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2025.12.14

世界のエグゼクティブは東京観光でどこに行く? 同行して学んだ「日本の価値」とは

孫正義氏の右腕としてソフトバンクの数々の一大事業を手がけてきた、英語コーチングスクール「トライズ」社長の三木雄信氏。現在、世界のビジネスエリートが集う「EMBA」で“学び直し”を実践中の三木氏による、世界のスーパーエリート達の脳内がわかる連載6回目。

世界のエグゼクティブは東京観光でどこに行く?  同行して学んだ「日本の価値」とは
三木雄信氏と来日したEMBAのクラスメート。

55人のエグゼクティブが東京に集結

私が参加しているUCLA–NUS EMBAのプログラムの一環として、2025年11月8日から東京での選択科目がスタートしました。参加者は約50人。さらに、東京の選択科目には参加しないものの、次の上海プログラムに備えて先に東京に立ち寄ったクラスメートが5人ほど加わり、総勢約55人が東京に集結しました。

正規プログラムでは通常の授業に加えて、日本企業などへの訪問が組まれましたが、18時半以降のホスト役は、一人しかいない東京ベースの日本人である私に託されました。実はこのことが大変なプレッシャーでした。

なぜなら、私もプログラムでシンガポールやLAなど各地を訪問してきたのですが、その都市をベースにするクラスメートがプログラム終了後の外食やイベントの設定をするのが通例です。私もそれぞれの都市で地元の人しか行かないローカルに愛される店から本当に美味しい名店まで様々にガイドしてもらっていました。東京にクラスメートが来た際には、ガイドをすることが私に求められるのは当然に思えました。

「日本の夜の魅力を存分に見せてやろう」。私は意気込んでいました。銀座の名店、新宿の横丁、六本木の隠れ家など彼らがまだ知らない日本を案内するつもりでした。ところが、そこで私は思いがけない「逆転」を体験することになったのです。

外国人が集うジャパニーズウィスキーの聖地

プログラム初日の8日午後1時ぐらい、私は昼間のプログラム参加していない親しいクラスメートからいきなりWhat’s up(世界的に普及しているチャットツール)で呼び出されました。私は昼間から連絡が来ると思ってなかったのでびっくりしましたが、「案内役として自分の出番だ」と意義込んで合流することにしました。

彼らは「今、銀座の『新世界グリル 梵』で並んでいるよ。来ない?」ということでした。梵は大阪新世界に本店を構える分厚いビーフヘレカツ(ヒレカツ)サンドのお店です。とはいうものの私はその時まで知りませんでした。そこで、Googleマップを頼りに行くと行列ができています。彼らはちょうど食べ終わるところで、私は合流しました。どうやってこの店を知ったかを聞くと、「Googleマップでカツサンドの店を調べて、美味しかったからその後、東京を訪れるたびに来ることにしている」とのことでした。

夜の予定まで時間はあります。そこでどこに行きたいかと聞くと、行きたいところがあると言います。それは梵から歩いて10分ほどの銀座の路地にある「IMAMI」です。IMAMIは、酒店なのですが、その外観も内装もシンプルモダンなギャラリーのようなデザインです。扱うのは山崎22年、白州18年など入手困難なジャパニーズウイスキーばかり。

私たちが入店した時に、いかにも上品な老紳士が秘書か執事風の男性と一緒にジャパニーズウイスキーを選んでいます。耳を澄ますとフランス語でした。色々と詳しく質問をしているようです。どうやらフランスでもジャパニーズウィスキーの評価は高いようです。

そして、店の奥には試飲するためのソファーとローテブルが置かれたブースがあります。そこで、かごの中から好きな江戸切子のグラスを選んでウィスキーを有料で試飲することができます。皆それぞれウィスキーとグラスを選ぶのですが、英語を話せる店員がそれぞれのウィスキーについて説明してくれるようです。

ところが、クラスメートが先に口を開きました。「余市? 知ってるよ。ニセコにスキーに来たとき、蒸溜所まで足を延ばしたんだ。またそれにしようかな」。私は言葉を失いました。彼女は余市を飲んだだけでなく蒸溜所まで「体験」していたのです。

彼女になぜIMAMIを知っていたかを聞くと、以前友達に連れてきてもらった時には、奥のブースは混んでいて、テイスティングはできなかったとのこと。それで今回こそはと訪れたとのことでした。

思い出横丁からゴールデン街へ

銀座を後にし、新宿へ移動しました。夕食まで時間が1時間程度あります。クラスメートの1人が「日本で枕をオーダーしてみたい」と言い出しました。そこで、ネットで検索するとマルイ本館に「ピロースタンド」というオーダー枕の店があります。早速、そこで首を測定したりしてオーダー枕を作成。「こんな枕アメリカにはない。これで安眠できる」と大喜びです。私も初めてクラスメートの役に立ってほっとしました。

日が暮れる頃、戦後の闇市をルーツとする思い出横丁の「鳥園」に足を踏み入れます。わずか630坪の路地に約80店舗がひしめき合い、もつ焼き屋から立ち上る煙と醤油の香りが路地全体を包み込みます。赤提灯の灯りが石畳を照らす光景は、外国人が入り込むには少しハードルが高いと思いきや、彼らは臆することなく、狭いカウンターに身を滑り込ませたのです。刺身や焼き鳥で大いに盛り上がりました。

続いてゴールデン街へ。1950年代から昭和の風情が漂う飲屋街です。作家やジャーナリストが夜な夜な集い、議論を交わした場所。店内はわずか3坪、カウンターに5〜6人並べば満席になります。隣の客と肩が触れ合うこの「強制的な親密さ」こそ、日本の魅力として認識されているのでしょう。

私はこの20年間、ゴールデン街に行ったことは一度もありませんでした。例えば、歌舞伎町で飲むことがあってもゴールデン街はやはり敷居が高かったのです。しかし、現在のゴールデン街は9割が欧米系の外国人客でごった返しています。いろいろなバーがあり1〜2杯飲んでホップして行くのが普通のようです。

私は事前にネットで検索して地図も頭に入れておいたので最初の1軒目は首尾よく計画通り入れたのですが、2軒目に予定していたバーは満席でそこからは行き当たりばったりです。カラオケが歌えるバーやら怪しいバーやら4軒をハシゴしました。

終電も終わるころ、シンガポール人のクラスメートが声をかけてきました。「このあたり、ラーメン『凪』があるよね。最後は『凪』で締めたいな」と言い出しました。彼は「凪」の場所さえ把握していました。案内役のはずが、案内される側になってしまっていたのです。

翌9日は、新宿のホテルでこのプログラムの卒業生も参加するランチからスタートしました。卒業生と現役生が交わる貴重な機会です。そして夜は六本木の一軒家を貸し切りました。和牛バーベキューと日本酒の飲み比べです。

私は、高木酒造の「十四代 本丸 秘伝玉返し」、萬乗醸造の「醸し人九平次 純米大吟醸」など入手困難な銘柄を含む1升瓶6本を準備しました。結果、すべてを飲み干しました。この夜の記憶はプログラム全体で語り継がれることになったのです。

日本人が自覚していない「日本の価値」

東京での昼間のプログラムを全て終了した11日夕方には品川から屋形船で東京湾へ出ました。揚げたての天ぷらと刺身を堪能します。誰もが箸を器用に使いこなしています。インド人のクラスメートが「先日のお酒はうまかった。しかし、広島の西条のお酒もうまいぞ。酒の都だ」などと言い出すのです。彼は半導体設計の専門家で西条に技術指導で滞在していたことがあるようなのです(注:彼は半導体の設計を学ぶのではなく、教えるために来ていたとのこと)。私は、クラスメートに日本酒の知識もあることにまた驚かされました。

そうこうしているうち、沖に出て船は停泊し、その間は船の上のデッキに上がることができます。皆スカイツリーやレイボーブリッジを背景に写真撮影。大いに盛り上がりました。こうして東京ツアーが無事に終了。翌12日には、私も含めて全てのメンバーが上海へ向かいました。

今回の体験で私が学んだのは、世界のエグゼクティブたちは、すでに日本を深く知っているということでした。余市の蒸溜所に足を運び、広島の酒蔵も、ゴールデン街のラーメン店も知っている。彼らにとって日本は「未知の国」ではなく、「何度でも訪れたい国」なのです。

むしろ問われているのは、日本人の側ではないでしょうか。私たちは自分たちの文化や資産の価値を、本当に理解しているでしょうか。銀座の路地裏、新宿の横丁、ゴールデン街。そこには教科書では学べない日本の魅力が詰まっています。今回、私は「案内する側」のつもりが「教えられる側」になりました。EMBAで学ぶ日本人として、まず自国の価値を知ることが、世界と対等に渡り合う第一歩なのだと痛感する結果となりました。

トライズ代表取締役社長の三木雄信氏
三木雄信/Takenobu Miki
トライズ代表取締役社長。1972年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱地所を経てソフトバンク入社。2000年ソフトバンク社長室長に。多くの重要案件を手がけた後、2015年に英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変えるミッションに挑む。

TEXT=三木雄信

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