忘れてはいけないのは、数値化は課題解決のための手段であり、ゴールに到達するためのツールであるということ。ソフトバンクグループの創業者・孫正義氏から直伝された、数値化することの重要性について、トライオン代表取締役社長・三木雄信氏に話を聞いた。
すべてを数値化して最短・最速で課題解決
25歳でソフトバンクに入社。社長室に配属され、孫正義氏のもとで、さまざまなプロジェクトに携わったという三木雄信氏。そこで孫社長から叩きこまれた仕事術が、何事も“数値化して考える”ことだという。
「孫社長から常に言われていたのが『何事も数字で考えろ。考える前に数えろ、議論する前に数えろ』ということ。つまり、あらゆる課題を数値化せよということです。孫社長は大博打を打つ経営者だというイメージがあるかもしれませんが、彼ほど数字に執着し、緻密な計算をして判断を下している人を見たことがありません」
孫社長に鍛えられた三木氏も、独自の数値化仕事術を体得した。その方法とは、4つのプロセスに分けることができる。
①現実に起こっている事象を数値で把握する。
②それを分析して問題のありかと根本的な原因を探る。
③解決策を考えて実行する。
④その結果をまた数値で把握・分析する。
このサイクルをスピーディに繰り返すことによって、あらゆる課題を解決できるのだという。
データはあくまでも手段、“数値化メタボ”に気をつけろ
「忘れてはいけないのは、数値化はゴールではなく、目標を達成するための手段だということ。身近な例でお話をしますと、私は昨年の健康診断の数値が非常に悪く、痩せる必要を感じていました。自分は糖質制限で痩せにくい体質だとわかっていたので、徹底的にカロリーを計算。3ヵ月で目標体重を実現するために毎日200g痩せると決めて、その日の食事で摂取したカロリーに基づき、200g痩せられるだけのカロリーを消費する歩行距離や走行距離を導きだして実行しました。もちろん食事制限もしましたが、摂取カロリーによっては、最高で1日30㎞歩くことも(笑)。それで本当に毎日200gずつ痩せたんです。カロリー計算などはあくまで手段で、目的は痩せること。そのための数値化が正確で緻密であればあるほど、目標到達率も高くなるということです」
数値化は便利なツールだが、気をつけなければいけないこともある。それが、数値化が手段であるということを忘れた時に起こる“数値化メタボ”だ。
「ビジネスパーソンであれば、英語学習のゴールは、英語で行う商談やプレゼンを成功させることです。けれど、人によっては、TOEICで高得点を取ることを目標にしてしまう。そもそもTOEICは単なるマークシートの試験です。そこでどんなにいい点数を取っても、それはビジネスの成功に直結しません。効率が悪く、数値を手段ではなく目標としてしまう悪い例です。このように、成果につながらない無駄な数値化を繰り返すことを、私は“数値化メタボ”と呼んでいます」
孫社長は、テレビやラジオのニュースで他社の業績発表や決算の話題が始まると、発表される前に必ず頭の中でその数字を予測するという訓練を習慣化しているという。
「それを長年続けることによって、精度の高い予測ができるようになったといいます。数字がずらっと並んだスプレッドシートを見ても、誰よりも早く間違いを見つけるのも孫社長です。数字を感覚で捉えていて、彼はこれを“フォース”と呼んでいました」
数値化に払う労力を最低限にできるようになると、目標達成に多くの力を注ぐことができるようになる。鮨職人が一度に正確な数の米粒を摑む訓練をするのは、おいしい鮨を握るため。米粒の数の正確性に固執してしまっては、おいしい寿司は握れないということと同じだ。
「孫社長の場合は、数字を勘で摑むことができるまで突き詰めたうえで、ロジックや説得力のあるストーリーを常に考えています。つまり、数値化を極めた先に、鍛えられた直感や並外れたコミュニケーション能力のような、数値では測れない最強の境地がある。これが一番重要なことですね。すべてを数値化したその果てに、精度の高い直感がやって来るのです」
数値化は、直感力を磨く。ビジネスパーソンなら、まずは身近な物事を数値化することから始めてみたい。
Takenobu Miki
1972年福岡県生まれ。’98年にソフトバンクに入社し、2000年社長室長就任。’06年にトライオンを設立し、’15年に英語コーチング・プログラム『TORAIZ(トライズ)』を開始。著書に『孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術』(PHP研究所)など。