PERSON

2026.05.14

染谷将太が“映像化不可能”『廃用身』で挑んだ覚悟「その正しさは本当に正義か?」

声音やしぐさだけでなく、目に宿る光までも自在に変える俳優、染谷将太。主演映画『廃用身』で彼が向き合ったのは、倫理観を揺さぶる難役だった。なぜこの作品に挑んだのか。その覚悟と役者としての矜持に迫る。インタビュー前編。#後編

「その正しさは本当に正義か?」染谷将太が“映像化不可能”『廃用身』で挑んだ覚悟

「自分にとって意味がある」不安と覚悟の先に選んだ役

壮絶な過去を持つ江戸時代の天才絵師から、家庭に問題を抱えるやさぐれた刑事、冷徹な殺し合いに身を投じるアイヌの弓使い、さらには現代に降臨したブッダまで。圧倒的な演技力で、どんな役をも“ハマリ役”にしてしまう俳優、染谷将太。

その染谷に「この役を演じるのは不安だったし、覚悟がいりました」と言わしめたのが、2026年5月15日公開の映画『廃用身』の主人公・漆原糾(うるしはらただす)だ。

本来の機能を失い、身体に対して単なる“錘(おもり)”と化してしまった手足を切断することで、患者から心身の苦痛を取り除き、介護者の負担を軽減する。その画期的な治療法を「Aケア」と名づけ、世に広めようとするデイケアクリニックの院長役である。

原作となった小説は、終末期医療に携わってきた医師・久坂部羊のデビュー作。刺激的な設定もあって「映像化不可能」と言われ続けてきた。その映画化に挑んだのが、2003年の発表当時から惹かれ、かねてより構想を温めてきた𠮷田光希。監督と脚本を担当し、難しい役どころである漆原役として、染谷に白羽の矢を立てたのだ。

俳優・染谷将太
染谷将太/Shota Sometani
1992年東京都生まれ。9歳で映画デビューし、19歳で第68回ヴェネチア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞を日本人で初受賞。たぐいまれな演技力で、映画から舞台まで幅広く活躍する。近年の主な出演作に、映画『陰陽師0』『聖☆おにいさん』『新解釈・幕末伝』、ドラマ『風間公親-教場0-』『べらぼう~蔦屋栄華乃夢噺』『シナントロープ』などがある。現在放映中のドラマ『田鎖ブラザーズ』(TBS系)も好評。

「吉田監督の作品はすごく好きで、いつかご一緒したいと思っていました。だから、声をかけていただいた時は、純粋にうれしかったですね。準備稿はたいていデータなんですが、手元に届いたものはしっかり製本されていて、監督の熱量を感じました。

ただ、読み進めていくうちに、恐怖というか、心がざわざわしたんですよ。小説自体がすごく倫理観を問われるものだと思いましたし、それを映画にするということは、社会に与える影響も含め、映画の倫理観も問われかねませんから。

でも、この作品は、20年後、30年後に見返しても、とても意味のある作品になるんじゃないかという気もしました。それに、漆原を演じること自体、自分にとっても意味があるんじゃないかという想いもあって、出演を決めました」

演じるのではなく、Aケアを布教する感覚だった

患者を苦しめ、介護する者にとって負担になる用をなさない手足。それらを切除した患者の姿を初めて目にした者たちは、合理性重視の術式への嫌悪感からか、一瞬言葉を失う。

しかし、患者からは「動かなくなった腕や足を取り除いたことで、身体も心も軽くなった」、その家族からは「患者の活気が戻った」と、“好ましい副作用”が報告され、自分が抱いていた常識や倫理観を問い直すことになる。

俳優・染谷将太

「漆原のセリフに『医療とは科学ではなく、すべての患者に満足を与えるサービス』というものがあります。彼は、患者にとってベストな形でサービスを提供したいという一心でAケアを行っていて、そこに悪意はまったくない。サイコパスというわけではなく、社会のために尽くしたいと考えていて、根底にあるのは善意なんです。

そこは、絶対にブレないように心がけました。なので、演じるというよりは、目の前にいる人に、Aケアをいかに信じてもらうか、布教しているような感覚に近かったかもしれません」

漆原のセリフの大半がAケアにまつわるものだが、それを口にする際、染谷はほとんど瞬きをしていない。瞬きは、心の揺らぎや自信のなさを想起させる。漆原が、Aケアの効果に微塵の疑いも迷いも抱かず、信じていることを表すには、相手をまっすぐに見つめる強さが必要だと考えてのことだという。

その漆原の目に宿る光は、Aケアを施した患者が起こした凄惨な事件と、小学生の漆原のとある行為がマスコミに取り沙汰されることで、徐々に変わっていく。当初の穏やかながら自信に満ちた眼差しから、何かに怯え、迷い、不安に満ちたものへと変化するのだ。

「記憶が曖昧ながら、過去の自分を咀嚼(そしゃく)し出したことで、漆原は揺らぎ始めます。自分が正しいと信じて疑わなかったことが、実はそうではなかったんじゃないかと思うようになってしまったら……。

自分を貫いていた軸がブレてしまうわけで、精神が崩壊していくのは当たり前ですよね。漆原に起こったことを素直に受け止めることで、自然とああいう演技になりました」

「30代のほうが緊張する」だから本番前に整える

こうした役に対する深い洞察と演技への真摯な姿勢で、どんな役をも圧倒的なリアリティで演じてきたが、「毎回(台)本を読み込んで、気持ちを想像して臨むだけです」と、役づくりはいたってシンプル。

演じる役にプライベートが影響されることもなく、撮影が始まる直前まで“素”の状態で、芝居が始まった瞬間にスイッチが入るという。

俳優・染谷将太

「でも若い頃に比べて、30代になってからのほうが本番前に緊張するようになりました。経験が増えれば増えるほど、緊張しちゃうタイプなんでしょうね。

だから、本番前に瞑想することで心拍を下げようとしたり、肩の力を抜くために、あくびやため息をついたり。あえて『どうでもいいや』と思うこともあります。どうでもよくないからこそ、ムリに自分にそう思い込ませようとしているんですけど(笑)」

後編では、その人となりとプライベートに迫る。

衣装クレジット:ジャケット¥638,000、トップス¥269,500、パンツ¥231,000(すべてプラダ/プラダ クライアントサービスTEL:0120-45-1913) その他はスタイリスト私物

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=倭田宏樹

STYLING=林道雄

HAIR&MAKE-UP=AMANO

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2026年6月号

会員制への誘い

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2026年6月号

会員制への誘い

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ6月号』が2026年4月24日に発売となる。総力特集「会員制への誘い」では、最新の会員制クラブをご紹介。ファッション特集「Tied-Up or No-Tie?」では、Vゾーンに着目したお洒落の流儀をお届けする。表紙はKis-My-Ft2・玉森裕太。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる