北中米ワールドカップに出場した日本代表で異色の経歴を持つ選手がいる。世代別の日本代表に名を連ねてきた選手が多いエリート集団のなかで、高校時代まではまったくの無名。前田大然は自分の信じた道をがむしゃらに走り続け、プロサッカー選手のキャリアを切り拓いてきた。

無名から世界の舞台へ。不屈の男、前田大然
「心の底では『上手くいかないな』と感じている時はもちろんあります。それでも自分のなかで『いつかチャンスは来る』という感覚があるので、それまで我慢強くやってやろうという気持ちを常に持ち続けています。やり続けられない選手はプロとして消えていく。よくない時に落ちるのではなく、キープすることが大事だと考えています」
数々の挫折を乗り越えてきた。山梨学院高1年時にサッカー部の活動に参加することを禁止されたことがあった。退寮を余儀なくされワンルームマンションでひとり暮らしをしながらパン屋の仕事を手伝う奉仕活動も経験。1年後にサッカー部への復帰を許可されると、初心に戻ってサッカーと向き合い急成長を遂げた。
高校卒業後は、当時からずば抜けていたスピードを買われJ2松本山雅に入団。だが、プロ1年目は周囲との技術差を痛感して自信を失い、サッカーを嫌いになった時期もあった。心が折れそうになった時に支えとなったのが、今も座右の銘としている「凡事徹底」という言葉。日本代表の森保一監督がよく口にする言葉でもある。
「山梨学院高校の寮に貼られていた言葉で、そこで初めて知りました。すごくよい言葉だなと思い、ずっと大事にしています」
特別なことはしていない。やり続けた先にあった現在地
所属するスコットランド1部セルティックでの2025〜26年シーズン、序盤は不振に陥った。それでも終盤は公式戦7試合連続ゴールを決める活躍でリーグ戦とスコットランド杯の2冠に貢献。W杯につながるシーズンを最高の形で締めくくったが、本人は特別なことをしたわけではないと言う。
「シーズンの終盤に活躍できた要因とかは特にありません。ただ、上手くいかない時も、やり続けた。今までどおりがむしゃらにやり続けたことを最後の最後に神様が見ていてくれたのかなっていうのはあります」
トップアスリートは睡眠時間や食事にこだわり、自己管理を徹底する選手が多い。だが、前田は揚げ物も食べるし、細かい睡眠時間や体重も気にしない。何よりも自分の感覚を大切にしている。
「食べたいものを食べて、寝たい時に寝るじゃないけど、あまり細かくルールは決めていません。そこにストレスを溜めたくないほうなので。自分のしたいことをする感覚を大事にしています」
ワールドカップ出場は2022年カタール大会に続く2大会連続2度目。前線から積極的にボールを追う姿勢や、労を惜しまずに全力疾走でアップダウンを繰り返す姿は地味ながら仲間を助け、サポーターの心にも響く。
「パン屋で働いていた時に作ったパンを嬉しそうに買いに来てくれる人たちを見て、こういう人たちのために働いているんだと実感しました。今はサッカー選手になり職業は違うけど、誰かのために働く素晴らしさは変わらないと思っています」
2026年5月に上梓した自叙伝のタイトルは『がむしゃら なぜ俺は、こんなに走るのか──。』。平たんな道のりではなかったからこそ、気づけたことがある。チームメート、サポーター、愛する家族──。支えてきてくれたすべての人たちのために、泥臭く走り続ける。

1997年10月20日、大阪府生まれ。山梨学院高からJ2松本山雅に入団。2021年には横浜F・マリノスでJ1リーグ得点王に輝いた。2022年にスコットランドの名門セルティックに入団。2024-25シーズンのスコットランドリーグ年間最優秀選手に輝く。2021年は東京五輪に出場。W杯は北中米大会が2度目の出場となる。

