約5年ぶりに再開した、エイベックス会長松浦勝人による連載。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

本拠地の熱狂を再現できるか、本家を超えられるか
ドバイ、シンガポール、タイを回りフェスを見てきた。年中フェスをやっているタイは、もともとお祭りが盛んな国。水かけ祭りのような羽目を外していい伝統行事があって、それに合わせてEDMフェスも開催される。
世界で3大EDMフェスと言われているのはトゥモローランド、EDCとULTRA。アジアでは、EDCがプーケットで、トゥモローランドがパタヤで開催される。タイは、3大EDMフェスのうちの2つが開催されるアジアで唯一の国になっている。
タイのEDCになくて本家ラスベガスにあるもの
タイのEDCは今年(2026年)2回目の開催になるので、どんな感じなのだろうと思って見に行ってきた。面白かったし、楽しかったけど、やっぱり本家ラスベガスを超えることはできていないと感じた。ひょっとしたらタイならありえるかも、と期待していたんだけど。何が足りないのかと言われると説明するのは難しいけど、数値化できない熱狂度のようなものが足りていない。それは観客の多さや盛り上がり方もそうだろうし、電飾のピカピカ度などもあると思う。
例えば、本家のEDCには観覧車とかメリーゴーランドなどがあるんだけど、その大きさが桁違いなんだよね。初めて見たら、全員びっくりすると思うし、2回、3回と改めて見てもびっくりする。残念だけど、タイのEDCにはそういう驚きは感じなかった。
2014年に僕たちが日本でULTRAを開催した時に、海外のイベンターたちから「なんでEDCやトゥモローランドじゃなくて、ULTRAなの?」とよく言われた。規模で言うと、トゥモローランドやEDCのほうが大きいからだ。
僕たちがこだわったのは、本拠地での熱狂を再現できるかどうか。もし、本家のフェスより見劣りがすると言われてしまったら、観客たちは日本のフェスじゃなくて、飛行機に乗って本家のフェスに行ってしまう。
トゥモローランドやEDCは規模があまりにも大きくて、例えば代々木公園を全部借り切るとかしない限り、あの熱狂は再現できない。さらに都市型フェスになると簡単にはいかなくて、騒音の問題もあって、スピーカーの向きとか周波数を調整するとか、いろいろ工夫をする必要が出てくる。だったら、フジロックのように地方でやったり、プーケットのような住んでいる人が少ないリゾート地でやればという話になるけど、何万人が一気に移動するのだから、移動手段が問題になってくる。だいたい海外のフェスだと酔っているのか、他の理由でなのかよくわからないけど、道端に人がいっぱい倒れている。日本で開催するのだったら、そういうところまで運営が管理していかないと問題になる。
それでULTRAを日本に持ってくることにした。ULTRAだったら、日本でも同じ規模感でできるし、本家を超えることも可能になる。それがよかったんだと思う。コロナ禍で中断はあったけど、2014年から毎年来てくれる観客がたくさんいる。VVIP席に座っている人たちなんか、音楽なんかあまり聴いてないような感じで、雰囲気だけで盛り上がって楽しんでくれている。EDMが好きな人から見たら、その楽しみ方は少し違うと感じるかもしれないけど、これもフェスの楽しみ方のひとつだと思う。EDMが好きな人、羽目を外したい人、雰囲気に酔いたい人、いろいろな楽しみ方があって、ULTRA JAPANが続いている。もうEDMフェスというより、日本のお祭りに近い存在になろうとしている感じがする。
クルーズ船とフェス。日本での可能性
シンガポールでは、クルーズ船で開催されるEDMフェス「It’s The Ship」を見てきた。シンガポールから出航し、マラッカ海峡あたりまで行って戻ってくる2泊3日の航海。船内にはどう見てもEDMを聴くとは思えない高齢のご夫婦も乗っていたりするから、多分、世界を回っているクルーズ船を3日間借りて、フェスを開いているんだと思う。そういうのが嫌な人はシンガポールで観光をすればいいし、イベントは甲板上で開かれるので、客室内にいて騒音で眠れないということもない。
これも規模で驚かされた。僕が本格的なクルーズ船に乗るのが初めてということもあって、まず船の大きさにびっくりした。もう、街がまるごと海の上を移動していくような感じなんだよね。客室も普通の高級ホテルよりも広くて豪華。僕が泊まった部屋はたぶんかなりいい部屋ではあるんだろうけど、部屋の中を歩いて移動するのに疲れてしまうぐらい広い。普段は漁船にばっかり乗っているから、驚くことばかりだった。
公海に出ると、現地国の法律が適用されなくなる。カジノもオープンして、みんなが開放感に浸って楽しんでいる。プールに行けば、なんだか知らないけど大きな泡が降ってくる。そのなかでフェスが開かれる。僕の周りにもクルーズ旅行にハマっている人がたくさんいるけど、その気持ちがよく理解できた。
It’s The Shipは韓国の釜山から日本の長崎を往復するクルーズフェスもやっている。日本でももっとクルーズフェスがあってもいいと思う。海の上だから音なんかいくらでも出すことができるし。フェスだけじゃなくて、シルク・ドゥ・ソレイユのような舞台も入れたり、ライヴハウスもあったりしたら面白いし、公海上ならカジノもできるし、買い物も免税にできる。
そんな構想は前から考えていたけど、最初が大事なんだよね。最初だからとお試しレベルで始めちゃうと、海外のクルーズフェスと比べて物足りないと思われて、乗ってもらえなくなってしまう。ULTRAじゃないけど、最初から最高のものを提供しないと、後が続かなくなる。誰か本気でやってやると手を挙げる人が出てこないかな。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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