デビューから約40年、全力で走り続けてきた俳優・織田裕二。当たり役、青島俊作が活躍する映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』の公開され、これまでの俳優人生を振り返ってもらった。20代の苦悩、“踊る”の現場で知った仕事の楽しさ、そして58歳になった今の覚悟とは。

「ひとつたりとも負けられない」失敗が許されなかった20代
20歳の時、演技経験ゼロだったにもかかわらず、オーディションで主役の座を射止め、映画『湘南爆走族』で華々しくデビュー。その4年後、1991年に出演した連続ドラマ『東京ラブストーリー』の大ヒットで織田裕二の名は一躍全国区となった。
もっとも、当時の連続ドラマの主人公は女性というのが王道。そんななか、1993年放映の『振り返れば奴がいる』で石黒賢とW主演を務めた織田は、高視聴率を出し、世に認められる作品にすることを自分に課した。
「もう死に物狂いでしたね。失敗したら次がないどころか、今後男性主役の作品がなくなって他の俳優にも迷惑がかかる。そんな風に勝手に思い込んでいたから、ひとつたりとも負けられない。毎日が戦いでした」
織田は、受け取った台本をもとに入念に役づくりをした。あらゆる可能性を考え、試し、ベストだと確信した演技プランをもって撮影に臨んだのだ。そんな織田の奮闘もあり、『振り返れば奴がいる』は最高視聴率22.7%を叩きだし、今なお語り継がれる名作となった。
当時の織田に対して「ストイック」「完璧主義者」といった言葉が多く聞かれたのは、全試合勝たなくてはいけないという気持ちがあったからに他ならない。また、「技がないし、不器用だから」という理由で主役しか演じてこなかったが、それは、このスタイルを貫くためでもあったと明かす。
「脇役や端役であっても意見は出していいと思うし、制作陣には聞いてもらいたいけれど、時間的な制限があるから難しいのが現実。自分の演技プランを含め、作品をもっとおもしろくするためのアイデアを提案したいなら、せめて主役でないと迷惑がかかると思ったんですよね。もちろん、その場で突然意見を口にするのではなく、監督やスタッフ陣に事前に時間をつくってもらい、相談するようにしていましたが。
……ただ、仕事って、ずっと同じやり方をしているとだんだん刺激がなくなってきませんか? 僕は仕事に飽きたくないし、いつもドキドキワクワクしていたい。だから、だんだん違う方法をとりたくなってきたんです」

“踊る”で知った、みんなでつくる仕事の楽しさ
そのタイミングで舞い込んだのが、1997年に放映された連続ドラマ、『踊る大捜査線』だった。この作品で織田は、完璧に計算するのではなく、現場で偶然生まれる化学反応に身を委ねる楽しさを知ることになる。
「“踊る”には、作品をもっと良くしたい、仕事を楽しみたいという人が集まっていました。まず火が着いたのは美術部。青島の机の引き出しにはミリタリー系の雑誌、(青島の同僚)すみれさんの机にはカップラーメンと、細かいところにこだわっていましたね。最初に僕が、『青島の机の上にシケモクが山盛りの灰皿を置いてほしい』と言ったのがきっかけだったようですけど、みんなおもしろがって、どんどん凝り出しちゃった」
その空気感は、俳優陣にも広まっていった。
「当時のドラマや映画は、主役がドンといて、そこにボールをすべて集めるというのが多かった気がしますが、”踊る”は違いました。お芝居がうまい役者さんがそろっていて、ふたり、3人、5人と、複数の役者さんが集まることで、いい感じの化学反応みたいなものが生まれていたんです。
『今回はお前が打て! アシストは俺に任せろ!』みたいに、毎回違う攻撃パターンで、毎回違うヤツがシュートするような感じで。みんなでボールを回して、勝ちに行くチームでしたね」
それが可能だったのは、「待ち時間に役者同士がああでもないこうでもないってアイデアを出し合えたから」と、織田は振り返る。
「最初に始めたのは、(署長、副署長、刑事課長の3人組)スリーアミーゴズだったんじゃないかな。3人がアドリブでやった“かけあい”がものすごく面白くて、本広(克行)監督がストップをかけなかった。他の役者を含め、周りにも大うけでね。しまいには、脚本家の君塚(良一)さんが『以下アドリブ』と台本に書いていたくらい(笑)。
役者同士はライバルでもあるので、ふつうは他の人のセリフとか演技に『こうしたほうがもっと面白くなる』なんて口は出さないんですよ。でも、“踊る”の現場は、それぞれ良さを生かすために、ここはあの人をメインにして自分はサブに回ろうと考えられる役者が集まっていたんですよね。
“踊る”がこんなにも長く愛され続けてきたのは、そんな風に、作品に関わる人全員が楽しんでつくっていたからだと思います」

1967年神奈川県生まれ。1987年、映画『湘南爆走族』でデビューし、ドラマ『東京ラブストーリー』で大ブレイク。以降多数の作品に出演。主な出演作にドラマ『北方謙三 水滸伝』『ダブルエッジ~甦った男〜』など。
「呼ばれなくなったら終わり」58歳・織田裕二の役者としての覚悟
デビューから約40年あまり、織田が長きに渡って第一線で走り続けてこれたのは、仕事を心から楽しみ、作品や役柄と真摯に向き合ってきたからだ。
「僕はラッキーでした。素晴らしいスタッフや役者さんたちと巡り会えて、その人たちと、多くの人々に愛される作品をつくることができたんですから。これだけ長くやってきたから、合わないなと思う人がいたような気もするけれど……、うーん、どうだったかな(笑)。でも、今もこの仕事が好きだと思えているんだから、幸せな役者人生であることは間違いないですね」
『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』では、実年齢と同じ58歳(撮影当時)の青島俊作を溌溂と演じた。来年、2027年は60歳、一般的にはセカンドライフが頭をよぎる頃だが、織田は自分の今後についてどう考えているのだろう。
「役者にとっての正義は、『この人を見たい』と思われるかどうか。(作品に)呼ばれなくなったら、それで終わりです。だから、いつもこの作品が最後という気持ちで臨んでいる。とうに腹はくくっています」
どんな質問に対しても、はぐらかすことなく自分の言葉でまっすぐに答えてくれる。それも、とびきり楽しそうに、笑顔を浮かべながら、だ。目の前にいるのは、揺るぎない信念と情熱をもって仕事に対峙し、誰に対してもフラットで裏表がない青島俊作そのものに思える。
最後に今後の目標、挑戦してみたいことについてたずねると、「AIに興味があります」という意外な答えが返ってきた。
「新しいものが嫌いじゃないんで、未来はどうなるのか気になるし、楽しみですね。連続ドラマで、最初の1話だけ僕がやって、あとはAIが演じたらどうなるんだろう。どれくらい僕に似ているのか、どの程度の芝居をしてくれるのか、すごく興味があるんですよ。
あとは……愛すべきクソジジイとかブチ切れるジジイの役に挑戦してみたいですね。そういう役を、橋爪功さんとかでんでんさんが実にチャーミングに演じていて、いいなぁと思っていて。コンプライアンスの時代、悪態をつくとかブチ切れるという行為はあるまじきことだし、当然腹も立つんだけど、愛さずにはいられない。そんなチャーミングなクソジジイをいつか演じてみたいですね」
出演:織田裕二、趣里、白洲迅、増田貴久、佐々木蔵之介、佐藤二朗ほか
脚本:君塚良一
監督:本広克行
プロデュース:亀山千広
音楽:松本晃彦
2026年9月18日(金)より全国公開
警視庁捜査一課に着任した青島俊作を待っていたのは、身代金誘拐に3Dプリンター拳銃を使用した殺人、毒性ウイルスを街にまくという脅迫事件。新たな顔ぶれが加わった一方、歴代出演者が思わぬかたちで登場するなど、新旧のファンともに魅了されること請け合いだ。
衣装クレジット:スーツ¥314,600、タイ¥36,300(ともにラル ディーニ)、シャツ¥51,700(フラルボ/すべてトヨダトレーディング プレスルーム TEL:03-5350- 5567)

