ベストセラーとなった『夢と金』以来3年ぶりに西野亮廣氏が書籍『北極星 僕たちはどう働くか』を上梓。初版10万部にして発売前重版がかかり、その勢いは止まらない。本書に込めた想いと、出版界の常識を覆す驚くべきカラクリとは。

何者でもない人こそ投資される人
10万部。この数字は、西野亮廣氏著の新刊『北極星 僕たちはどう働くか』の初版部数である。5万部売れればベストセラーと呼ばれるビジネス書において、初版から10万部を刷るのは本来、出版社側が売れ残りの大きなリスクを抱える。しかし本作の場合は違う。ここに、西野氏が出版業界では前代未聞のカラクリを仕掛けているからだ。
「この新刊では『事業投資型クラウドファンディング』についても書いているので、せっかくならやってみせようかなって。ひとつの実験なんです」
「事業投資型クラウドファンディング」とは、投資家から資金を集めプロジェクトに投資、その利益に応じて投資家に金を分配する仕組みだ。株式購入と違い投資家は未上場の小さなプロジェクトでも簡単に投資でき、通常のクラウドファンディングとも違って分配金を得られる。今回西野氏が組み立てたプランは、この仕組みを使い集めた金で、10万部売り切れなかった場合の出版社のリスクをカバーするというもの。具体的な数字を出すならば、今回西野氏の会社、チムニータウンが出版社に保証する金額は約1億2000万円となる。
であれば出版社はノーリスクで10万部を刷ることができ、リスクを負うのは投資家なのかとも思えるが、それも違う。なぜなら本来著者が単独で受け取る印税は今回、投資家に分配されるからだ。西野氏が過去に出版した『革命のファンファーレ』が31万部、『夢と金』が24万部、絵本『えんとつ町のプペル』が80万部超えの売り上げを叩きだしてきたとなれば、本作もある程度の数字が見こまれるだろう。現に多くの予約が入り、初版10万部に加え、発売前に2万部の重版も決定している。
さらに、本書の事業投資型クラウドファンディングは受付開始わずか2時間ほどで、800人以上の投資家が参加し、目標金額を集めることに成功した。この800人の投資家たちが、自主的に本書をPRするようになれば、売り上げ部数はさらに多くなっていくと推測できる。
「事業投資型クラウドファンディングって、結構昔からある仕組みですが、まだ一般的になっていないという印象です。しかもこれは本来、何者でもない人が支援を募るためのもの。若くてお金は持っていないけれど動きだしたい。そういう人たちが、お金を託され一歩を踏みだせる。僕はこの仕組みがもっと世の中に伝わればいいなと思いまして、そのために今回、こういうものだよと自分でやってみせているんです。そしてなんだったら若い人たちには『投資される』ための信用を、これからかせいでほしいと思っているんです」
今回、西野氏は出版社側のリスクを自身で背負い、印税の多くも投資家に還元する。基本的に、本プロジェクトで西野氏に金銭的プラスはほぼない。それでも、この仕組みを多くの人が使える世の中にしたいと身を捧げる思いなのだ。

また、本書の中で、西野氏は「投資がない世界は老いる」と説く。夢をかなえるためには金が必要で、日本人の多くはまず「貯金」に励む。結果、時間がかかりすぎ、金が貯まった頃には老いて情熱も消え失せている。そんな現実を憂いた言葉だ。一方で世の中には、投資先を探している投資家は大勢いるのだから、貯金することに人生の時間を費やさず「投資される人間」になったほうがいい──。1冊を通し、さまざまな角度から西野氏はそう語っている。
「まず、暗いとダメなんですよ。『投資される人間』になるって、特別な能力がいることじゃない。実は大事なのは明るく挨拶する、っていうことなんですよ」
あまりに単純なことだが、これは西野氏がたどりついた真実だ。西野氏はこの3年間、『えんとつ町のプペル』のミュージカル化のためにアメリカのブロードウェイでさまざまな投資家に出会ってきた。日本のミュージカルや演劇は時に、赤字覚悟で公演が始まることもあるが、ブロードウェイでは資金が集まらなければ公演自体ができない。クリエイターたちへの支払いが保証されなければならないからだ。投資家のリスクは大きいが、ヒット作になれば何十年も公演が続き、利益も莫大になっていくその世界で、西野氏自身も作品に出資しながら、「投資されるための人間の素質」を見定めてきた。
「アメリカ人ってすぐ『アメージング!』とか言ってリアクション大きいし、コミュニケーションとして相手を褒める。そのなかにあって日本人はすごく暗くて、それだと相手に恐怖を与えるんですよ。アメリカ人から見たら、暗い奴って『もしかして銃持ってる?』とすら思いますよ。まずポケットから手を出して、何も持ってない、敵意がないって、明るく笑わなくてはならない。そこから始めないと、投資の対象になるかどうかの土俵にも上がれません」
しかし「投資される」ためには「人より優れたアイデア」が必要になってくるような気がするが、そのクリエイティヴィティは一体どう磨けばいいのだろうか。
「いや、もうアイデアなんてAIに聞けば出てくるんだから、そんなのはどうでもいいんです! それに最初はほとんどの事業がうまくはいきません。投資家はそんなことはわかっています。彼らはアイデアではなく『人』に投資している。一番見ているのは『やりきれる人間かどうか』です。そしてそれは『暗い』というだけで詰んでいる。暗い人間のもとには、優れたスタッフも集まらないって判断されますから」

動き続けるからモチベーションが湧く
言い換えれば、画期的なアイデアがなくても、お金がなくても、明るく魅力的な人間であれば投資家を募り夢に向かって動きだすことはできるということだ。代わりに何かを達成したいという強いモチベーションが必要なのではとも思うが、それも違うのだと西野氏は笑う。
「モチベーションが先にあるから動くんだってみんな思っているけど、そうじゃないんですよ。動き続けるからモチベーションが湧くんです。例えば、スマホをだらだら長時間見てしまうことって多いけど、別に『スマホ見るぞ』ってモチベーションがあるわけではないですよね。ただドーパミンが出てやめられないだけ。だったら他のことをやって、ドーパミンを別のところで出せばいいんですよ。で、どこで出るかわからないから、とにかくたくさん動く。情報を仕入れて、とりあえず何でもやってみる。ガチャをたくさん回しておいたら、どこかでドーパミンが出るものを見つけられると思うんです」
魅力的な人は動き続ける。動き続ければアイデアがなくても、金がなくても、モチベーションがなくても、あとからすべてがついてくる。そして動き続ける人のために事業投資型クラウドファンディングがあり、投資家がいるのだ。それを利用しない手はないだろう。さらに西野氏は続ける。
「“世界”って、僕らは、“国内戦”の上位互換だと思ってましたよね? そりゃスポーツではそうですよ。でもエンタメってそうじゃない。トニー賞は、世界一のミュージカルを決めているんじゃなくて、ブロードウェイという村の一番なんです。だから純粋に素晴らしいものをつくればブロードウェイに認められるということじゃなくて、ブロードウェイ村の人に、その作品が取り分を与えられるかどうかが重要だったんです」
これこそが、西野氏が見つけた「ブロードウェイで投資される力」なのだ。ひたすら「いいものをつくれば世界に行ける」と純粋に唱えてきた日本人にとっては、まさに目からウロコの真実。
「誰も教えてくれなかったですよね。特にエンタメで海外に出る方法なんて、教科書のどっこにも載っていないでしょう(笑)」
ものごとの指針となる。それが北極星
ビジネス書の執筆の際、自身を突き動かすものは、「怒り」だったという西野氏。『夢と金』では、金は汚いものだと説いてきた社会が「金がなくて命を落とす」人を生んできたのだと、怒りに震えて書いた。しかし今作は、純粋に伝えたいという気持ちが大きかったという。
「ブロードウェイで学んだこと、感じたことを早く伝えないと。それが自分の役目だって、そういう気持ちがすごく大きかったですね」
タイトルは「北極星」。船乗りたちが方角を確認する際の指針となる星の名だ。
「みんな何をしたらいいかよくわからない世の中で、指針になれればいい。そう思って、タイトルを決める打ち合わせの時に、パッと出てきたんです。ビジネス書のタイトルとしてはふさわしいかどうか、わかりませんが(笑)」
常に同じ場所で、ひと際強い光を放つ北極星。金、仕事、そして人生に迷った時に、この光が多くの人を導くことに、これからなっていくのだろう。
西野亮廣 近年のトピックス
2023年4月|『夢と金』発売 24万部のベストセラー

2023年の著書『夢と金』では金が汚いものとされてきた世の中で、金の教養を得る大事さを説く。富裕層向けのVIP戦略、NFTなどの仕組みを説明しながら、独自のビジネスモデルを解説。24万部のベストセラーに。
2023年10月|世界最大規模の盆踊り「えんとつ町の“踊る”ハロウィンナイト」開催

『えんとつ町のプペル』の「えんとつ町」を舞台にした、盆踊りスタイルのハロウィンイベントを開催。来場者は1万3000人を超え、盆踊りとしては世界最大規模に。配信チケットはさらに1万5000枚を売り上げた。
2024年12月|短編映画『ボトルジョージ』アカデミー賞ショートリスト入り

2024年にチムニータウンで13分のコマ撮り短編アニメーションを製作。監督は元ピクサーの堤大介氏。2025年のアカデミー賞ノミネート入りを決める最終の15作品であるアカデミー賞ショートリスト入りを果たす。
2025年2月|ブロードウェイの舞台『オセロ』共同プロデューサーに

2025年2月上演のデンゼル・ワシントン、ジェイク・ギレンホール主演の舞台『オセロ』に出資。週間興行成績3週連続1位の作品の出資者になれる人は限られている。西野氏が「ブロードウェイ村の住人」になったからこそ得た座だ。
2025年8月|制作費4億5000万円のミュージカル『えんとつ町のプペル』黒字化

KAAT神奈川芸術劇場にてミュージカル『えんとつ町のプペル』を上演。制作費は4億5000万円に上り、公演直前で赤字が判明。西野氏が1ヵ月で、講演会などを増やし、さらに人員配置の見直しなどのコストカットも行って最終的に黒字化。
2026年3月現在|ブロードウェイにてミュージカル『えんとつ町のプペル』制作中
現在、ブロードウェイにて『えんとつ町のプペル』のミュージカルを制作準備中。音楽にはホイットニー・ヒューストンの曲を手がけたフランク・ワイルドホーンが参加することが決定。西野氏もプロデューサーのひとりとして発表されている。
西野亮廣/Akihiro Nishino
1980年兵庫県生まれ。1999年漫才コンビ「キングコング」結成。これまでの著書に『革命のファンファーレ』『新世界』『夢と金』など。最新映画『映画 えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』が2026年3月27日公開。

