アスリート、文化人、経営者など各界のトップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベント「Climbers(クライマーズ)」。その第8弾が、2025年5月8日、9日の2日間にわたって開催され、ビジネスパーソンを大いに熱狂させた。今回はアスハPP代表取締役の諏訪道彦さんによる特別講義を一部抜粋して掲載。すべての講義を聴くことができるアーカイブ配信はこちら。※2025年5月12日〜5月30日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内下の「無料視聴登録はこちら」より。

「名探偵コナン」はフィクションとリアルの融合
2025年4月に劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』が公開され、わずか19日間で興行収入100億円を突破しました。この作品は劇場版28作目になり、26、27、28と3作連続での100億円超え。僕は「名探偵コナン」の映画を第1作から23作目までプロデュースしましたが、95億円が最高でした。100億円は届きそうで届かない大きな壁だったので、「ものすごいことだ」と驚いています。
さて、そんな「名探偵コナン」のテレビアニメ版と劇場版がどのように生まれたかについてお話したいと思います。僕は1983年に読売テレビ放送に入社し、2年後に東京でアニメ番組を担当することになりました。もともと僕はマンガの“読みオタ”で、入社試験の面接でも「マンガが好き」と言い切って入社しましたから、自動的に異動になったという感じです。1986年1月放映開始の「ロボタン(リメイク版)」でプロデューサーデビュー。それから「ボスコアドベンチャー」を経て、1987年に「シティーハンター」を担当しました。
90年代になって、1992年に講談社「少年マガジン」で「金田一少年の事件簿」が始まります。この作品が超大ヒット。ドラマ化され、実写映画化され、アニメ映画も作られた。本格的なミステリーというところで、大人の読者や視聴者をつかむことができたのでしょう。
それに対抗するように1994年1月にスタートしたのが、小学館「少年サンデー」の「名探偵コナン」です。作者の青山剛昌先生は「YAIBA」というアクション漫画を描いていましたが、実は大のミステリーファン。特にシャーロック・ホームズが大好きなんです。「名探偵コナン」は本格ミステリーとして魅力的な作品ですが、薬を飲まされて体が縮むという奇想天外な発想もおもしろい。現実的ではないフィクションとミステリーのリアル感の融合が、「名探偵コナン」最大の魅力です。
長く愛され続ける「フォーマット」
1996年1月、テレビアニメ版の「名探偵コナン」が始まりました。プロデューサーとして一番頭を悩ませ、こだわって作りあげたのが「フォーマット」です。このフォーマットは1100話を超えた現在も守り続けられています。
「名探偵コナン」のフォーマットについて解説しましょう。番組が始まるとまず15秒の「アバン」が流れます。アバンとは本編の前口上のようなもので、コナンでいうと「たった一つの真実見抜く、見た目は子供、頭脳は大人、その名は名探偵コナン」で始まる部分です。この15秒のアバンが終わると同時にオープニング曲の歌詞がスタート。ですから、B’zやZARD、倉木麻衣ら、オープニング曲を担当するアーティストには「イントロ15秒」という条件で曲を発注しています。
オープニング曲が終わると、スポンサーの紹介。これは第1回から名探偵コナンの声で進めています。CMが終わるとサブタイトル。「ミステリー城へようこそ」というイメージを伝えたいと思い、ドアが開いて、タイトル文字が現れるスタイルを採用しました。前半終わりのアイキャッチにもドアの演出を用いています。
エンディングでは「ネクスト コナンズ ヒント」に力を入れています。番組の最後にちょっとした楽しみを加えるのはよくある手法ですが、とても大事なもの。このエンディングの金字塔といえば、サザエさんの「じゃんけん」。あれは、すごいですよ。コナンもその域に少しでも近づきたいという思いで、エンディング作りに取り組みました。
こうしたフォーマットを作るという考え方を、劇場版にも移植しています。映画のオープニングはほぼ「俺は高校生探偵、工藤真一」というセリフ。シリーズとして継続していくには、フォーマットが大切なんです。
毎週放送してるテレビアニメ版が視聴者にしっかり届き、年に一度の劇場版がお祭りのように受け入れられている。その2つの「名探偵コナン」がリズミカルに重なり合い、相乗効果を生み出しているのがヒットの最大の理由だと感じています。
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2025年5月12日〜5月30日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内下の「無料視聴登録はこちら」より。
諏訪道彦/Michihiko Suwa
1959年愛知県生まれ。大阪大学工学部卒業後、1983年読売テレビに入社。「11PM」などのディレクターを務めた後、東京編成部へ異動。1996年「名探偵コナン」を企画プロデュース。他にドラマ「悪女」や、「シティーハンター」「YAWARA!」「金田一少年の事件簿」「犬夜叉」など多数。2013年劇場版「名探偵コナン」シリーズで藤本賞特別賞受賞。現在アスハPP代表取締役、大阪芸術大学教授。