「しんどくて動けないこともある」など、残された時間が有限であることを強く意識するようになった岸博幸氏。それに伴い変化してきた仕事に対する考え方、スタンスについて語ってもらう。

考える時間が増えたことで沸騰した政治への怒り
体がしんどくて、思うように動けなくなってからは、仕事をセーブするようになった。疲れるのは心身共に良くないという理由もあるが、体が動ける時間を有意義に使いたいという気持ちもあるためだ。テレビ出演はレギュラー番組に絞り、講演会も、地方活性化といった僕のライフワークに関係するもの以外は、受けないようにしている。
仕事を減らした分、今積極的に取り組んでいるのは、勉強することと考えること。読みたくても時間がなくて手つかずになっていた本を読みまくるなど、知識欲が高まっていて、その延長で考える時間も増えた。そこで、改めて沸いてきたのが、世の中、とくに政治に対する怒りだ。
なんといっても政治家の劣化がひど過ぎる。国民民主党は、「もっと手取りを増やす」と声高に叫び、所得税の課税最低ラインを178万円まで引き上げる案などで人気を集めているが、手取りを増やすなら、現役世代の社会保険料を下げた方が効果は大きい。だけど、それは強調せず今度は消費税を5%に減税と言い出した。減税が手取りの増加に効果あるのは否定しないし、それが現役世代に受けているのも分かるが、財源も示さずちょっと無責任すぎる。
れいわ新鮮組も、「過去30年間で日本が貧乏になったのは消費税のせい」と、消費税廃止を訴えているが、経済政策に長年携わってきた僕からすれば、お門違いだ。立憲民主党については、もはや論外。過去を鑑みても、政権運営するだけの力がないのは明白だろう。

多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』
¥1,760/幻冬舎
余命10年と告げられた岸博幸が、治療や入院中の様子をリアルに綴る一方、日本が抱える問題の元凶を分析し、改善策を提案。リタイア世代や子育て中の親世代、若い世代に向けたメッセージも収録。
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いい子ちゃんの集まりになり下がった自民党
何より許せないのは、自民党の体たらくぶりだ。高額療養費制度の自己負担上限額を引き上げようとして大バッシングを受け、引っ込めたのは記憶に新しいが、これも、自民党が劣化した証拠。社会保険料をこれ以上高くしないためにも、支出を抑えるべきではあるけれど、よりによって命に一番近い制度である高額療養費制度に最初に手をつけるなんて、あり得ない。
役所の案を鵜呑みにしたからだろうが。自民党は国民の実態にこれほど無頓着になったのかと、呆れ果てている。また、野党がSNSをフル活用して耳障りの良い減税を叫んで支持率を上げているのに、それに対して、同じようにSNSをフル活用してちゃんと反論することさえやっていない。やる気があるのか疑わしくなってしまう。
自民党は本来、組織内でいろんな突き上げがあり、喧々諤々の議論をやってきた気概のある党だった。「自民党をぶっ壊す!」と訴えて誕生した小泉政権は、その一例だ。僕は2001年から2006年まで、小泉政権で政策を担当していたから、それを“体感”している。僕自身、あの6年間は小泉さんという強烈なリーダーの下で、役所や政治家相手に毎日死に物狂いでやりあってきた。

1962年東京都生まれ。1986年に一橋大学を卒業し、通商産業省(現経済産業省)に入省。小泉内閣で竹中平蔵大臣の秘書官等を務めた後、2006年に経産省を退官。現在は慶應義塾大学大学院教授や企業・団体の社外取締役等を務める傍ら、メディアでも活躍。2023年夏、多発性骨髄腫罹患を公表。2024年春、“人生の期限”を意識したことで変わった人生観、仕事観などを綴った『余命10年』を上梓。
ところが最近は、細かい部分の批判はしても、党内の上層部や主流派に対して正面切ってNOを突きつける政治家がいない。代表的なのが、石破総理に対する姿勢。石破さんに不満を持っていても、せいぜいXでつぶやいたり仲間内で勉強会をやる程度で、本人に直接ぶつけて、やりあうような人物は皆無。
どの政治家も、おとなしくて従順な”いい子ちゃん“になってしまった。こんな状況を続けていては、日本の経済も社会も、いっこうに良くならない。若者たちが、未来に希望を見いだせず、刹那的な生き方をしているのも無理がないと思う。そんな国にしてしまったのは、僕ら大人に責任がある。それを痛感しているし、何か行動を起こさなくてはいけないと、焦燥に駆られている。
※次回に続く