Netflixシリーズ『地面師たち』で、地面師集団の一員・後藤を演じているピエール瀧への単独インタビュー。後編では、2024年で35周年を迎えたバンド、電気グルーヴを含めマルチに活躍する瀧の、仕事に対するスタンスや、どんな仕事でも楽しんでしまう胆力に迫る。 #インタビュー前編
「なんかまた無理難題をふっかけられてんな」
ピエール瀧は電気グルーヴに軸足を置きながら、俳優業や声優業、唯一無二のトーク力を武器に、タレントとしてもマルチに才能を発揮している。
常に“ピエール瀧”のままフィールドを軽快に行き来しているように見えるが、もちろんスイッチは切り替えているという。
「(石野)卓球くんとやっている電気グルーヴの活動は、楽曲もライブも僕たちの作品。お芝居のほうは今回だったら大根さんやプロデューサーさんの作品のお手伝いをするっていう感覚なので、使う回路が違いますかね。
責任の種類が違うというか。お芝居のほうに責任がないわけじゃないですけど、一端を担えばいいという感じです」
実に楽しそうに見えるが、仕事は遊びや趣味の延長なのか、仕事と割り切っているのだろうか。
「趣味の延長のほうが大きいですかね。バンドはもちろんそうですし、そうあるべきだと思いますけど。
仕事だと思ってバンドをやるのってなんかちょっと違うじゃないですか。オーケストラの人はまた別かもしれないですけど、でもあれはあれで楽しんでやってそうですしね。
俳優業のほうは、なんでしょうねえ。仕事ですけど仕事じゃない……と言ったら変ですけど、『なんかまた無理難題をふっかけられてんな(笑)』みたいなものをやってる感じですかね。
だって『死んでみろ』とか言うんですよ? こちとら死んだこともないのに(笑)。毎回『こうかなー』って想像してやる感じだから、仕事ですけど、そういう遊びの部分がありますよね」
そこが俳優業の面白さだという。
「お芝居をするときの、自分と全然関係なかったり、知らない人だったりの気分になってみるっていうのは面白いですよね。僕は俳優としての訓練だったりとか、誰か師匠に教えてもらうとかっていうものが一切ない。
お芝居のときにはその人の気分になって、こういう局面でこういう動きだったりとか表情だったりとかするんじゃないのかなっていうのを全部想像でやるわけですよね。
なので、ときによって殺人犯、刑事、今回の詐欺師っていうのを、その人の気分になって演じる。この動きはしないだろうとか、こういうのをアドリブで足すとよりそれっぽいだろうなっていうのを考えることは、面白いですけどね」
無理難題をふっかけられたら、「自分にできるだろうか?」と萎縮したり緊張したりしそうなものだが、瀧は「無理難題をふっかけたほうが悪くないですか?(笑)」と、非日常的な状況を楽しんでいる。
この胆力が、あちこちから声をかけられ、新たなフィールドを切り拓いていく秘訣なのかもしれない。
想像の外側に着地する仕事が、一番いい仕事
ここ数年は、瀧が夜の23時に東京23区、1区ずつ散歩(徘徊)し、それを記録した著書『ピエール瀧の23区23時 2020-2022』を出版し、モンゴルやマレーシアなどの外国でその土地の人のおすすめを聞いて旅するYouTubeチャンネル『ピエール瀧 YOUR RECOMMENDATIONS(#ユアレコ)』を更新中。
これらを見ても、ピエール瀧はご近所だろうが異国だろうが、飛び込んだ環境で面白さを発見する天才だということがよくわかる。それは彼が仕事を楽しむスタンスと相違ない。
「俳優業にしても、自分で『僕、俳優になります』ってなったわけではないので、誰かが見つけてくれて、『お前がやったらおもろいかも』『ちょっとこっち来てみろ』みたいな感じでやるようになったとこもあるし。
まあ、言ってみればバンドもね、楽器ができるわけじゃないけど、卓球くんとかに誘われてずっとやってたりするわけで。 そうやって誘われたときに楽しめるかどうかっていうようなことで。
自分がそこのフィールドにパッと行ったんだから、そこでつまんなそうな顔しててもしょうがないし。何かしら面白そうなところを見つけてやるべきじゃないですかね。群れの理論として、と言ったら変ですけど。
そもそも楽しくない仕事はやめたほうがよくないですか?(笑) 家を継がなくちゃみたいな、楽しくなくてもやらなくちゃいけないケースもいろいろあるのかもしれないですけど」
そもそも、彼は俳優の仕事のどこに楽しさを感じているのだろうか。
「職人さんとかだったら、自分のなかで完結するお仕事でしょうけれども、僕らの仕事は、(周りを見渡しながら)今日もいっぱい人がいますけど、いろんな人に関わりながらやらないとできない、前に進んでいかない仕事ですから。
そういう意味では仕事そのものもそうですけど、今日だったらスタイリストさん、メイクさん、カメラマンの人とかいろいろいますけれども、そういう人たちと会ってコミュニケーションを取ることで何か、漠然としたものが1個前に進むっていうことに関しては非常に面白いです。
おそらく関わった人たちそれぞれの想像の外側に着地する仕事が、一番いい仕事だと思うので。そういうものをイメージして、楽しいか楽しくないかというよりかは、そこで何かを(自分から)出すっていうことにフォーカスしていくっていう感じですかね。
それが楽しい雰囲気のもとやれるんだったらそれが一番いいでしょうけれどもね」
お茶を濁すのはよくない
さきほど“群れの理論”という表現があったが、ピエール瀧が人と関わりながら、楽しく、いい仕事をするために心がけていることは、「正直にやること」だと話す。
「『くだらない仕事だな』と思ったら『くだらないね』、つまらなかったら『つまらない仕事だったね』って、せめて身内の人たちにはちゃんと言うべきだし。それを言わないでお茶を濁すようにしてると、なんかよくない気がしますね」
そう言われて、思わずドキッとしてしまった。なぜなら、瀧と対峙していると、彼の言う「正直」な反応が伝わってくるからだ。
こちらの質問に甘さやゆるさがあるときは、回答する前にそこをさりげなく指摘する。たとえば「今、何にワクワクしていますか?」という質問に対する第一声は「質問が広いっすねえ〜(笑)」だった。
そして「今何にワクワクしてますかねえ〜」と考え始め、すぐに「さっきメイクされながら、『ベタベタしない焼きそばの作り方』ってやつを知って、『ほほお〜!』となったので、今そのやきそばが作りたくてしょうがないですね。家帰ってやってみたいっていう。『本当だ!』ってなるかどうかっていう」という回答で、その場を笑いで包んだ。
通り一遍の回答でインタビューをこなさず、正直に対峙する。その正直さの表出具合も絶妙で、場の空気を悪くするどころか、逆に場の空気を高揚させる。
ところで彼自身、この業界で35年活動してきて、社会性が身についたな、丸くなったな、と感じる部分はあるのだろうか。
「それは往々にしてあるというか、多分どなたもおありのことでしょうし。逆に今20代前半みたいな立ち居振る舞いをしてたら『あいつやべえ』って話じゃないですか、いくらなんでも(笑)。
とは言いつつ、おそらく外から見たら『この人変わらないな』って言われるところもあるでしょうし。たぶんそこは変わらないというか、変えようがないものだと思うので、そこがおそらく個性と呼ばれるとこだと思います。それが良いことであれ悪いことであれ。
悪いことであったとしても、それを悪いままに見せないスキルみたいなものが、年齢や経験によってついていくんでしょうかね。だからそういう意味で変わったと言えば変わったでしょうし、それは他の人に対して変わったように見せるテクニックがついたっていうだけのことかもしれないです」
現在57歳。ピエール瀧の描く未来のイメージとは?
「あんまないすかね。そういうのを定めずに日々なんかウロウロウロウロしてたからこうやってね、インタビューしていただけるようになったと思うので。
そういうものをイメージしないままのほうが、これからもいいんだろうかなとは思いますね。あとね、言える目標なんてものは大した目標じゃないですからね(笑)」
Netflixシリーズ『地面師たち』
実在の地面師事件に着想を得た新庄耕のクライムノベルを、『モテキ』『エルピス—希望、あるいは災い—』の大根仁監督が実写化。東京都目黒区の100億円の土地の持ち主になりすます詐欺師集団・地面師たちと、彼らのターゲットである大手デベロッパー、そして地面師たちを捕えようとする警察の攻防を描く全7話のドラマシリーズ。過去の出来事ですべてを失った青年・辻本拓海を綾野剛が、彼を地面師の道に導く謎の男・ハリソン山中を豊川悦司が演じる。
出演:綾野剛、豊川悦司、北村一輝、小池栄子、ピエール瀧、染谷将太、池田エライザ、リリー・フランキー、山本耕史ほか
監督・脚本:大根仁
原作:新庄耕『地面師たち』(集英社)
2024年7月25日(木)Netflix にて世界独占配信
衣装クレジット:ジャケット ¥55,000、シャツ ¥30,800、パンツ ¥37,400(すべてグラフペーパー/グラフペーパー 東京 TEL:03-6381-6171)