映画やドラマなど出演作が引きも切らず、近年は、オーディオドラマの演出と脚本を手掛けるなど、俳優以外の活動にも挑戦。八面六臂の活躍を見せる染谷将太は、自身のキャリアをどう捉えているのか。「ぬるっと始まった感じがする」という仕事が、なぜ人生の軸になったのか。その思考と素顔に迫る。インタビュー後編。#前編

「別の世界にいる自分は想像できない」
染谷将太がこの世界に足を踏み入れたのは、7歳のとき。幼少期から大の映画好きで、それに関われるのならばと、友だちに誘われるまま子役に応募したのがきっかけだった。33歳にして、すでにキャリア25年以上になるが、俳優を“一生の仕事”と決めたのは、いつなのだろうか。
「うーん、どうでしょう。映画は好きでしたが、どうしても役者になりたかったわけではないんですよ」
そう言った後、しばし思考を巡らせた染谷は、「13歳のときに出させていただいた『14歳』という映画は、ターニングポイントのひとつになったかもしれません」と切り出した。
「この作品に出て、今まで触れたことのないような感覚を知り、映画に対する意識が変わりました。それまでは、役者を続けることを含め、将来のことなんてあまり考えていなかったんですけど、そのとき初めて、これからもずっと映画に携わる仕事をしていきたいと思ったんですよ。芝居がダメでも、何かしら映画に関わる仕事をしていきたいって。
ただ、高校を卒業し、役者一本になったときは『オレには他の選択肢はない。これで生きていくしかないんだ』と、ちょっと衝撃を受けました。でも、役者を辞めたいと思ったことは一度もないし、別の世界にいる自分は想像できない。それに、他の仕事に就いても、きっと周りに迷惑をかけていたと思うんですよね(苦笑)。なので、早くからこの世界に身を置けたことは、とてもありがたいし、幸せなことだと思っています」

1992年東京都生まれ。9歳で映画デビューし、19歳で第68回ヴェネチア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞を日本人で初受賞。たぐいまれな演技力で、映画から舞台まで幅広く活躍する。近年の主な出演作に、映画『陰陽師0』『聖☆おにいさん』『新解釈・幕末伝』、ドラマ『風間公親-教場0-』『べらぼう~蔦屋栄華乃夢噺』『シナントロープ』などがある。現在放映中のドラマ『田鎖ブラザーズ』(TBS系)も好評。
役者とは違う脳みそを使う。初演出で気づいた“伝える力”
俳優として多忙を極めるなか、2025年12月から翌2026年1月にかけて放送されたオーディオドラマ『だまっていない』(NHK)では、初めて脚本と演出を担当。長年温めてきた、「音だけで物語をつくってみたい」という願望を叶えた。
「役者は、監督の要望に演技で応える、いわば芝居でコミュニケーションをとっていますが、演出家はそうはいかない。コミュニケーション能力が必要なんだなと、実感しました。こう演じてほしいということを伝えるにしても、相手によって受け取り方が違うので、性格やタイプに合わせ、言葉も、言い方も変えないといけないんだなと。
自分はそこがあまり長けていないので、演じているときとは違う脳みそを使った気がします。今回のことで、コミュニケーション能力が磨かれたかどうかはわかりませんが、いい勉強にはなりました。演じることも、演出することも、どちらも好きなので、機会があればまた挑戦したいですね」
そう言いながら、楽しそうに笑う染谷。飄々(ひょうひょう)とした話しぶりからは、どんな壁に当たってもさらっと乗り越えそうな印象を受けるが、実は、年を重ねるにつれ、悩むことも多くなったと明かす。
「基本人見知りなので、家族やすごく親しい人限定ですが、悩んでいるときはけっこう誰かに相談します。人の意見を聞いて、自分の考えが偏っていたと気づくこともあれば、アドバイスをもらってモヤモヤが晴れることもあるので。
数年前だったかな、何に悩んでいたかは忘れちゃったんですけど、友だちに『お前、気にし過ぎ。周りはそんなにお前のこと見ていないよ』と言われて、『もっと気楽に、自由にやっていいんだ』と、ハッとしました。
きっと自意識過剰だったんでしょうね。僕、根が小心者なので、周りの目がけっこう気になっちゃうんですよ。……でもまぁ、どこかで、どうでもいいかと思っているところもあるような気がしますけど(笑)」

空間を移動することがリフレッシュになる
2025年は映画だけでも8本に出演、2026年も主演映画『廃用身』をはじめ、公開予定作が続き、ドラマでも活躍するなど、俳優として乗りに乗っているが、プライベートはどう過ごしているのだろうか。
「計画的に休みを取るときは、旅行とか遠出することが多いですね。そこに行って何をするというわけでもないんですが、空間を移動することが好きだし、リフレッシュできるんですよね。
人って、空間を移動すると、海馬がすごく活性化して、頭の中でいろんなイメージが湧くらしいです。その説を聞いたとき、なんかしっくりきたんですよ。そういえば、新幹線に乗っているときとか、移動している最中って、無意識のうちにいろんなことを考えていて、それが頭の中のリセットになっているなって」
旅行の計画を立てるのも好きだが、本人いわく「へたくそなので、予定どおりいったことがない」とか。
「何時にここであれをして、次の場所には何時に到着してって、けっこう細かく計画するんですけど、そもそもその時間で移動するのは無理じゃん!って。いったい何を計画したんだ⁉って話なんですけど(苦笑)」

「ぬるっと始まったもの」が人生の主軸になる
最後に直球の質問をぶつけてみた。あなたにとって、仕事とは?
「いやぁ、なんですかね。就職したわけではないし、どうしてもこの仕事がやりたくて、何かを乗り越えてつかみ取ったものでもないし。……うーん、なんだろう。ぬるっと始まったものが、いつのまにか人生の主軸になっているという感じというか。生活の一部、生活の延長線上にあるものですね」
肩の力が抜けていて、自然体。それでいて、どこかミステリアスでもある。
この捉えどころのなさこそが、染谷将太がどんな人物をも実際に存在するかのようなリアリティをもって演じ分けられる理由なのかもしれない。
衣装クレジット:ジャケット¥638,000、トップス¥269,500、パンツ¥231,000(すべてプラダ/プラダ クライアントサービスTEL:0120-45-1913) その他はスタイリスト私物

