約5年ぶりに再開した、エイベックス会長松浦勝人による連載。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

昭和のオヤジ言葉も理解するAI
今「Claude Code(クロードコード)」の勉強をしている。専門家に先生になってもらって、1日7〜8時間で計3日間、合宿のようなことをして実際にコード生成を行った。「経営者なんだから、自分でコードを書く必要はないでしょう」と周りから言われるけど、ある程度は知っておく必要があると思っている。エイベックスでも業務にAIを導入する議論は進んでいるので、全然触ったことがないと何も言えず、誰かに言われたことを鵜呑みにするしかなくなる。それは避けたい。
あと、そもそもこういうのが好き、というのもある。AIってグーグル検索の上位版くらいに思っていたけど、クロードコードだと「こういうのが欲しい」と声で伝えるだけで、欲しいものをどんどんつくってくれるからとても面白い。
たいしたことはやってない。「キャバクラ嬢が主人公で、曲調はこんな感じで一曲つくってくれない?」と頼むとそういう曲をつくってくれる。曲だけじゃなく、歌詞やジャケットまでつくってくれる。
ジャケットが地味だから、「もっとイケイケドンドンにしてよ!」と頼んだら、ほんとうにイケイケドンドンのジャケットになった。こんな昭和のおじさんしか知らない言葉まで理解しているんだから、AIってやっぱりすごい。
僕は新しい技術や現象に出合うと、いつもこうしている。自分で確認し、それから考えるという、僕なりの決まりみたいなものがある。AIにより世の中がどうなるか、音楽がどうなるかを考えるのにも、まずAIがどういうものかわかっていないと考えようがない。今は、考えるためのベースをつくっている段階。
音楽クリエイターたちもどんどんAIを使っている。それをどのように自分の作品に活かすかは、その人の考え方しだいだけど、ほぼ全員が「こんなにデキがいいんだ」とびっくりしている。もう5、6年前から「AIには敵わなくなる」と言っていたけど、いよいよそれが現実的になってきている。
先日、かなり硬派な作家が「AIなんか認めない。使っても、そのまま使うことはありません」と言っていたんだけど、そういう人も“実はもう使っている”んじゃないかと思う。
ロサンゼルスのエイベックスの社長に、AIで使用されている楽曲の著作権裁判についての話を問い合わせたら、米国の作家は自分の作品がAIに学習されてしまっている一方で、自分たちもAIを使って曲づくりをしている、という状況になっているそうだ。
今回ばかりは未来が読めない
AIのつくる曲はありきたりなところはあるんだけど、総じてデキがいい。みんなアーティストがつくった曲を聴かなくなって、自分が好きな曲を生成して聴くようになってしまうんじゃないかとさえ思う。今後は、好きな音楽を勝手につくる時代になるかもしれない。エンタメ企業のCEOである僕がそんなこと言ってどうするんだ、という話だけど。
ラップなんかは、ちゃんと韻を踏んだものを生成してくれる。「昨日は何して、今日は何した」みたいな日記のようなラップだったら、自分のデータを入れれば、その人にとってすごくリアルな歌詞をつくってくれる。「オレは東京生まれでどうのこうの〜」みたいな曲をつくっているラッパーは、仕事がなくなるよね。人間のラッパーの場合、時には問題を起こして配信停止になるというリスクもあったりするけど、AIラッパーなら問題自体起こさないんだから、そっちのほうがいいとすら考えてしまう。
世界的に見ると、音楽のマーケットは拡大している。これはまだきちんと調査が終わってなくて、あくまでも僕個人の感触にすぎないんだけど、10代、20代という音楽のコア世代のマーケットが拡大しているわけではないような気がする。サブスクが登場して、今まで音楽を聴いてこなかった50代、60代の人が音楽を聴くようになって、それでマーケットが拡大しているんじゃないかと思うところがある。なぜなら、古い楽曲の動きが活発になっているから。K-Pop、J-Popの新譜よりも、ユーミンとかサザンの動きが手堅い。僕だって、病院で点滴を受けている間とかはビートルズとかイーグルスを聴いてしまう。
音楽って“無理やり聴く”ものじゃないんだよね。20代に好きになった曲を60歳になっても聴き続ける。今の20代は、生成AIで自分の好きな曲をつくって、それを一生聴き続けるかもしれない。そうなったら、アーティストなんていらなくなってしまうかもしれない。
AIには人間のアーティストのような熱狂は生みだせない。でも、本当にそうなんだろうか。「そうであってほしい」と願う気持ちが僕のなかにあるからであって、実は間違っているかもしれない。
すべてが混沌としていて、このAI時代は何が起こるかわからない。もう、「わかんねえな、これ」という感じ。でも、こういう状況のなかでも、「絶対、これだ」と思ってやっているやつは必ずいる。20歳ぐらいで確信しているやつ。そいつが今、どこで何をしているのか、誰なのかを知りたい。僕だって、20歳の時は「絶対、ダンスミュージックが面白い」という思いだけでやっていたから。
でも、エンタメに長く関わりすぎた僕は、もうそこまで自分だけの確信で前に進むことはできない。生成AIの世界では毎日のように新しい技術が登場して、方向性もがらりと変わる。今回ばかりは先が読めない。生成AIのオチが見えてこない。来月もまたAI合宿に行く。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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