8月13日、若き才能たち「BE:FIRST」が、世界を目指すボーイズグループとして発進した。彼らを誘ったのは、アーティストであり、プロデューサーでもあるSKY-HI。マネジメント会社BMSGを設立し、社長でありながら直接指導し若者たちを育成する。原石を強烈な輝きを放つ宝石へと磨き上げる、“SKY-HIの思考”に迫る。ゲーテ10月号の表紙を飾ってくれたSKY-HIのインタビューをまとめた本誌は完全保存版。
「言語化して伝えることで成長を加速させられる」
4月から8月13日まで、日本テレビ系列『スッキリ』とHuluとの連動企画で放映・配信された、ボーイズグループ発掘オーディション番組、『THE FIRST-BMSG Audition 2021-』。沼にハマる“ザスト民”という言葉が誕生し、デビュー前にも関わらず最終審査に残ったメンバーのパフォーマンスはYouTubeでの総再生回数が3000万回を超えるなど一大センセーションを巻き起こした。その仕かけ人が、超人気グループAAAのメンバーであり、ラッパー、シンガー・ソングライター、音楽プロデューサーとして活躍するSKY-HIだ。
昨年9月にマネジメント/レーベル会社BMSGを起業し、自らアーティストとして所属する一方、経営者として、私財を投じて1年がかりの大規模オーディションを主催。課題曲の段階から、BTSなど有名アーティストのプロデュースを手がけるMatt Cab&MATZやm-floの☆Taku Takahashiがトラックを提供するなど、大物たちが惜しみなく力を貸す。SKY-HIの世界を見据えたプロジェクトに音楽業界全体が動き始めた。
応募は昨年9月にスタートし、書類審査を通過した13歳から25歳までの231名が、リモートでの2次審査に進んだ。そこで合格した30名が、東京で2日間にわたりパフォーマンスを披露。この3次審査で15名にまで絞られた候補者たちは、4次審査の富士山合宿に参加。作詞作曲、振付、演出などクリエイティヴ力も含め、多角的に実力を発揮した10名が最終審査へ。そして、8月13日、デビューの切符を摑んだメンバーが発表された。
夢を追う若者たちの情熱、個性と個性のぶつかりあい、成長、苦悩、葛藤、友情、涙、笑顔。台本なしの“本気のドラマ”は、観る者の心を強く揺さぶった。
「僕自身、オーディションを通じて、魂が燃えている瞬間を何度も味わい、彼らと人生を共有していると感じました。あんな気持ちは、生まれて初めて」
もっとも、SKY-HIがつくろうとしたのは、誰が合格し、誰が脱落するかを楽しむサバイバル番組ではなく、「日本から世界を目指せるボーイズグループや、そのシステム」。企画は3年ほど前から考えており、BMSG起業と同時に、オーディションを主催することも発表した。それも、YouTubeで配信したSKY-HIの実家からのオンラインライヴで、番組になることは伏せて、だ。
「結果的に、人生を賭(と)して本気で音楽を生業にしたいと思っている若者だけが集まってくれました。もしも放映されることを発表していたら、また違う思惑を持った方たちからの応募があったかもしれません」
本気と本気がぶつかりあえば、自ずと輝く。そう信じていたと言うが、そこには自身も含まれる。オーディション開催や番組制作費用として、自腹で1億円を出資。テレビ局に企画を持ちこみ、番組化を実現させたのだ。
Be My Self Group、掲げるスローガンは「才能を殺さない為に。」
「合宿費やスタッフの人件費など、実際は、1億円では収まらなくて(苦笑)。自分のお金はもうほとんど手元にありません。正直、怖いですよ。でも、集まってくれた彼らは、“遅れて生まれてきた自分”。だから僕も、人生を賭して本気で臨んでいます」
彼らは遅れて生まれてきた自分。そう表現する裏には、SKY-HIが抱いてきた日本の音楽業界への違和感や危機感がある。
「日本には、すごい才能を持った若者たちが大勢います。ただ、その才能を発揮できる場が圧倒的に少ない。たくさんのダイヤモンドが眠る鉱山がそこにあるのに通り過ぎている、そんな状況に危機感を覚えます」
プロへの扉は、数が限られているうえに形がきっちりと決まっていて、それに当てはまらなければ、通過することは許されない。ルックス、時代が求める雰囲気、キャラクター。音楽性とは別のところで切り捨てられてきた才能もあれば、本来の才能を、業界や世間が求める形にゆがめ、苦しんできた者もいる。
「オーディションに参加してくれた彼らが抱いているもどかしさや苛立ちは、『わかる』というよりも、『あぁ、オレだ』って」
アイドルグループAAAのメンバーでありながら、ラッパーとしてMCバトルなどに参加、さらに作詞作曲も手がけ、アーティストに提供するなど、多方面で活動をしてきたSKY-HI。それを、「アイドルらしくない」、「ラッパーらしくない」と、時に非難され、時に揶揄(やゆ)され、苦悩した過去を持つ。ただ、思うままに自分の愛する音楽を表現しているだけなのに、だ。
「昔の自分が苦しんでいるのを見ている。そんな感覚に近かったんです。自分では、活路を見いだそうともがいてきたつもりだけど、いまだ同じ悩みを抱える人がいるということは、自分の後に道ができていなかったということ。だからこれは、僕がやるべきことなんです。彼らを救うことは、自分が抱いてきたネガティブな感情へのアンサーにもなると思い、始めました」
BMSGという社名は、Be My Self Groupの略であり、掲げるスローガンは、「才能を殺さない為に。」。アーティストの才能をそのまま受け入れ、伸ばし、活かす。それが、SKY-HIが求め続けてきた答えなのだ。
自分自身の役割はみんなをやる気にさせること
こうした強い想いを込めて立ち上げたオーディションは、「Creative First・Quality First・Artisism First」をステートメントに、審査を実施。そこで話題になったのがSKY-HIの“育成力”だ。第2次審査では、応募者の歌やダンスに合わせて楽しげに身体を揺らし、「会えて嬉しかった」と感謝を伝え、第3次審査で脱落した15人には、誇るべき点と技術的な課題を丁寧に説明。そして最後に、「素晴らしい才能を見せてくれました。自分を誇らしく思ってください」と加えた。「ただ練習量が足りなかった人もいれば、今回の企画に“間に合わなかった”だけの人もいます。この結果が、人生においてプラスかマイナスになるかなんて、死ぬまでわからない。そもそもオーディションを受けようと決断し、行動したこと自体が素晴らしいことだと思います」
不合格は、あくまでも“その時点”での結果であり、自分を否定し、夢をあきらめる必要はない。SKY-HIのポジティブなメッセージは、若者たちを改めて奮い立たせた。
「これは、オーディションであると同時に育成プロジェクト。みんなを『成長するぞ!』という気持ちにさせるのが、僕の役割だと思っています。ただ前向きな言葉をかけるよりも、一番頑張っているであろう点をすくいあげ、『ちゃんと見ているよ』と伝えることのほうを大切にしています。それが、信頼関係を築くベースになるから」
しっかり“見る”には、「相手への愛情」と「見えていない部分があることを自覚することが必要」だと、SKY-HIは言う。
「どんなに楽しそうに見えても、きっとそれだけではないはず。眉や目の動きなども観察し、『自分にはこう見えたけれど、違っていたら、遠慮なく言ってね』という空気感をつくることも大切だと思っています」
SKY-HIが信頼関係の構築にこだわる理由は、「才能を殺さない」ため。審査する側とされる側という立場の違いは、忖度(そんたく)や遠慮、萎縮を生み、媚(こび)や妥協につながる危険性をはらんでいる。だからこそ、自分の言葉が唯一の正解にならないよう、関係を築いたうえで、言葉を選び、丁寧に伝えてきた。
「すぐ改善できそうな問題点は早めに指摘しましたが、修正に時間がかかりそうな課題は、信頼関係ができてから、時間をかけて話し合うよう心がけました」
インタビュー後編はこちら!
※こちらのインタビューをまとめたゲーテ10月号(表紙・SKY-HI)は完全保存版です。