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2025.05.18

MBAの“さらに上”。参加費2000万円超え、グローバル企業のトップ候補が集う「EMBA」とは

孫正義氏の右腕としてソフトバンクの数々の一大事業を手がけてきた、英語コーチングスクール「トライズ」社長の三木雄信氏。50代に入り、三木氏はある“学び直し”を決断、世界のビジネスエリートが集う「EMBA」なるものに参加するという。MBAのさらに上をいく、“企業のトップ”候補が集うプログラムとは!? 世界のスーパーエリート達の脳内がわかる新連載スタート。

トライズ三木社長
トライズ代表取締役社長の三木雄信氏。

グローバル企業が求める経営を学ぶ“エグゼクティブ”MBA

私は、今年2025年の11月で53歳になります。この春からアメリカ・UCLAアンダーソン経営大学院とシンガポール国立大学(NUS)ビジネススクールが共同で提供する「UCLA-NUS Executive MBA(EMBA:エンバ)」プログラムに通い始めました。このプログラムは、15ヵ月間のエグゼクティブ向け短期集中型MBAプログラムです。

このプログラムは通常のMBAと違って、8年以上の実務経験を有する中堅〜上級マネージャー層をターゲットにしています。受講生の平均年齢は比較的高くて約40歳、私より年齢が上に見える方もそれなりにいて、私でも特別に年齢が上という感じではありません。

出身業界はコンサルティング、金融、IT、製造業、エネルギーと幅広く、グローバルビジネスを推進する企業幹部候補、グローバル経営を目指すスタートアップ経営者が多い印象です。受講者はシンガポール・アメリカ・中国・香港・東南アジア各国・日本など世界中から集い、共に組織論や戦略論を学びプロ経営者を目指します。

このプログラムの一番の泣きどころはその費用です。総額ではめちゃくちゃ高く、円安もあり日本円だと軽く2000万円を超えてきます。その内訳は、NUSに支払うS$99,416.20(シンガポールドル)と、UCLAに支払うUSD$70,000(米ドル)です。授業料・教材費は含まれますが、渡航費・宿泊費は別途必要です。

私は、出資者のいる自分の経営する会社では負担できないので、私個人の資産を処分して参加費を賄うことにしたのですが、清水の舞台から飛び降りるような大変な決断でした。普通は勤務している会社が出してくれることを期待することが望ましいというか前提になると思います。

UCLA-NUS Executive MBA(EMBA:エンバ)」プログラム
「UCLA-NUS Executive MBA」のサイトより。

多忙な53歳経営者が学び直しを決めた理由

私がこのEMBAに参加することを決めたのにはいくつかの理由があります。まず、2006年に自分で会社を立ち上げて早くも20年、現在の本業である英語コーチング事業「トライズ」を開始して10年経ちました。英語コーチングはビジネスパーソンのリスキリングの事業です。

受講している方に「学び続けることが大事です」とお話ししているのですから、まずは率先垂範するべきだと思ったことがあります。実際ここからより会社を成長させていくために新しくインプットをして、自身をアップデートする必要があると、経営をしていて切実に感じたのです。

そして我が社の未来を考えた時に思い出したのが、1999年ごろ、孫社長の指示でソフトバンクの100年分の事業計画を立てたことでした。その際に一番最初にやったのが、世界各国の経済成長率の予測に基づいてGDPを予想したことでした。そして孫社長は、中国が2020年までには日本のGDPを超える可能性が高いことに気づき、アリババなど中国の会社への投資を積極化したのでした。

同じように考えると、今後ASEAN諸国が6%超の成長を続けると、そのGDPが日本を抜くのが2030年ごろと予想されます。私としても、ASEAN諸国に何かしらの方法で展開する必要を強く感じたのでした。

今後10年間、日本の経済成長率は年0.5〜1%未満にとどまると予測されており、人口減少や国内需要の停滞が引き続き足かせとなります。一方、東南アジア諸国は総じて高い成長が見込まれ、特にベトナムやフィリピンは製造業移転やインフラ整備を背景に年6%を超える成長が続く見通しです。インドネシアやマレーシアも堅調で、年5%前後の安定成長を維持。タイやシンガポールも観光・金融を中心に緩やかに回復していくとされます。

またインドにおいては、若年人口の豊富さとデジタル経済の発展を追い風に、今後10年で平均6.5%の成長が期待されています。今後の世界経済は、アジア新興国が成長の鍵になると予想されているのです。

こうした観点で見るとこのプログラムは、大変魅力的に感じられたのでした。プログラムの半分を担うシンガポール国立大学(NUS)は、2025年のQS世界大学ランキングで世界第8位、アジア第1位に輝きました。​一方、東京大学は同ランキングで世界第32位、アジア第7位となっています。​ NUSは国際性と研究力で高評価を受けているアジア屈指の大学と言えると思います。

また、プログラムのもう半分を担うカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)は、​Times Higher Education(THE)世界大学ランキングでは第18位で、​全米屈指の公立研究大学として知られています。この2校、UCLAアンダーソン経営大学院とシンガポール国立大学(NUS)ビジネススクールが共同で提供するUCLA-NUS EMBAは、世界的な教育機関のランキングであるQS EMBA Rankings 2025 Joint Programs部門において世界第2位とされています。ジョイントプログラム(複数校共同運営)分野では世界屈指の実力を誇り、アジアとアメリカを股にかけたダブルディグリープログラムとして高い国際評価を受けているのです。

このプログラム最大の特長は、単一キャンパスに留まらず、世界各地を舞台にモジュール学習(10分~15分程度の短時間で学習を行う方法)を展開する点です。1年目5月はシンガポールで開講し、8月にはアメリカ・ロサンゼルスへ移動し11月は中国・上海にて学びます。2年目2月にはインド・ムンバイで、5月には再びシンガポールに戻り、最終モジュールは8月、米国で行われます。この移動型モジュールにより、各地域の市場環境や経営実務を肌で体験しながら、理論と実践の融合を図ることができるプログラムになっています。

今回この連載を書かせてもらおうと思った理由ですが、私がこのプログラムで学んでいるグローバル企業が今目指している経営とは、かって日本企業が経営上の強みとしてた「組織としての一体感」、「昭和的な上下関係」などをうまく消化しつつ、さらにAIをはじめとした破壊的なテクノロジーを取り込んでいく経営だと感じたからです。

本来、プログラムの内容は公開されてないのですが、授業で使う書籍について書くことはOKとの大学側から許可をもらいました。これらの書籍を通じて現在のグローバル企業の考える経営についてご紹介していきたいと思います。ご期待ください。

三木雄信/Takenobu Miki
トライズ代表取締役社長。1972年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱地所を経てソフトバンク入社。2000年ソフトバンク社長室長に。多くの重要案件を手がけた後、2015年に英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変えるミッションに挑む。

TEXT=三木雄信

PHOTOGRAPH=干田哲平

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