モチベーションが上がらなくなり、自分の行動や存在が無意味だと感じてしまう──。中年危機が静かに忍び寄り、ある日突然、底なしの沼がぱっくりと口を開ける。たちの悪いことに、ある程度の成功を収めた人がこの沼に引きずり込まれる傾向があるという。47歳で心身に異変を感じたタレントのつるの剛士は、学んでいた心理学の力も借りてこのピンチから脱出した。#1

二度寝と筋トレで身体を変えた
第1回では、仕事も家庭も順調だったつるの剛士がミッドライフ・クライシス(中年の危機)に陥り、ちょうどそのタイミングで学んでいた心理学の知識が事態を把握する助けになったことを紹介した。
では、鬱々とした気分や不安を振り払うために、どのようなことに取り組んだのだろうか。つるのは、「僕はウルトラマンの役で地球の危機は救ったけれど、中年の危機を救うのは大変でした」と周囲を笑わせてから、こう語った。
「僕の場合は改善点がはっきりしていて、まず睡眠時間が極端に短いことが問題でした。睡眠不足が原因の疲労が積もり積もって精神的な落ち込みにつながっていた。それまでどんなに長くてもせいぜい4時間しか寝ていなかったんですが、今は7時間は眠るようにしています。二度寝をする努力をして、やっと二度寝ができるようになったんです(笑)」
そして、「やっぱり身体と心はつながっていると実感しています」と言ってから、こう続けた。
「僕の場合は、ちょうどそのときにダイエットに取り組んだんです。でも、ただ体重が減るだけだと意味がない。筋肉をつけないと脂肪は燃焼しない。筋トレをして、食事の脂質とか糖質のバランスに気をつけて、自分の基礎代謝をしっかりと把握するようにしました。
僕の場合はダイエットをそんなに難しくは考えていなくて、消費カロリーが摂取カロリーを上回れば絶対に痩せると思っているんです。自分を変えることは難しいけれど、ボディが変わると見た目が変わるし、自分に自信がついて前を向けます。3ヵ月で15キロ痩せて、体脂肪率5%までいったんですよ(笑)」
中年期に人生のステージが変わるのは当然だと受け止める

1975年福岡県生まれ。高校時代より芸能活動をスタート、1997年に『ウルトラマンダイナ』の主役を演じ、注目を集める。俳優業のほかにラジオパーソナリティやレポーターなど活躍の場を広げ、2007年に『クイズ! ヘキサゴンⅡ』でおバカタレントとして大ブレイク。同番組で生まれたユニット、羞恥心では圧倒的な歌唱力を披露、2009年にはカバーアルバム『つるのうた』でソロデビューを果たした。子煩悩のパパとしても知られ、子供向けの楽曲を歌う『ちゅるのうた』シリーズや特撮ヒーロー番組の主題歌などを発表、子どもたちや子育て世代からも絶大なる支持を受ける。
ただし、「ダイエットではなくても、ほかにもご自身にあったやり方がたくさんあると思います」とつるのは言う。
「今までと違うこと、新しいことをやってみるのがいいんじゃないでしょうか。たとえば、髪を金髪にしてみるとか、そんな小さいことでもいいと思うんですよ。金髪にすると人からの見られ方が変わって、見られ方が変われば環境が変わって、環境が変わると自分で自分を見つめる目も変わります。
もしかしたらファッションとかもあるかもしれないけれど、視点を変えてみるのっておもしろいと思う。自分のなかでガチガチに凝り固まっているもの、それをガラッと変えてみるのが吉に出ると感じています」
こう語ってから、つるのはこんなエピソードを披露してくれた。
「先日、子どもの通学路を歩いていたら、横断歩道で楽しそうに黄色い旗を振ってくれているおじいさんを見かけたんです。すごくうれしそうに旗を振っていらっしゃるんですよ。で、僕は想像したんです。きっと昭和時代のビジネスマンで、仕事を頑張ってそれなりの地位を得たけれど、たぶん子育てや地域の活動には参加できなかったんだろうな、と。
定年退職して、会社員という仮面が剥がれて、出世や昇給といった目的もなくなって、普通だったら家庭で濡れ落ち葉のように扱われるかもしれない。でもあのおじいさんの生き生きとした姿を見ていると、新しい世界にチャレンジしているんだなと思えました。いくつになろうと、新しいことに挑むのが大切なんだな、と。おじいさんの身の上は、あくまで僕の勝手な想像ですけどね(笑)」
新しい世界にチャレンジするにあたっては、「新たな趣味を持つことも有効ではないか」とつるのは語る。確かに、趣味を始めることで新しい知識を得て、新しい環境に身を置くことができ、新しい仲間もできるかもしれない。ただし、「定年退職を機になにか新しい趣味を見つけたい」と希望する人が多いように、大人が新しい趣味を見つけることはなかなかに難しい。
サーフィン、ギター、将棋、モーターサイクルなどなど、多趣味で知られるつるのに、お薦めの趣味を尋ねると、「自然を相手にするものがいいでしょう」と即答した。
「GOETHEをお読みの方は、計算ができる方だと想像します。こうやったら売り上げがこう伸びて、ここを工夫したらこれくらい会社が成長する、みたいな計算ができる方が読者ではないでしょうか。ところが、自然相手だとそうはいきません。
たとえばサーフィンに行くと、天気予報と全然違う風が吹いたり、想定外のうねりがあったり。だから僕の周囲でサーフィンをやっている人は、お医者さんとか企業の経営者とかパイロットとか、きちんと計算ができて成功を収めた人が多いですよ。釣りもそうですけれど、自然を相手にする計算できない遊び、お金を出しても手に入らない経験こそ、社会的地位のある方が魅力的だと感じるのではないでしょうか」
睡眠とダイエットで身体を変えたことだけでなく、心理学を学んで得た知見も、中年危機の克服に大いに役立ったという。
「ユングや河合隼雄先生をはじめとする心理学の本を読んで、中年期にさしかかると人生観が大きく変わることを学びました。ある程度の目標を達成したならば、次のステージに向かうために自分と向き合う必要があります。
僕の場合は、ポジティブでいなければならないという思い込みを取り払って、そりゃあ疲れることもあるよ、疲れた自分でもいいじゃないと、すごく寛大な心になりました。もっと深い自分と向き合えるようになったというか、あんまり思い悩む必要もないし、悩んでいる自分もまぁまぁかわいい、みたいな。
男性の場合は更年期といってもわかりやすく身体に表れるものじゃないから気づきにくいけれど、心理学を学んだことで誰にでも起こりうることだと理解できたのは、すごくよかったと思います」
最終回となる次回(2026年6月1日公開)は、40代半ばを迎えた時につるの剛士が学びに向かった理由と、そこで得たものを語ってもらう。

