アスリート、文化人、経営者など各界のトップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベント「Climbers(クライマーズ)」。その第8弾が、2025年5月8日、9日の2日間にわたって開催され、ビジネスパーソンを大いに熱狂させた。BMSG代表取締役CEOのSKY-HI(日髙光啓)さんによる特別講義は、Climbersのテーマ「挑戦者による壁の乗り越え方」を受けて、「まだまだ乗り越える壁がたくさんある自分ではありますが、一方でこれまで乗り越えた壁が多いのも事実ですので、今日は皆様に何か山を登る、例えば“ピッケル”のようなものでも持ち帰ってもらえれば」と始まった。

才能の見つけ方
乗り越えなければならない壁は、誰の前にも現れます。その壁を乗り越えるために、「あなたの才能」がピッケルになります。その才能とは先天的な才能だけではなく、後天的に磨き上げることで発揮できるようになる才能も多くあります。
その後天的才能とは何なのでしょうか。どうすれば見つけられるのでしょうか。
まず着目したいのは、生きている中で他人から指を差されるものや、自分が持つコンプレックスというものです。こうしたものは一見ネガティブなものに感じられますが、それらはただ、平均から外れているだけ。世間の人々が言う「普通」から外れているだけで、「特徴」と言えるものなのです。
私は経営者のほかに、ラッパー、プロデューサーとしても活動しています。アーティストとしてのキャリアは20年以上。それなりに結果と呼べるものをいくつかは残すことができたと思っていますが、実は私、生まれつきの先天性難聴で左耳が聞こえません。
左耳が聞こえないことに気づいたのは思春期の頃。ヘッドホンで音楽を聴いていた時です。ショックを受けましたね。その後、よりによって音楽の道に進もうとするのですが、当然その悩みはついてまわりました。それを知った父親がこう言いました。「お前、音楽の道に進みたいんだろ。左耳が聞こえないということは、他の人とは違う聞こえ方ができるってことじゃないか」と。
左耳が聞こえないのは相当不便。音の聞こえ方も他人とは違う。でも、父親との会話で、「これが俺の個性なんだ」と、気持ちを昇華させることができました。それから本格的に音楽を作り始めた。今では「あなたがつくるサウンド、特徴的な鳴り方をするよね」と言われることもよくあります。先天的な難聴を、後天的な才能に置き換えることができたんですよ。
音楽の道に進み、いろいろなことをやりました。ラップ、ロックバンド、事務所の練習生、ダンス&ボーカルグループ。どんなジャンルも興味を持って取り組んでいましたが、批判されることも多かったですね。ラップをやると「歌って踊るアイドルのクセに」と言われるし、ロックフェスに出ると「アイドルでしょ、ここは場違い」と非難される。日本では「歌って踊る人はこんな感じ、ラッパーといえばあんな感じ」と型が決まり過ぎている。
型にはまらない人は、なかなか世に出られない。世に出るためには、そのジャンルにふさわしい型で収まらなければならないんですよ。自分は運良く生きながらえましたが、先天的な才能が自分よりも「あるなぁ」と感じていた人たちが、キャリアを続けられなくなっていく姿をこれまでたくさん見てきました。
日本にはあまりにも才能の出口が少な過ぎる。うまく既存の出口に適応させてキャリアを形成させていくアーティストもいますが、そうなれない人も当然たくさんいます。特徴、個性、才能があるがままに咲ける場所を作りたい。そうした思いから2020年に立ち上げたのが、私が代表取締役CEOを務める株式会社BMSGです。
3つ目のボーイズグループをつくる意義
BMSGでは現在、BE:FIRSTやMAZZELに続く3組目のボーイズグループ結成へ向けたオーディション『THE LAST PIECE』を開催しています。
なぜ、オーディションを開催するのか。今、日本は若者が夢を見づらい時代を迎えています。少子高齢化が進み、かつて若者の街だった渋谷や池袋でも、若者がマジョリティを獲ることができません。若者はネット上に帰属していくようになり、インプを集める冷笑系や迷惑系などが娯楽になっています。
そうした若者たちに必要なのは「夢の見方」。夢をかなえるためには、正しい順番があり、正しい準備が必要です。私は正しい夢の見方を伝えながら、10代の才能たちとともに、世界で一番自由で大きな夢を見ようと思っています。
個人の「特徴」も見方を変えれば「個性」となり、個性を磨けば山を登る「才能」という「ピッケル」になる。そして、「夢」も「正しい見方」がわかれば、目的地へ導く「コンパス」となります。
あなたのピッケルの元となる特徴とは、自分の中の黒歴史やコンプレックスの中にあるのかもしれません。この機会に、閉じていた蓋があれば開けてみてほしい。頭の奥底に封じ込めていた記憶があれば引き出してほしい。みなさまの壁を乗り越えるためのヒントになればうれしいです。
才能を殺さないために。
あなたの才能も殺さないでください。
SKY-HI
1986年千葉県生まれ。ラッパー、トラックメイカー、プロデューサーなど幅広く活動。2020年には「才能を殺さないために。」をスローガンに、マネジメント/レーベル「BMSG」を立ち上げ、代表取締役CEOに就任。