多発性骨髄腫の罹患が判明し、主治医から告げられた「余命10年」から2年あまりが過ぎた岸博幸氏のインタビュー記事をまとめてお届け! ※2024年4月掲載記事を再編。

1.余命8年になった岸博幸、時間は有限だと意識したからこそわかったこと

病気がわかってから2年、現在主に行っている治療は、月に1回病院で注射と点滴を受けることと、薬の服用だ。薬は朝5種類、夜4種類が基本だが、週1回、金曜日の夜はかなり強い薬を1種類追加で飲まないといけない。血液の数値はかなり良くなっているので、主治医からは、この治療法を当分続けると言われているけれど、薬の副作用なのか、けっこうしんどい時も多い。
ずっとというわけではないものの、身体がだるくて、起き上がれなかったり、長時間のミーティングが辛かったりという感じだ。運動も、本来なら週2回は走ったり、筋トレしたりしたいけれど、体調の関係で、なかなか実行できない。疲れを押して走った時に股関節に痛みが出たから、やはり無理は禁物なのだろう。
そんな状態を2年ほど続けてきたから、最近は、自分の体調との付き合い方がだいぶわかってきた。しんどい時は無理をせず、休養をとって休む。僕は相当な仕事人間だったけれど、そう割り切れるようになったのだ。病気になる前は平均4、5時間だった睡眠時間も、今は6、7時間とるようにしているし(そうしないと体が辛い)、東京での仕事に疲れたら、ひとりで長野の別荘に出かけることもある。
暖炉の火を眺めながら、酒を飲みながらボーッと過ごすだけだけど、その時間がとても心地よい。もっとも酒は2杯が限度。以前に比べたら、我ながら随分飲めなくなったものだ。タバコも、昨年末、体調を崩してからは1日にせいぜい5本程度に減ってしまった。この状況に、家族は「これなら禁煙できるのでは?」と言うけれど、それだけは絶対ありえない。
最近は、コーヒーの自家焙煎にもハマっている。コーヒーはもともと健康飲料だが、焙煎して数日で酸化が始まり、そうなるとたくさん飲むのは身体によくないらしい。だから、生の豆を買い、自分で焙煎することにした。便利な世の中で、今は手軽に焙煎できる専用キットが売られているので、それを使っている。
自分の好みの深さに焙煎した豆をミルで挽き、ゆっくりと淹れたコーヒーは、驚くほどうまい。それに、この一連の作業を行う時間が、実に豊かなのだ。常に突っ走ってきた自分が、こんなにもゆったりした時間の過ごし方をするなんて、我ながら意外だが、これも病気になった功名かもしれない。
2.岸博幸、余命8年を迎えて思うこと「喧嘩ができない政治家が日本を停滞させている」

体がしんどくて、思うように動けなくなってからは、仕事をセーブするようになった。疲れるのは心身共に良くないという理由もあるが、体が動ける時間を有意義に使いたいという気持ちもあるためだ。テレビ出演はレギュラー番組に絞り、講演会も、地方活性化といった僕のライフワークに関係するもの以外は、受けないようにしている。
仕事を減らした分、今積極的に取り組んでいるのは、勉強することと考えること。読みたくても時間がなくて手つかずになっていた本を読みまくるなど、知識欲が高まっていて、その延長で考える時間も増えた。そこで、改めて沸いてきたのが、世の中、とくに政治に対する怒りだ。
なんといっても政治家の劣化がひど過ぎる。国民民主党は、「もっと手取りを増やす」と声高に叫び、所得税の課税最低ラインを178万円まで引き上げる案などで人気を集めているが、手取りを増やすなら、現役世代の社会保険料を下げた方が効果は大きい。だけど、それは強調せず今度は消費税を5%に減税と言い出した。減税が手取りの増加に効果あるのは否定しないし、それが現役世代に受けているのも分かるが、財源も示さずちょっと無責任すぎる。
れいわ新鮮組も、「過去30年間で日本が貧乏になったのは消費税のせい」と、消費税廃止を訴えているが、経済政策に長年携わってきた僕からすれば、お門違いだ。立憲民主党については、もはや論外。過去を鑑みても、政権運営するだけの力がないのは明白だろう。
3.余命10年から2年経過。岸博幸「人生の最後は“才良”でなく“狂愚”になる」

僕は、江戸時代末期の思想家、吉田松陰を心から尊敬している。その教えが好きだ。なかでも大切にしているのが、「狂愚まことに愛すべし、才良まことに虞るべし、諸君、狂いたまえ」という言葉。ご承知のように、狂気にも思えるほどの情熱を持って行動を起こすことが大事で、たとえ才気があっても、考えているだけではダメだという意味である。
今の政治家や官僚は、頭の中で考えるばかりで、まるで行動しない。それが、日本がどんどん衰退し、若者が夢や希望を持てないような、どうしようもない国になってしまった理由のひとつだと、僕は考えている。どんなに立派なことを説いても、実行に移さなければ、何も変わらないのだから。
日本にはポテンシャルがあるし、この先絶対に復活できると、僕は思っている。ところが、残念ながら、社会の仕組み、つまり政治が、そのポテンシャルを活かす方向に進んでおらず、歯車がかみ合っていないのが現状だ。官僚として20年間、日本の政策づくりに携わり、最後の6年間は政権内部で仕事をしてきた身としては、この状況に忸怩たる思いを抱いている。
かくいう僕も、官僚を辞めてからの19年間は、「行動したか?」と問われれば、YESとは言い難い。地方活性化に尽力はしてきたけれど、それだけでは、国全体の復活にはつながらない。評論家として国の政策にダメ出しはしてきたものの、それこそ、「才良まことに虞るべし」なのではないか。病気がわかり、余命を意識するようになってから、そんなことを考えるようになった。

多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』
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余命10年と告げられた岸博幸が、治療や入院中の様子をリアルに綴る一方、日本が抱える問題の元凶を分析し、改善策を提案。リタイア世代や子育て中の親世代、若い世代に向けたメッセージも収録。
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