不動産売買をエサに巨額の金を騙し取る詐欺師集団「地面師」。前代未聞の100億円を巡る不動産詐欺事件が全7話のドラマとなり、Netflixシリーズとして2024年7月25日より配信された。本作で地面師集団の1人を演じたピエール瀧に単独インタビューを試みた。インタビュー前編。
実在の地面師事件に着想を得た小説を映像化
2017年、“地面師”という怪しげな文字がニュース記事の見出しを飾った。東京都品川区五反田の土地をめぐり、土地の所有者になりすました〈不動産詐欺師の集団=地面師たち〉による、巨額詐欺事件が起きた。
まるでドラマや映画のようなこの事件によって、「地面師」という存在がにわかに知られるようになった。
入念なリサーチで地面師の実態に迫り、エンターテインメント小説に仕立てた新庄耕の『地面師たち』が全7話のドラマとなり、Netflixシリーズとして2024年7月25日より配信された。
脚本・監督は社会派ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』で新境地を切り拓いた映像ディレクターの大根仁。ピエール瀧が、本作で地面師集団の1人、後藤を演じた。
大根は、ピエール瀧を後藤役にイメージしながら脚本を執筆したという。元司法書士の後藤は、地面師チームでは「法律屋」として、書類の偽造やターゲット(不動産会社や土地所有者)との交渉を担当する。
「(原作小説の)元になったという言い方をしていいのかどうかはよくわからないですけど、五反田の事件はみんな知ってるじゃないですか。大根さんから『瀧さんやってくれませんか』と言われたときは、『あー、あれを映像化するんだ』とまず思いました。
面白そうな内容だったので、『どっち?』と聞いたら『それはもちろん詐欺師側ですよ』『なるほどそれはいいですね』と(笑)。
原作は読んでいなかったけれど、詐欺師側だったら楽しそうだな、というのが正直なところです」
コテコテの関西弁に苦戦
いわば二つ返事で引き受けた。
大根はかつて、瀧がメンバーとして活動する電気グルーヴが25周年を迎えたタイミングで、音楽ドキュメンタリー映画『DENKI GROOVE THE MOVIE? ~石野卓球とピエール瀧~』(2015年)を監督した。Instagramには、2人でサッカーを観戦したときの写真もポストされている。
瀧にとって大根がどんな存在なのかを聞くと、こちらを牽制するように「“唯一無二の大事な存在”、とかにしておきます?(笑)」とニヤリと笑う。
「僕のベースは音楽畑で、そこで共通の知り合いを通じて知り合ったので、そういう意味では友達から仕事の依頼が来たという感じですかね。
おかげで、『もっとこうしたほうがいいんじゃないか』みたいなことをわりと話せたので、やりやすい感じはありました」
と言いながらも、現場では苦戦したという。その理由は、コテコテの関西弁を話す後藤のキャラクター設定にあった。
「関西弁って実はハードルが高いというか、難しいじゃないですか。ネットの世界に〈関西弁監視委員会〉があるくらい(笑)、イントネーションがどうのって一番厳しく言われる言葉だと思うので。
僕はネイティブではないので、『(セリフを)標準語に変えてくんない?』って言ったら『ダメです』って言われたんで、『わかりました』って(笑)。指導の方が入ってくださって、録音した関西弁の音声データももらって、それを聞いてトレーニングしてから演じました。
自分ではコピーできているつもりでも、実際発声するとなかなかそうもいかなかったりして、正解がわからない。指導の方が手取り足取りじゃないけど、『ここが違ってました』『あ、そうなんだ!』と、現場で修正しながらやっていた感じですね。
今回、豊川悦司さんや北村一輝さん、駿河太郎さんとか、関西弁ネイティブの俳優さんがいるんですよね。普段は標準語を喋ってるけど実はネイティブ。そういう人たちにも、セリフを喋ったあとに『今ので合ってた?』と聞いていました」
迷いながら演じていた
関西弁でまくし立てて相手を威圧する後藤をはじめ、綾野剛、豊川悦司、北村一輝、小池栄子らが演じる地面師集団だけでなく、本作では騙される側(不動産会社の面々や土地の所有者)や、詐欺に利用される人たちのキャラクターも粒立っている。
そのなかで、瀧は後藤という人物をどう捉えて演じたのだろうか。
「後藤さんは地面師たちのなかでは唯一“家族”の存在が感じられる人なんですよね。(綾野剛が演じる主人公の)拓海くんは昔は家族がいましたけど、今は孤独だったりするわけで。今現在も家族と一緒に暮らしているところで、後藤さんは他の4人とはちょっとポジションが違う人だと思うんですよね。
そういう意味で言うと、詐欺行為も悪いことをするというよりも、ただ儲かるからやってるっていう部分もあったりするでしょうし、後藤っていうのはちょっと面白いキャラクターですよね。
カチッとしてない遊びがあるキャラクターなので、本来だったらもっとアドリブを入れたいんですけど、いかんせん関西弁がネイティブじゃないんで、アドリブが放り込めない。台本のセリフはOKだったのに、最後に放り込んだアドリブ(の関西弁)が違ってNGになったら、しんどいじゃないですか。(一緒に芝居をしている)他のみなさんも。
なのでそういう部分で、キャラクターの解像度を上げるものが入れにくかったですし、もっとできたのかな、でも引き出しがねえしなって思いながら、迷いながら演じていました」
地面師たちの手口が知れる
瀧に、個人的にお気に入りの登場人物を聞くと、意外な人物の名前が挙がった。
本作の舞台となる、港区高輪にある100億円を超える土地を狙う、大手デベロッパー・石洋ハウスの開発事業部部長の青柳(山本耕史)…の下にいる、ナンバー2の大谷だという。
「清水伸さんが演じる大谷さんは本当にその人にしか見えない、あの立ち居振る舞いとムードが非常に好きですね。あの人がいるから石洋ハウスがデカい会社なんだなっていうのがわかるというか。
大企業のああいう部署って、彼のような緩衝材の役目をしている人がいるんですよ。そういう人を見事にやられていて、すごく好きですね」
作品については「面白かったですよ。そこは(出演者なので)『イマイチでしたね』なんて言うわけがない(笑)。どうします? 『イマイチでした』ということにしときます? 『大根監督の次回作に期待!』って(笑)」とまたしてもこちらを手球に取るような返答をしつつ、作品の面白さを次のように語った。
「サスペンス要素もありますけど、やっぱりこういう作品の面白さって、悪事をする人たちの『そういう感じでやってるんだな!』っていう手口が知れるところ。おそらくご覧なった人たちにしてみたら、見てて勉強になる部分もあるでしょうし。
逆に言ったら彼らが騙そうとする石洋ハウスみたいな大企業側の、いろんな審査があるからなかなか物事が進まないんだなっていう構造的な部分もわかりますし。
でもやっぱり、地面師たちがチームでこういうふうにやるんだっていうところが面白いですよね」
作品のプレス資料によると、大根監督が後藤役に瀧をキャスティングした理由のひとつに、「読書家で色んなことをよく知っていて、難しいことをユーモアを交えてサラッと話す」〈知性〉があるという。
瀧が本作に感じた面白さはまさに、彼の知的好奇心のアンテナがキャッチした部分と言えるだろう。
後編に続く。
Netflixシリーズ『地面師たち』
実在の地面師事件に着想を得た新庄耕のクライムノベルを、『モテキ』『エルピス—希望、あるいは災い—』の大根仁監督が実写化。東京都目黒区の100億円の土地の持ち主になりすます詐欺師集団・地面師たちと、彼らのターゲットである大手デベロッパー、そして地面師たちを捕えようとする警察の攻防を描く全7話のドラマシリーズ。過去の出来事ですべてを失った青年・辻本拓海を綾野剛が、彼を地面師の道に導く謎の男・ハリソン山中を豊川悦司が演じる。
出演:綾野剛、豊川悦司、北村一輝、小池栄子、ピエール瀧、染谷将太、池田エライザ、リリー・フランキー、山本耕史ほか
監督・脚本:大根仁
原作:新庄耕『地面師たち』(集英社)
2024年7月25日(木)Netflix にて世界独占配信
衣装クレジット:ジャケット ¥55,000、シャツ ¥30,800、パンツ ¥37,400(すべてグラフペーパー/グラフペーパー 東京 TEL:03-6381-6171)