孫正義氏の右腕としてソフトバンクの数々の一大事業を手がけてきた、英語コーチングスクール「トライズ」社長の三木雄信氏。現在、世界のビジネスエリートが集う「EMBA」で“学び直し”を実践中の三木氏による、世界のスーパーエリート達の脳内がわかる連載10回目。

孫正義の発想術「アイデア掛け算」
私が現在参加しているUCLA-NUS EMBAでの学びを綴ってきた当連載ですが、前回の記事には想定を超える反響をいただきました。ありがとうございます。
そのなかで「AIをどう経営に活かすか」という質問を多数いただきましたので、今回は私が実務で使ってきたなかで最も効果的だと確信しているAIの使い方を一つご紹介します。それが、ソフトバンクの孫正義社長の発想術をAIで再現する方法です。
孫社長から事業創造の発想術を直接聞いたのは、UCバークレー構内を一緒に歩いていたときでした。私がソフトバンクで鞄持ちを務めていた頃、孫社長のアメリカ出張に同行していた際のことです。母校を散歩しながら、孫社長は自らの発想法をかみ砕いて教えてくださいました。
この発想法に「アイデア掛け算」という名前をつけたのは後日の私です。孫社長自身はそう呼んでいたわけではありません。ただ、聞いた内容を自分なりに整理したとき、これほど本質をついた名前はないと感じたのです。
あれから20年以上。当時は手作業とカードで回していたこの発想法が、ChatGPTやClaudeの登場で、誰でも1分単位で実行できる時代になりました。以下、今回は私が実際にAIを使ってコンビニスイーツ開発を実演した結果を、プロンプトとともにご紹介します。
アイデア掛け算の原理はシンプルです。「キーワード」と「プロダクトやサービス」を掛け合わせるだけ。たとえば「携帯電話」は「携帯」×「電話」の掛け算の結果です。
ここで重要なのは、「携帯×電話」という発想自体は1970年代から存在していたという事実です。それが事業として離陸したのは1990年代以降。ソニーが1991年にリチウムイオン電池を商業化し、半導体の小型化と通信インフラが整ったからです。時代がアイデア掛け算の結果を受け入れる準備を整えたタイミングだったのです。
掛け算の成功条件は2つ。キーワードの意外性と、時代の成熟度。意外性だけでは奇抜で終わり、時代性だけでは他社と横並びになります。
「バズる商品を出して」とAIに頼むと失敗する。コンビニヒットの真の法則とは
ここで重要な注意点があります。AIに「バズる商品を出して」と指示すると、奇抜な案ばかり出てきます。私も最初は失敗しました。しかし、コンビニスイーツの真のヒット法則は別のところにあります。
ローソンの「プレミアムロールケーキ」は累計4億5000万食、「バスチー」は7200万個、「大きなツインシュー」は累計5億個を突破しています。共通点は、すべて「馴染みのあるスイーツに、食感か素材の小さな革新を加えた」商品という点です。プロンプトは「バズ」ではなく「リピート購入される定番」を探す設計にする必要があります。ではここから実際のプロンプトを見てみましょう。
【完全公開】私が実際に使ったプロンプトと、3000通り全評価の生データ
プロンプト1:キーワードを300個出させる
食品マーケティングの専門家として、「コンビニスイーツ売り場から遠い領域」のキーワードを300個抽出してください。領域は(1)和菓子・和素材・和の食文化 (2)郷土料理・家庭料理の技法 (3)専門店パティスリーの素材・技法 (4)健康・機能性の素材 (5)冷凍・熟成・発酵など保存系技術 (6)海外の定番おやつ文化 (7)カフェ・喫茶店の定番メニュー (8)季節・時間帯・気候に紐づく食体験、の8領域から均等に。食感・素材・技法・シーン・身体感覚の軸で。
プロンプト2:3000パターン全探索を命じる
上記300キーワードと、コンビニ定番10カテゴリ(プリン、シュークリーム、ロールケーキ、どら焼き、モンブラン、ショートケーキ、バスクチーズケーキ、団子、大福、エクレア)を総当たり3000通りで組み合わせ、4指標を10点満点で採点してください。指標は(1)初見で味を想像でき「おいしそう」と直感する度合い (2)週2回買っても飽きないリピート性 (3)税込400円以内で実装可能な容易性 (4)既存商品と被らない新規性。ただし既にコンビニで定番化している組み合わせ(抹茶プリン、きな粉どら焼きなど)は新規性を大幅減点してください。合計スコアに、カテゴリごとの基礎市場規模(プリン・シュークリームは最大、どら焼き・大福は中位)を掛け合わせて想定月販数量を算出し、月販数量の多い順に上位3案を詳細提示してください。
重要なのは、採点基準の中に「既存商品の新規性減点」を明示することです。これを入れないと、AIは「抹茶×プリン」のような既にある商品を上位に挙げてしまいます。
衝撃の第1位は「出汁プリン」、月販105万個。第2位・第3位も意外な顔ぶれだった
私が実際にこのプロンプトで3000通りを評価した結果、上位3案は以下になりました。
第1案「出汁香る和カスタードプリン」
昆布と鰹節の出汁を隠し味に加えた和風カスタードプリン。甘さ控えめで食後の満足感が高い。30代から50代男女、税込198円。想定月販105万個。日本人の舌に根源的に訴える旨味と、コンビニ最大売れ筋カテゴリのプリンの組み合わせ。塩プリンの進化形として味を想像しやすく、なおかつ類似商品が現状ない新規性が決め手になりました。
第2案「白あん贅沢シュークリーム」
白あんとカスタードを合わせた和洋折衷シュー。北海道産豆の上品な甘さが、濃厚カスタードと調和する設計。20代から50代女性、税込178円。想定月販91万個。白あんは馴染み深いが、コンビニシュークリームとしては未開拓領域。和菓子と洋菓子の橋渡しとして、幅広い層に刺さる可能性が高い。
第3案「柚子香るシュークリーム」
国産柚子果汁を練り込んだ爽やかなカスタード。後味がさっぱりで、脂っこさを感じさせない設計。20代から50代、税込188円。想定月販91万個。柚子は日本人に普遍的に好まれる香りでありながら、コンビニ定番シュークリームには導入されていない。味の想像しやすさと新規性のバランスが評価軸に合致。
興味深かったのは、上位50案のうち24案が「和素材」、15案が「シュークリーム」カテゴリに集中したことです。これは、コンビニシュークリームがカスタード中心で進化してきたために和素材との組み合わせ余地が大きく残っていること、そして日本人にとって和素材は馴染みと新鮮さを両立しやすい素材群であることを示しています。
業種を問わず、この手法を成功させる原則が3つあります。
第1に、キーワードの量を妥協しないこと。50個で止めた瞬間に平凡な組み合わせしか出なくなります。300個まで広げ、さらに総当たりを命じてはじめて、「知っているが結びついていなかった」組み合わせが見つかります。
第2に、「バズる」ではなく「リピートされる」を評価軸に置くこと。本当に事業を支えるのは、毎週買われる定番です。プロンプトの評価軸を変えるだけで、AIの出力は劇的に変わります。
第3に、最終判断は必ず人間が下すこと。AIが出した上位3案から「自社が勝てる」組み合わせを見抜くのは、経営者の目です。AIは組み合わせの生成機であって、意思決定装置ではありません。生成はAIに全部任せて、自分は判断と実行に専念する。これがAI時代の正しい分業です。
孫社長がカードに書き留め、手作業でやっていた組み合わせ探索が、今はプロンプト数行で完結します。かつて孫社長がUCバークレーのコンピューターにやらせようとした総当たり探索が、今や誰でも実行できる時代です。ぜひ今日から、ご自身の事業で試してみてください。

トライズ代表取締役社長。1972年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱地所を経てソフトバンク入社。2000年ソフトバンク社長室長に。多くの重要案件を手がけた後、2015年に英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変えるミッションに挑む。

