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2026.09.13

勝つのはオープンAIでもアンソロピックでもなく「コマツ」!? 世界のAIエリートが予測する冷徹な未来とは

孫正義氏の右腕としてソフトバンクの数々の一大事業を手がけてきた、英語コーチングスクール「トライズ」社長の三木雄信氏。現在、世界のビジネスエリートが集う「EMBA」で“学び直し”を実践中の三木氏による、世界のスーパーエリート達の脳内がわかる連載13回目。

世界のAIエリートが予測する冷徹な未来。かつての“ドットコムバブル崩壊”&“アマゾンの躍進”再来か?

「モデル開発は汎用品になる」

米国の最先端 AI 企業や半導体企業で活躍するエリートたちと膝を突き合わせて議論し、痛感したのは、日本との決定的な温度差でした。国内では未だに「生成 AI の凄さ」そのものに目を奪われがちですが、最前線の彼らは全く別の視座に立っていました。「最先端の大規模言語モデル(LLM)であっても、驚くべき速度で誰でも安価に調達できる汎用品へ変わる」という冷徹な予測です。

この議論の舞台は、8月22日に卒業式を迎えたUCLAとNUS(シンガポール国立大学)共同のエグゼクティブ MBA(EMBA)プログラムでした。15ヶ月、社長業と並行しながら、国籍も業界も異なる仲間と朝の授業から深夜のケーススタディまで激論を交わす日々。その最大の収穫こそが、この気づきだったのです。

米中テック企業による熾烈な投資とオープン化、オープンモデルの台頭により、高性能モデルの利用コストは低下し、モデル単体の性能だけでは競争優位を維持しにくくなっています。

この構造転換は、かつてインターネット黎明期に起きたドットコムバブル崩壊とアマゾンの躍進の構図との間に、重要な共通点があります。当時、通信や Web といったネット技術そのものは急速に普及し、誰もが使えるインフラになりました。その結果、ネット上で技術単体や派手なアイデアを競っていた企業は、持続的な事業価値を生み出せないまま淘汰されるケースが相次ぎました。

一方で頭角を現したのは、広大な物流倉庫、配送網、在庫管理といった「物理的な現場のオペレーション」をネット技術と組み合わせて、総合的な顧客体験を構築したアマゾンでした。テクノロジー単体の優位性は、リアルな現場力と組み合わされた包括的な実行力によって塗り替えられたのです。

この構図は、生成 AI にも当てはまります。基盤モデル自体のスペックを競うのではなく、自社固有の一次データ、現場の実務フロー、物理的なプロダクト、そして組織に蓄積された暗黙知と AI をいかにシームレスに結びつけるかが問われています。

汎用化された AIインフラを使いこなし、目の前の泥臭い現実を動かす「インテグレーター」の価値が高まっているのです。モデルの外側に広がる強固な現場力と AI を掛け合わせられる企業だけが、技術のコモディティ化の波に呑み込まれず、真に持続可能な競争優位を築くことができます。

建機メーカーのコマツが強い理由

実はその好例が日本にあります。建機メーカーのコマツです。同社の強みは最新技術の誇示ではなく、労働力不足や熟練オペレーターの高齢化、安全性向上といった切実な「現場の困りごと」を起点にしている点にあります。

重機というハードウェア、過酷な現場の稼働データ、自動運転・管制技術、そして現場運用の知見を一体化させてきました。例えば、鉱山向けの無人ダンプトラック運行システム「FrontRunner AHS」は、2008年の商用導入以来、世界6か国の鉱山で24時間365日稼働を続けており、2026年4月時点の累計総運搬量は115億トンを超えています(コマツ公表)。

近年では、AI・自動運転関連企業との連携も進めながら、現場データを活用した車両運用の高度化に取り組んでいます。さらに土木分野では「Smart Construction」を通じて施工現場全体のデジタル化を推進し、他社製機材との連携も視野に入れたプラットフォームとして、建設現場の生産性向上に貢献しています。

最高性能のモデル開発は米国が担い、安価な普及モデルは中国が得意とします。しかし、世界各地の過酷な現場で十数年かけて蓄積した稼働データや熟練者の判断、建機というハード、それを実際に動かす泥臭い運用力は、外部から短期間で完全に再現することは容易ではありません。コマツはまさにAI時代のエコシステムを回す、日本発の理想的な成功モデルです。

このインテグレーションは、コマツのような重機メーカーだけの話ではありません。一見 AIと縁遠く見える対人サービス業(教育や接客)でも、まったく同じことが言えます。例えば私が経営する英語コーチングの「トライズ」は、対人サービスに宿る暗黙知をAI化する実験例です。トライズでは現在、業務プロセスや判断の背景をAIで扱える形に整理し、会社の業務プロセスをデジタル上に再現する取り組みを進めています。担当者が日々どのような根拠で判断を下し、受講生とどう対話し、どの工程で経験や勘を働かせているのかを詳細に分析し、AIへと組み込んでいます。

これは単にマニュアルをAIに検索させる話ではありません。例えば英語コンサルタントなら、「受講生へどのタイミングでどんな問いかけをするか」「発言の裏にある真の学習ボトルネックは何か」といった高次元の判断を AI が支援できる仕組みの構築を目指しています。

個人の頭の中に閉ざされていた暗黙知を組織の共有資産へ昇華させることで、新人の育成期間の短縮や、受講生ごとに適した次の一手を提案することが期待できます。狙いはAIによる人間の代替ではなく、人間が培ってきた知恵を AI で「増幅」することです。

人間の繊細な共感力と、AIの卓越したデータ処理能力を高度に融合させ、知的生産性を最大化する。現場の感覚をデジタルへ落とし込む地道な作業こそが、容易に崩れない参入障壁となります。

基盤 AI がコモディティ化する時代において、勝敗を分ける決定打は「AIに学習させるに値する、研ぎ澄まされた現場を持っているか」に尽きます。実はAI時代は日本企業には大きなチャンスだと思います。このことがEMBAでの最大の学びだったのです。

トライズ代表取締役社長の三木雄信氏
三木雄信/Takenobu Miki
トライズ代表取締役社長。1972年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱地所を経てソフトバンク入社。2000年ソフトバンク社長室長に。多くの重要案件を手がけた後、2015年に英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変えるミッションに挑む。

TEXT=三木雄信

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