナーとしてキャリアを積み、2005年から独学で時計の製作を開始。2009年には、国産時計では初となるトゥールビヨンの腕時計を発表し、日本初の独立時計師としての道を歩み始める。
氏の創作意欲は止むことがなく、2013年にムーブメントの約半分にあたる大きさの15mm径(初期は16mm)という大型のフリースプラングテンプが特徴のロービートモデル「TSUNAMI」、2014年に航空・宇宙産業に携わる由紀精密、工具メーカーOSGとコラボレーションした「Project T」などを次々と発表。2018年には、腕時計のセレクトショップTiCTACとのコラボレーションによりセカンドライン、クロノトウキョウをスタートさせている。
今回出品された2本について簡単に説明しよう。
ロット988の「Project-T トゥールビヨン」は、一部の軸受けをルビーの代わりにボールベアリングを使用したユニークな作品。控えめな美しさは、由紀精密とOSGとの協業によるものだ。予想落札価格の470万~940万香港ドルを大きく上回る1905万香港ドル(日本円で約3,480万円)で落札された。
ロット989は同じく浅岡肇の代表作である「Tsunami 16」。直径16mmもの大型のフリースプラングテンプが特徴の手巻きムーブメント No.001を収めたロービートモデルだ。予想落札価格は400万~800万香港ドルであったが、落札価格は1460万500香港ドル(日本円で約2,670万円)という結果を残した。
これらの時計に共通するのは、希少性はもちろんのこと、独自性の高いウォッチメイキングが息づいている点に尽きる。このクラスの時計を購入できるチャンスは稀なので、興味のある方はオークションをこまめにチェックしてほしい。
■連載「オークションから読む高級時計の行方」...
新興の富裕層を巻き込み、かつてない白熱した落札が繰り広げられる時計オークション。本連載では、ジャンルは一切問わず、高級時計のトレンドを占う注目の時計をフォーカスする。